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61 はじめまして?
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モルゲンロートの王宮に私達が到着すると、出迎えた貴族達は膝を折って深々と頭を垂れた。
「お待ち申し上げておりました、フランツェスカ第一王女殿下」
「……待っていた? それ、逆ではなくて?」
「いえ、私共はフランツェスカ様に北の前線で息子を救っていただいた恩がございます」
北の前線には騎士や軍人だけでなく、数多くの貴族家の子弟達も多く出征した。
私が前線に出されるまでの間に、どれだけ多くの命が失われたのか考えただけで胸が痛い。
「そういう事であれば、どうぞ頭をお上げくださいませ」
困惑しつつそう告げると、貴族達は顔を上げた。
どの顔にも、作り物ではない感謝の色が浮かんでいる。
「フランツェスカ様が北の前線で指揮を執っていなければ、今頃どうなっていたことか……」
「……私がした事は、そんな大したことではありません。ただ生き延びる事に必死だっただけ」
「いいえ、フランツェスカ様。貴女様がいなければ我が子は今ここにはおりません。我々は、感謝してもしきれぬのです」
貴族達から真剣な顔で言われて、私は息を飲んだ。
こんな風に感謝を告げられる事など今までなかったから。
「そう、でしたか」
「それなのに我々は貴女様がレナード・リヒターに王位を奪われるのをただ指を咥えてただ見ていることしかできなかった。本当に申し訳なく思っております、ですから今回の件……我々は大人しく受け入れる所存でございます」
私から王位を奪ったのは、レナードではなく。
実際には実の父親。
だからこの者達が謝るのは違うように思う。
「謝らないでください。その全ては企てた者達と、それに最後まで気付けなかった私の責任」
「フランツェスカ様、ありがとうございます……」
――そして。
貴族達がその場を去った、瞬間。
王宮の大扉が勢いよく開き、この世の者とは思えないような輝きを持つ青年が飛び出してきた。
「――フランツェスカ!」
突然現れた青年は、私の名前を呼びながら信じられない速度で駆け寄ってきて。
軽やかに膝をつき、私の手の甲に唇を落とした。
「え……」
「はじめまして、フランツェスカ。手紙では何度も話していたけれど、実際に会うと……やっぱり君は想像していたよりずっと……美しいね」
私は目をぱちぱちさせる。
なにが起きているのか理解できない。
初対面のはずなのに、なぜこの青年は私の名前を親しげに呼ぶのか。
けれど、よくよく青年の顔を見てみると。
……私と同じ紫の瞳だった。
「もしかして……アクセル?」
「うん、そうだよ。ずっと君に会いたかった」
そこにいたのはアクセル・フォン・クーゲル。
帝国の皇太子、私のいとこでした。
手紙ではやり取りしたことがあるのですが、会うのは今日が初めて。
「あの、アクセル? そろそろ手を……放していただけませんか……?」
「どうして? せっかくフランツェスカに会えたのに」
流石は帝国の皇太子、人の言うことを聞きません。
今は亡きお母様も誰の指図も受けませんでした。
そして顔も規格外。
銀糸の髪が光を反射してキラキラしているし、瞳は宝石みたい。
衣装はフリードの何倍も煌びやか。
もうここまで来ると人間かどうかすら怪しい。
その時、背後から冷たい視線を感じた。
それはゆっくりと、音もなく。
でも明らかな圧を感じる。
「……フランツェスカは私の妻です。帝国の皇太子、今すぐその汚い手を放しなさい」
「それがなに? どうして私がシュヴァルツヴァルトの王太子の命令を聞かなきゃいけないの?」
……あれ?
もしかして二人は知り合い……?
「あの、もしかして……お二人はお知り合いだったり……?」
「私とシュヴァルツヴァルトの王太子は、ただの知り合いじゃなくて友達だよ、フランツェスカ」
「……彼とは何度か外交の場で顔を合わせたことがある程度で、ただの顔見知りです」
全然違う答えが両方から返ってきました。
どちらなのでしょう。
「私の立太子の式典にも、帝国にお祝いにきてくれたじゃないか」
「あれも公務で参列したに過ぎません。誤解を受けるような言い方は止めていただきたい」
アクセルの立太子が行われたのは確か五年前、私にも帝国から招待状が送られてきていましたがクソ親父が許可しませんでした。
……まだ幼いからと。
「相変わらず、君は冷たい男だね……」
「……というか、いい加減フランツェスカから手を放してください。いくら親戚でもその触れ合いは度を越しています」
そう言ってフリードは、アクセルから私を引き離した。
「嫉妬に狂う男って、ちょっとかっこ悪いよ? 君は心が狭いなぁ……」
「心が狭くて大いに結構。妻を守るのが夫の役目ですので」
そうやってどっちも引かず、言い合いを繰り返すフリードとアクセル。
二人が知り合いだったなんて、全然知らなかった。
……でもそういえば、フリードに初めて会った時。
私の瞳の色を見て驚いていたことを、ふと思い出した。
あれはアクセルの事をフリードが知っていたから。
いまの帝国でこの紫の瞳を持つ者は、皇帝と皇太子のアクセルしかいません。
