【完結】虐げられる令嬢は一夜の過ちを隠す。溺れるような愛を君に。

千紫万紅

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9 婚約者

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「……アンジェリーク、なにしにきた?」

 明らかに不機嫌な顔でこちらを睨み付けて参りますのは、昨夜開かれた夜会で私に婚約の破棄を叩きつけた元婚約者であるオーギュスト様で。

 不機嫌な顔になられるお気持ちもわかりますが、怖いのであまり睨まないで頂きたいです。

 それに私だって好きで公爵家こんなとこに来ているわけではございません、行かねばお父様に何をされるかわからないからです。

「昨夜の婚約破棄の件で謝罪に来ました……」

「は? 正気かお前……頭、大丈夫か?」

「っ……お父様に謝罪に伺うように言われましたので、オーギュスト様に謝罪に参った次第で……」

 正気の沙汰じゃないのは、頭がちょっとおかしいのはうちのお父様であって私じゃありません。

 誰が好き好んであんなことをした男の所に馬鹿みたいに謝罪に来る奴がいらっしゃいますか、謝って頂きたいのはこちらの方なのに。

 ちょっと心配そうな顔をしないで頂けます!?

 それ、傷つきますから……!

「……婚約破棄を取り消してやってもいいぞ?」

「……え?」

「やはり私達の婚約は家同士が決めたもの、そう簡単に取り消すのも……悪い気がしてな?」

「いえ、婚約破棄を取り消して欲しくて参ったわけではありませんので……ご無理なさらず」

 ……オーギュスト様は公爵様に何か言われたみたいですが、取り消されても困ります。

「ほんとにお前は可愛げがないな……性格だけでも可愛らしく従順には出来ないのか?」

「……申し訳ございません」

「仕方ないアンジェリーク、ほらちょっとこっちに来い。私が殴ったやつだろ? 少しやり過ぎたからな治療してやる、自分じゃ出来ないだろ?」

 私を殴ってしまった事に、オーギュスト様は多少なりとも罪悪感持っていらっしゃるご様子。

 ですが、それ。

 ……今さら、ですね?

 オーギュスト様に殴られるのは昨夜が初めてではありませんし、今まで治療なんて申し出をされたことが一度たりともございません。

「いえ、その必要はありません……これはオーギュスト様に殴られたものではなく、婚約を破棄された不甲斐ない私にお怒りになったお父様に殴られたものなので……お気遣いなく」

「遠慮しなくていい、ほらさっさとこっちに来い」

 遠慮ではなく貴方に借りを作りたくないだけです、それに触られたくない。

「それと、婚約破棄の取り消しも必要ありません。私は貴方の婚約者に戻るつもりなどありませんので」

 誰が好き好んで自分を侮辱し、あまつさえ暴力を振るう男の婚約者に戻るのでしょうか?

「……お前の意思など聞いていないんだよアンジェリーク、私に大人しく従っていればそれでいいんだ」

 オーギュスト様はなかなか首を縦に振らない私に痺れを切らしたのか、苛立ったように近付いてくる。

 気軽に自分に暴力を振るう男に真正面に立たれて睨み付けられると足がすくみます、ですがそれだけは絶対にイヤ。

「私はオーギュスト様の所有物ではありません」

「アンジェリーク、お前また殴られたいのか……? 私が優しくしてやっている間に言うことを聞くんだ」

 苛立った声でそんな脅し文句を吐きながら、オーギュスト様は私の腕を掴んでご自分に引き寄せられる。

 許可なく令嬢の身体に触れるなんてお行儀が悪いなと思ったけどこの人、私を令嬢とは思ってなさそう。

 この人にとって私は、奴隷か何かでしょうか?
 
「……お好きにどうぞ? それで諦めて下さるのなら私は喜んで殴られます。貴方に暴力を振るわれるのはもう……慣れておりますから」

「本当にお前は可愛げがないなアンジェリーク。だがな……そう強がっていられるのも今のうちだぞ?」

 ニタリと嫌な笑顔を浮かべてオーギュスト様は私の頬に触れる、睨み付けられるよりその笑顔が怖い。

 そして頬に触れていた手は、撫でるように下に降りていき私のドレスのボタンを外し始めた。
 
「っ……なにをなさるのですか、オーギュスト様っ!? 私に触らないで下さい!」

「アンジェリーク? いくら嫌がろうが関係ない、お前は私のモノになると決まっているのだから」

 
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