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【決断】
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「ママと一緒にいたい。でも……できない」
ぎゅっと目をつぶる。胸が潰れそうだった。
ママが消えちゃうのはイヤだ。叫びたくなるくらい嫌なのに。
だけど、だからといって、赤ちゃんの命を奪うことはできない。
まだ生まれていない赤ちゃんは、これまで否定し続けていたこともあって、柚樹の中では、まだ妹としての実感はほとんどない。
だけど、赤ちゃんが死んじゃったら、オレの大切な人たちがとてもとても悲しむ。
家族の……母さんの悲しむ顔は、絶対に見たくない。
「できないよ」
ママとずっと一緒にいたいと本気で思ってる。
だけど、やっぱりできない。そのために赤ちゃんを殺すことは、できないんだ。
だって。
「母さんも、夏目のじいちゃんばあちゃんも、生まれてくる赤ちゃんも、みんな、みんな、オレの大切な、本物の家族だから」
ママを見上げた柚樹の目から、涙が伝った。
「ごめん。赤ちゃんは殺せないよ」と、柚樹は俯いた。涙が、ポタポタと落ちていた。
ママを裏切ってしまったことが、すごくすごく辛かった。
ママはオレのことを、とっても大切にしてくれたのに。いっぱい遊んでくれたのに。今だって、ピンチのオレの所に来てくれたのに……。
大好きなのは今も変わらない。オレは、ママが好きだ。だけど。
「……ごめん、ママ」
泣きながら謝ること以外できなくて、それが悔しくて、辛くて、悲しかった。
ふわっと、頭にママの手が触れる感触があった。
そのまま「ぎゅーーー」と、強く強く抱きしめられる。
「ママ?」
「よく言った! それでこそ私の子ね」
目をはらしながら顔を上げると、ママは笑っていた。
とびきりの笑顔で「血のつながりなんか、くそくらえよ」と、柚樹の頭をわしゃっと撫でる。
「ママ、オレ」
「大丈夫! ママがいなくても、柚樹はみんなにたくさんたくさん愛されてるわ」
ママがいつものようににっこり笑っている。
「だけど、オレ……オレのせいでママが」
「あ、もしかして等価交換のこと? あんなの嘘よ、ウソ」
「へ?」
ママがペロっと舌を出す。
「昔好きだったアニメにそういうのがあってね~。あれ、ハマったのよねぇ。柚樹がお昼寝している時にこっそりDVD観てたなぁ。こう~、手をパンって合わせたあと、両手を地面につけると、いろいろ錬成できちゃうの」
「……じゃあ、赤ちゃんの命と交換にずっと一緒にいられるっていうのは」
「そんな都合のいいことあるわけないでしょ。だいたい、赤ちゃんの命を取り込むって化け物じゃあるまいし、できるわけないじゃない」
「……」
呆然とする柚樹の前髪をそっとかき分けながら、ママは柔らかく微笑んだ。
「ママは成長した柚樹に会えて本当に嬉しかったわ。ママの大事な大事な柚樹が、素敵に成長して、みんなにいっぱい愛されてるってわかったしね。息子とデートもできて満足満足。もう、お腹いっぱいで破裂しちゃう」
柚樹の瞳を覗き込んで、ママがゆっくりと、噛みしめるように言った。
「もう、大丈夫ね」
「……うん」
ダウンジャケットの袖で乱暴に涙を拭いて、柚樹は口をきゅっと結び、力強く頷く。
大好きなママを、ちゃんと安心させたい。だから泣いちゃダメだ。と奥歯を噛みしめた。
「ママは柚樹をずっとずっと愛してるからね~」
ママがいよいよ消えていく。大大大、大好きだよ~、愛してるよ~と、どこまでも明るいママ。
「お、オレも!!」
柚樹も慌てて叫ぶ。
「オレも、ママをずっとずっと愛してる! 絶対に……絶対に忘れないから!」
柚樹の言葉を聞いて、一瞬、ママのくりくりの瞳が大きくなった。それからすぐに、すごく嬉しそうな笑顔で、懸命に口を動かした。
『きっと、生まれ変わって……』
それ以上は聞き取れなかった。
はらりと、柚樹の足元に、キャメル色のコートが落ちた。柚樹はそれを拾い上げ、抱きしめながら、泣いた。