だからあの時フリードは、どこか含みのある言い方をしたのでしょう。
モルゲンロートの王宮に私達が到着すると、出迎えた貴族達は膝を折って深々と頭を垂れた。
「お待ち申し上げておりました、フランツェスカ第一王女殿下」
「……待っていた? それ、逆ではなくて?」
「いえ、私共はフランツェスカ様に北の前線で息子を救っていただいた恩がございます」
北の前線には騎士や軍人だけでなく、数多くの貴族家の子弟達も多く出征した。
私が前線に出されるまでの間に、どれだけ多くの命が失われたのか考えただけで胸が痛い。
「そういう事であれば、どうぞ頭をお上げくださいませ」
困惑しつつそう告げると、貴族達は顔を上げた。
どの顔にも、作り物ではない感謝の色が浮かんでいる。
「フランツェスカ様が北の前線で指揮を執っていなければ、今頃どうなっていたことか……」
「……私がした事は、そんな大したことではありません。ただ生き延びる事に必死だっただけ」
「いいえ、フランツェスカ様。貴女様がいなければ我が子は今ここにはおりません。我々は、感謝してもしきれぬのです」
貴族達から真剣な顔で言われて、私は息を飲んだ。
こんな風に感謝を告げられる事など今までなかったから。
「そう、でしたか」
「それなのに我々は貴女様がレナード・リヒターに王位を奪われるのをただ指を咥えてただ見ていることしかできなかった。本当に申し訳なく思っております、ですから今回の件……我々は大人しく受け入れる所存でございます」
私から王位を奪ったのは、レナードではなく。
実際には実の父親。
だからこの者達が謝るのは違うように思う。
「謝らないでください。その全ては企てた者達と、それに最後まで気付けなかった私の責任」
「フランツェスカ様、ありがとうございます……」
――そして。
貴族達がその場を去った、瞬間。
王宮の大扉が勢いよく開き、この世の者とは思えないような輝きを持つ青年が飛び出してきた。
「――フランツェスカ!」
突然現れた青年は、私の名前を呼びながら信じられない速度で駆け寄ってきて。
軽やかに膝をつき、私の手の甲に唇を落とした。
「え……」
「はじめまして、フランツェスカ。手紙では何度も話していたけれど、実際に会うと……やっぱり君は想像していたよりずっと……美しいね」
私は目をぱちぱちさせる。
なにが起きているのか理解できない。
初対面のはずなのに、なぜこの青年は私の名前を親しげに呼ぶのか。
けれど、よくよく青年の顔を見てみると。
……私と同じ紫の瞳だった。
「もしかして……アクセル?」
「うん、そうだよ。ずっと君に会いたかった」
そこにいたのはアクセル・フォン・クーゲル。
帝国の皇太子、私のいとこでした。
手紙ではやり取りしたことがあるのですが、会うのは今日が初めて。
「あの、アクセル? そろそろ手を……放していただけませんか……?」
「どうして? せっかくフランツェスカに会えたのに」
流石は帝国の皇太子、人の言うことを聞きません。
今は亡きお母様も誰の指図も受けませんでした。
そして顔も規格外。
銀糸の髪が光を反射してキラキラしているし、瞳は宝石みたい。
衣装はフリードの何倍も煌びやか。
もうここまで来ると人間かどうかすら怪しい。
その時、背後から冷たい視線を感じた。
それはゆっくりと、音もなく。
でも明らかな圧を感じる。
「……フランツェスカは私の妻です。帝国の皇太子、今すぐその汚い手を放しなさい」
「それがなに? どうして私がシュヴァルツヴァルトの王太子の命令を聞かなきゃいけないの?」
……あれ?
もしかして二人は知り合い……?
「あの、もしかして……お二人はお知り合いだったり……?」
「私とシュヴァルツヴァルトの王太子は、ただの知り合いじゃなくて友達だよ、フランツェスカ」
「……彼とは何度か外交の場で顔を合わせたことがある程度で、ただの顔見知りです」
全然違う答えが両方から返ってきました。
どちらなのでしょう。
「私の立太子の式典にも、帝国にお祝いにきてくれたじゃないか」
「あれも公務で参列したに過ぎません。誤解を受けるような言い方は止めていただきたい」
アクセルの立太子が行われたのは確か五年前、私にも帝国から招待状が送られてきていましたがクソ親父が許可しませんでした。
……まだ幼いからと。
「相変わらず、君は冷たい男だね……」
「……というか、いい加減フランツェスカから手を放してください。いくら親戚でもその触れ合いは度を越しています」
そう言ってフリードは、アクセルから私を引き離した。
「嫉妬に狂う男って、ちょっとかっこ悪いよ? 君は心が狭いなぁ……」
「心が狭くて大いに結構。妻を守るのが夫の役目ですので」
そうやってどっちも引かず、言い合いを繰り返すフリードとアクセル。
二人が知り合いだったなんて、全然知らなかった。
……でもそういえば、フリードに初めて会った時。
私の瞳の色を見て驚いていたことを、ふと思い出した。
あれはアクセルの事をフリードが知っていたから。
いまの帝国でこの紫の瞳を持つ者は、皇帝と皇太子のアクセルしかいません。
だからあの時フリードは、どこか含みのある言い方をしたのでしょう。
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