67 / 84
【決断】
しおりを挟む
「ママと一緒にいたい。でも……できない」
ぎゅっと目をつぶる。胸が潰れそうだった。
ママが消えちゃうのはイヤだ。叫びたくなるくらい嫌なのに。
だけど、だからといって、赤ちゃんの命を奪うことはできない。
まだ生まれていない赤ちゃんは、これまで否定し続けていたこともあって、柚樹の中では、まだ妹としての実感はほとんどない。
だけど、赤ちゃんが死んじゃったら、オレの大切な人たちがとてもとても悲しむ。
家族の……母さんの悲しむ顔は、絶対に見たくない。
「できないよ」
ママとずっと一緒にいたいと本気で思ってる。
だけど、やっぱりできない。そのために赤ちゃんを殺すことは、できないんだ。
だって。
「母さんも、夏目のじいちゃんばあちゃんも、生まれてくる赤ちゃんも、みんな、みんな、オレの大切な、本物の家族だから」
ママを見上げた柚樹の目から、涙が伝った。
「ごめん。赤ちゃんは殺せないよ」と、柚樹は俯いた。涙が、ポタポタと落ちていた。
ママを裏切ってしまったことが、すごくすごく辛かった。
ママはオレのことを、とっても大切にしてくれたのに。いっぱい遊んでくれたのに。今だって、ピンチのオレの所に来てくれたのに……。
大好きなのは今も変わらない。オレは、ママが好きだ。だけど。
「……ごめん、ママ」
泣きながら謝ること以外できなくて、それが悔しくて、辛くて、悲しかった。
ふわっと、頭にママの手が触れる感触があった。
そのまま「ぎゅーーー」と、強く強く抱きしめられる。
「ママ?」
「よく言った! それでこそ私の子ね」
目をはらしながら顔を上げると、ママは笑っていた。
とびきりの笑顔で「血のつながりなんか、くそくらえよ」と、柚樹の頭をわしゃっと撫でる。
「ママ、オレ」
「大丈夫! ママがいなくても、柚樹はみんなにたくさんたくさん愛されてるわ」
ママがいつものようににっこり笑っている。
「だけど、オレ……オレのせいでママが」
「あ、もしかして等価交換のこと? あんなの嘘よ、ウソ」
「へ?」
ママがペロっと舌を出す。
「昔好きだったアニメにそういうのがあってね~。あれ、ハマったのよねぇ。柚樹がお昼寝している時にこっそりDVD観てたなぁ。こう~、手をパンって合わせたあと、両手を地面につけると、いろいろ錬成できちゃうの」
「……じゃあ、赤ちゃんの命と交換にずっと一緒にいられるっていうのは」
「そんな都合のいいことあるわけないでしょ。だいたい、赤ちゃんの命を取り込むって化け物じゃあるまいし、できるわけないじゃない」
「……」
呆然とする柚樹の前髪をそっとかき分けながら、ママは柔らかく微笑んだ。
「ママは成長した柚樹に会えて本当に嬉しかったわ。ママの大事な大事な柚樹が、素敵に成長して、みんなにいっぱい愛されてるってわかったしね。息子とデートもできて満足満足。もう、お腹いっぱいで破裂しちゃう」
柚樹の瞳を覗き込んで、ママがゆっくりと、噛みしめるように言った。
「もう、大丈夫ね」
「……うん」
ダウンジャケットの袖で乱暴に涙を拭いて、柚樹は口をきゅっと結び、力強く頷く。
大好きなママを、ちゃんと安心させたい。だから泣いちゃダメだ。と奥歯を噛みしめた。
「ママは柚樹をずっとずっと愛してるからね~」
ママがいよいよ消えていく。大大大、大好きだよ~、愛してるよ~と、どこまでも明るいママ。
「お、オレも!!」
柚樹も慌てて叫ぶ。
「オレも、ママをずっとずっと愛してる! 絶対に……絶対に忘れないから!」
柚樹の言葉を聞いて、一瞬、ママのくりくりの瞳が大きくなった。それからすぐに、すごく嬉しそうな笑顔で、懸命に口を動かした。
『きっと、生まれ変わって……』
それ以上は聞き取れなかった。
はらりと、柚樹の足元に、キャメル色のコートが落ちた。柚樹はそれを拾い上げ、抱きしめながら、泣いた。
ちらちらと、いつしか小粒の雪が舞い降りていた。
(寒いと思ったら、初雪じゃん)と、泣きながら柚樹は笑ったのだった。
