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17 無用の長物
伯爵に部屋から出るなと命令されたアンジェリークは、大人しく言うことを聞いて部屋にいたのに。
突然部屋にズカズカと押し入ってきた伯爵に、また頬を打たれて床に叩きつけられた。
「っう……」
「……家の役に立たないばかりかイレーヌの邪魔までしてくるとは、お前なんぞ殺してしまえばよかった」
「申し訳ございませんお父様……」
「ああ……だがやっと……アンジェリーク、お前が家の役に立つ時が来たぞ? 明日お前は公爵家に嫁に行くんだ」
「お父様? ……私はオーギュスト様に婚約は破棄されたはずですが」
「ああ、婚約破棄は無かった事になった。お前とご子息様の結婚が取り消されるなら公爵家との事業提携を解除すると申したら、公爵様が握り潰して下さった、そして結婚式の日取りを早めて下さってな?」
「結婚式……」
「そして結婚式自体は来月の予定だが、公爵家で先にお前を引き取って教育して下さる。ああ、これでやっと厄介払いができる」
嬉しそうな顔で伯爵はアンジェリークにそう話す。
「教育……ですか……」
「そうだ、よかったなアンジェリーク? これでお前は公爵夫人だ、ご子息様の寵愛をちゃんと貰うんだぞ? お前に帰る場所はないからな」
それだけ言って伯爵は満足したような顔で、アンジェリークの部屋から出て行った。
「……この部屋とも今日でお別れですか」
ぽつりとそう呟いたアンジェリークは床からゆっくりと起き上がって、伯爵に殴られた顔を部屋の鏡で確認すれば赤くなってしまっていた。
冷やさなければまた腫れる。
鏡に映った自分は今にも泣きだしてしまいそうな顔で、こちらをじっと見つめ返す。
魔法が使えないからと、お父様には物心ついた時から出来損ないと蔑ろにされておりました。
出来損ないの私はお父様にとって恥ずべき汚点で、存在そのものが許せないのでしょう。
そしてお母様は美しいお姉様が可愛くて可愛くて仕方ない、平凡な容姿の私に興味がない。
だからあの人達にとって私は邪魔な存在であり、私に何があろうとどうでもよくて興味がない。
娘ではなくただの道具。
……そんな伯爵家の役に立つ為だけに、気に入らない事があれば直ぐに暴力を振るう男の妻になれと言われて、妻になる人間がどこにいると。
「あ、ここにいました……」
せめて魔法が使えれば、ここから逃げて平民として生きていく事が出来たかもしれないですが。
魔法の才能がない私が唯一使える魔法は、何の役にも立たない精神を落ち着かせる魔法。
それは対象の過剰な魔力を吸収し落ち着かせるというもので、荒れ狂う魔物に対して使うもの。
でも魔物なんてこんな街中にはいないし、落ち着かせた所で戦う術のない私がそれを使えても……。
無用の長物で何の役にも立たない、それならいっそ水が出せたりするものが良かった。
もし水が出せればいちいち井戸にまで来て、こんな重労働しなくても済むのにとアンジェリークは思う。
別棟の庭にある井戸から汲んだ水に布を浸し赤く腫れた頬に当てる、ヒリつき熱を持つ頬にしみる。
……?
人の声、男の人の声が別棟の玄関の方からする。
別棟にはアンジェリークに食事を届けるメイド以外は来ないはずなのに、なんだろうかと庭から覗けば。
そこにはカシウス皇太子殿下がいた。
「え……? カシウス様?」
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