タチバナ

箕面四季

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空蝉の声

イヤな予感

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 悶々としながらゼミ室のドアを開けたら、びしょ濡れの山田さんが電気もつけずに自分のデスクに座っていた。
 一瞬、貞子的なお化けかと思って声をあげそうになった。

 山田さんだ、と納得してからも、まだ心臓がドキドキしている。
 電気をつけて尋ねる。

「さっきのスコールにやられましたか? あれは酷かったですよね」
「……」

「他の人たちは?」
「……帰りました。私はナツ先生に話したいことがあって、待ってた」

「卒論のことですか? ちょっと待ってて。何か拭くものを……確か未使用の保温用タオルが備品庫にあったはずだから」

 冬場の寒さ対策に昆虫の飼育ケースを保温するタオルを、去年の冬に大量購入した。
 ゼミ室の奥にある備品庫に向かおうとした僕の腕を、山田さんが掴む。

 その瞬間、イヤな予感がした。

「ナツ先生。好きです」

 やっぱりだった。
 山田さんの突然の告白に、頭がスーッと冷えていく。

「ありがとうございます。でも、山田さんも知ってのとおり僕は」
「恋愛感情、ありますよね」

「え」
「ホームセンターのペットコーナーで働いている染谷さん」

 山田さんの口から彼女の名前が飛び出したことに驚いて、つい見てしまった。
 僕を見上げる山田さんとぱちりと目がかち合ってしまう。

 怒りと嫉妬が渦巻いていた。
「やっぱりね」と彼女は言った。

 しまったと思ったがもう遅い。

 動揺を悟られないように山田さんからするりと離れ、備品庫に移動する。
 僕の背中を追いかけ、山田さんは何かにとりつかれたように早口で喋り続けた。
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