ぎゅっと目をつぶる。胸が潰れそうだった。
ママが消えちゃうのはイヤだ。叫びたくなるくらい嫌なのに。
だけど、だからといって、赤ちゃんの命を奪うことはできない。
まだ生まれていない赤ちゃんは、これまで否定し続けていたこともあって、柚樹の中では、まだ妹としての実感はほとんどない。
だけど、赤ちゃんが死んじゃったら、オレの大切な人たちがとてもとても悲しむ。
家族の……母さんの悲しむ顔は、絶対に見たくない。
「できないよ」
ママとずっと一緒にいたいと本気で思ってる。
だけど、やっぱりできない。そのために赤ちゃんを殺すことは、できないんだ。
だって。
「母さんも、夏目のじいちゃんばあちゃんも、生まれてくる赤ちゃんも、みんな、みんな、オレの大切な、本物の家族だから」
ママを見上げた柚樹の目から、涙が伝った。
「ごめん。赤ちゃんは殺せないよ」と、柚樹は俯いた。涙が、ポタポタと落ちていた。
ママを裏切ってしまったことが、すごくすごく辛かった。
ママはオレのことを、とっても大切にしてくれたのに。いっぱい遊んでくれたのに。今だって、ピンチのオレの所に来てくれたのに……。
大好きなのは今も変わらない。オレは、ママが好きだ。だけど。
「……ごめん、ママ」
泣きながら謝ること以外できなくて、それが悔しくて、辛くて、悲しかった。
ふわっと、頭にママの手が触れる感触があった。
そのまま「ぎゅーーー」と、強く強く抱きしめられる。
「ママ?」
「よく言った! それでこそ私の子ね」
目をはらしながら顔を上げると、ママは笑っていた。
とびきりの笑顔で「血のつながりなんか、くそくらえよ」と、柚樹の頭をわしゃっと撫でる。
「ママ、オレ」
「大丈夫! ママがいなくても、柚樹はみんなにたくさんたくさん愛されてるわ」
ママがいつものようににっこり笑っている。
「だけど、オレ……オレのせいでママが」
「あ、もしかして等価交換のこと? あんなの嘘よ、ウソ」
「へ?」
ママがペロっと舌を出す。
「昔好きだったアニメにそういうのがあってね~。あれ、ハマったのよねぇ。柚樹がお昼寝している時にこっそりDVD観てたなぁ。こう~、手をパンって合わせたあと、両手を地面につけると、いろいろ錬成できちゃうの」
「……じゃあ、赤ちゃんの命と交換にずっと一緒にいられるっていうのは」
「そんな都合のいいことあるわけないでしょ。だいたい、赤ちゃんの命を取り込むって化け物じゃあるまいし、できるわけないじゃない」
「……」
呆然とする柚樹の前髪をそっとかき分けながら、ママは柔らかく微笑んだ。
「ママは成長した柚樹に会えて本当に嬉しかったわ。ママの大事な大事な柚樹が、素敵に成長して、みんなにいっぱい愛されてるってわかったしね。息子とデートもできて満足満足。もう、お腹いっぱいで破裂しちゃう」
柚樹の瞳を覗き込んで、ママがゆっくりと、噛みしめるように言った。
「もう、大丈夫ね」
「……うん」
ダウンジャケットの袖で乱暴に涙を拭いて、柚樹は口をきゅっと結び、力強く頷く。
大好きなママを、ちゃんと安心させたい。だから泣いちゃダメだ。と奥歯を噛みしめた。
「ママは柚樹をずっとずっと愛してるからね~」
ママがいよいよ消えていく。大大大、大好きだよ~、愛してるよ~と、どこまでも明るいママ。
「お、オレも!!」
柚樹も慌てて叫ぶ。
「オレも、ママをずっとずっと愛してる! 絶対に……絶対に忘れないから!」
柚樹の言葉を聞いて、一瞬、ママのくりくりの瞳が大きくなった。それからすぐに、すごく嬉しそうな笑顔で、懸命に口を動かした。
『きっと、生まれ変わって……』
それ以上は聞き取れなかった。
はらりと、柚樹の足元に、キャメル色のコートが落ちた。柚樹はそれを拾い上げ、抱きしめながら、泣いた。
ちらちらと、いつしか小粒の雪が舞い降りていた。
(寒いと思ったら、初雪じゃん)と、泣きながら柚樹は笑ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる