【完結】虐げられる令嬢は一夜の過ちを隠す。溺れるような愛を君に。

千紫万紅

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1 出来損ない



「お前さえいなければ」

「魔法も満足に使えない出来損ない」

「役立たず、醜女」

 日々絶え間なく浴びせられる侮辱的な言葉と、振るわれた続けた暴力の数々。

 その全てが他人事のように思えるようになった頃。

 その茶番劇は王城で開かれた華やかな夜会で、唐突に幕が上がってしまいました。

 それは悲劇でも、ましてや喜劇ですらない。

 いつかそうなるとわかっていた、結末まで簡単に予想できるツマラナイ茶番劇。

「お前みたいな役立たずとは婚約を破棄してやる! 魔法も碌に使えない女など……我が公爵家にはいらぬ!」

 役立たずだとか色々と会うたびに私を罵倒してきた親が決めた婚約者が、とうとうそれ婚約破棄を言い出されました。

 いつかそうなるだろうなとは予想していましたし、よく今までそれを言い出されなかったものです。

 と、こんな衆人環視の元で婚約破棄を叩き付けてきた婚約者に感心し他人事のように思ってしまうのは。

 たぶん私が壊れてしまっているからでしょう。

 人は傷つけられ続けると、心がバグる誤作動する

 だから辛いという感情が消え失せた私が、つい婚約破棄を叩きつけてきた婚約者を笑ってしまっても。

 それは仕方のない事だと私は思うのです。

 ですが私に日々侮辱の言葉を浴びせ続け心を殺し、最終的に婚約破棄を一方的に叩きつけたこの方は。

 そんな私の態度に腹が立ったらしく。
 
 パンっ……!

「っきゃ……」

 顔を平手打ちされたその衝撃で、夜会が行われている王城の大広間の床に勢いよく私は叩きつけられた。

 驚く貴族達の声が聞こえる。

 それもそのはずで。

 王家主催の夜会で、令嬢の顔を躊躇いもなくぶん殴って床に叩き付けるだなんてありえない。

 それが日常的に私に対して行われる行為でも、一般的に考えれば頭のおかしい行動なわけで。

 貴族としての体裁はどちらにいかれたのかと、こんな場所で殴り飛ばされた私も大変驚きました。

 それに私がいくら人から殴られ慣れているとはいえ、やっぱり殴られれば身体は痛みますし。

 消えたと思っていた感情がまだ私の中に辛うじて残っていたようで、自分が恥ずかしくて情けなくて。

 涙が出そうになる。

 こんな醜態を人前で晒して、これから社交界で生きていける気が致しません。

「アンジェリーク! 私の事を貴様は愚弄する気か!? このふしだらで穢らわしい醜女め!」

 まだ私を侮辱し足りないのか喚き散らす婚約者は、醜く歪んだ怪物のような形相で怒り狂っていて。

 令嬢達の頬を赤く染める公爵家子息オーギュストの姿は、もうそこには無い。

 非力な令嬢を一方的に殴り侮辱する、野蛮な獣の本性を夜会で晒してしまっている。

 私以外にはだと評判なのに、そんなに私の存在が気に食わないのか。

「オーギュスト様を愚弄など……しておりません」

 よくここまでソレを言うのを我慢していましたと、感心して褒めていただけですのに損した気分です。

 いくら腹が立ったからといって、公の場で令嬢の顔を殴るのは如何なものなのでしょうか?

 これが公の場じゃなくても褒められた行いではありませんが、せめて時と場所を考えて欲しいものです。

 それにふしだらで穢らわしいのは、そんな事を言う貴方の方だと私は思います。

 貴方の腕に縋るように引っ付いて、こちらをクスクス嘲笑っているその女性は一体どちら様?

 婚約者をエスコートする事なく、王城で開かれた夜会で堂々と別の女性を傍らに置いておくなんて。

 それに。

 こんな状況に娘が陥っても、それでもなにも言わない動かない私の両親には反吐が出てしまいます。

 婚約者に暴力を振るわれていると、両親にいくら私が助けを求めても。

 『出来損ないのお前が悪い』

 と言って、取り合ってすらくれない両親にはもう期待しておりませんでしたが。

 目の前で娘が殴られたというのに顔色一つ変えずチラリと見ただけ……なんて。

 両親はどれだけ私に興味が無いのでしょうか?

 魔法を使えないのが、そんなにイケナイこと?

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