YUZU

箕面四季

文字の大きさ
71 / 84
【スピンオフ 秋山柚葉、家出する】

【漂う夢の中で 水族館とにいにい】

しおりを挟む
『にいにい、こっちこっち~』
 あたしの手は、にいにいに比べてすごくちっちゃいから、にいにいにわかるように大きく手招きしなきゃならない。

『柚葉はちっこいくせに、すばしっこいんだよなぁ』
 かすれた声で、にいにいが言う。ちゃんと気づいてくれた。

 にいにいは声変わりの最中だから、あんまり喋らせたらダメよって、おかあさんは言うけど。にいにいが疲れるから、だっこばっかりせがんだらダメよって、言うけど。

(でも、おかあしゃん、いないもんね)
 今日はにいにいと二人だもんね。
 
 水族館は夜みたいに暗くてワクワクする。水槽がいっぱいで、お水がキラキラしてる。
 いろーんなお魚が、い~~っぱい泳いでる~

『にいにい、あっこ、あっこ』
 この上にいるのは何かな?

『しょうがねーなぁ、行くぞー。いち、にの、っさん!!』
 ひゅんっ!
 にいにいの抱っこは、ふわっと、くすぐったくて面白いの。 

『きゃははっ』
『しっ、柚葉、声でけぇから。水族館では静かにな』 

 ワクワクしながら、冷たいガラスにほっぺをくっつけて中をのぞく。ひゅっ、と、何かがいなくなった。息をひそめて見ていると、白い砂の中から、なんか出てきた。

『なに、こえ(これ)~』
 声を出したら、またサッと、みんな穴の中に引っ込んだ。白いつぶつぶの砂にいくつも穴が開いていて、そこからにょろりと白い紐みたいなお魚が顔を出したりひっこんだりしている。

 変!!

『にいにい、こえ(これ)、なぁに??』
『え? ……えっとぉ。なんだろうなぁ』

『ええ? にいにいわかんないの?』
『そ、そうそう。わかんないなぁ』
 何でも知ってるにいにいがわかんないなんて。

『おいう(おりる)』
 ぴょこんっと、地面に降りて水槽の名前を見る。

『あたしね、ちょっと字読めうのよ。にいにいに教えたげうね』
『え、あ、おい、柚葉』
 にいにいのために、一生懸命考える。

 この字は~
『あいうえお、アイウエオ』の絵本で見て知ってるんだ。
 なんだっけ。えっとぉ。

『……チ、チだ! あと、こえ(これ)……ン、ンだ! あとはぁ……ま、いっか!』
 あたしはえへん!と、にいにいに言った。

『こえ(これ)はね、チンチンだお! チンチン!!』
『ばっ』
 にいにいの大きな手が、あたしの口をふさぐ。

『わかったから、字読めてすげぇから! でも水族館では静かにしような』
 にいにいが『しぃー』と、指を立てたので『あ』と、あたしも頷いて『しぃー』とマネをした。

『はあ、焦ったぁ』と、にいにいが言って『ん?』と首を傾げた。
『なんか前にも同じようなことがあったような……』と、にいにいは呟いて『あ、そうか』と笑う。

『なに、なに?』
『いや、なんでもないよ』
 にいにいがあたしの頭を撫でながら、目を細めて不思議な顔で笑った。あたしは嬉しくなる。

(にいにい、あたしのこと、大好きみたいねー)

『トンネル水槽に行くか』と、にいにいが言った。
『とんねう水槽?? いくっ、早く、にいにい』
 待ちきれない! にいにいの手を引っ張る。

『しょうがねーなぁ。あっこしてやる』
(やっぱりね! にいにいは、あたしのこと大好きだもんね)

 嬉しくて嬉しくて、水族館が大好きと思う! なんでかって言うと、にいにいが笑うから!!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

『 ゆりかご 』 

設楽理沙
ライト文芸
  - - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - - ◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。 " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。 ―――― 「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語 『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』 過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、 そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。 [大人の再生と静かな愛] “嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”  読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。 ――――            ・・・・・・・・・・ 芹 あさみ  36歳  専業主婦    娘:  ゆみ  中学2年生 13才 芹 裕輔   39歳  会社経営   息子: 拓哉   小学2年生  8才  早乙女京平  28歳  会社員  (家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト) 浅野エリカ   35歳  看護師 浅野マイケル  40歳  会社員 ❧イラストはAI生成画像自作  

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...