ちらちらと、いつしか小粒の雪が舞い降りていた。
(寒いと思ったら、初雪じゃん)と、泣きながら柚樹は笑ったのだった。
ぎゅっと目をつぶる。胸が潰れそうだった。
ママが消えちゃうのはイヤだ。叫びたくなるくらい嫌なのに。
だけど、だからといって、赤ちゃんの命を奪うことはできない。
まだ生まれていない赤ちゃんは、これまで否定し続けていたこともあって、柚樹の中では、まだ妹としての実感はほとんどない。
だけど、赤ちゃんが死んじゃったら、オレの大切な人たちがとてもとても悲しむ。
家族の……母さんの悲しむ顔は、絶対に見たくない。
「できないよ」
ママとずっと一緒にいたいと本気で思ってる。
だけど、やっぱりできない。そのために赤ちゃんを殺すことは、できないんだ。
だって。
「母さんも、夏目のじいちゃんばあちゃんも、生まれてくる赤ちゃんも、みんな、みんな、オレの大切な、本物の家族だから」
ママを見上げた柚樹の目から、涙が伝った。
「ごめん。赤ちゃんは殺せないよ」と、柚樹は俯いた。涙が、ポタポタと落ちていた。
ママを裏切ってしまったことが、すごくすごく辛かった。
ママはオレのことを、とっても大切にしてくれたのに。いっぱい遊んでくれたのに。今だって、ピンチのオレの所に来てくれたのに……。
大好きなのは今も変わらない。オレは、ママが好きだ。だけど。
「……ごめん、ママ」
泣きながら謝ること以外できなくて、それが悔しくて、辛くて、悲しかった。
ふわっと、頭にママの手が触れる感触があった。
そのまま「ぎゅーーー」と、強く強く抱きしめられる。
「ママ?」
「よく言った! それでこそ私の子ね」
目をはらしながら顔を上げると、ママは笑っていた。
とびきりの笑顔で「血のつながりなんか、くそくらえよ」と、柚樹の頭をわしゃっと撫でる。
「ママ、オレ」
「大丈夫! ママがいなくても、柚樹はみんなにたくさんたくさん愛されてるわ」
ママがいつものようににっこり笑っている。
「だけど、オレ……オレのせいでママが」
「あ、もしかして等価交換のこと? あんなの嘘よ、ウソ」
「へ?」
ママがペロっと舌を出す。
「昔好きだったアニメにそういうのがあってね~。あれ、ハマったのよねぇ。柚樹がお昼寝している時にこっそりDVD観てたなぁ。こう~、手をパンって合わせたあと、両手を地面につけると、いろいろ錬成できちゃうの」
「……じゃあ、赤ちゃんの命と交換にずっと一緒にいられるっていうのは」
「そんな都合のいいことあるわけないでしょ。だいたい、赤ちゃんの命を取り込むって化け物じゃあるまいし、できるわけないじゃない」
「……」
呆然とする柚樹の前髪をそっとかき分けながら、ママは柔らかく微笑んだ。
「ママは成長した柚樹に会えて本当に嬉しかったわ。ママの大事な大事な柚樹が、素敵に成長して、みんなにいっぱい愛されてるってわかったしね。息子とデートもできて満足満足。もう、お腹いっぱいで破裂しちゃう」
柚樹の瞳を覗き込んで、ママがゆっくりと、噛みしめるように言った。
「もう、大丈夫ね」
「……うん」
ダウンジャケットの袖で乱暴に涙を拭いて、柚樹は口をきゅっと結び、力強く頷く。
大好きなママを、ちゃんと安心させたい。だから泣いちゃダメだ。と奥歯を噛みしめた。
「ママは柚樹をずっとずっと愛してるからね~」
ママがいよいよ消えていく。大大大、大好きだよ~、愛してるよ~と、どこまでも明るいママ。
「お、オレも!!」
柚樹も慌てて叫ぶ。
「オレも、ママをずっとずっと愛してる! 絶対に……絶対に忘れないから!」
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『きっと、生まれ変わって……』
それ以上は聞き取れなかった。
はらりと、柚樹の足元に、キャメル色のコートが落ちた。柚樹はそれを拾い上げ、抱きしめながら、泣いた。
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