YUZU

箕面四季

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【スピンオフ 秋山柚葉、家出する】

【漂う夢の中で 水族館とにいにい】

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『にいにい、こっちこっち~』
 あたしの手は、にいにいに比べてすごくちっちゃいから、にいにいにわかるように大きく手招きしなきゃならない。

『柚葉はちっこいくせに、すばしっこいんだよなぁ』
 かすれた声で、にいにいが言う。ちゃんと気づいてくれた。

 にいにいは声変わりの最中だから、あんまり喋らせたらダメよって、おかあさんは言うけど。にいにいが疲れるから、だっこばっかりせがんだらダメよって、言うけど。

(でも、おかあしゃん、いないもんね)
 今日はにいにいと二人だもんね。
 
 水族館は夜みたいに暗くてワクワクする。水槽がいっぱいで、お水がキラキラしてる。
 いろーんなお魚が、い~~っぱい泳いでる~

『にいにい、あっこ、あっこ』
 この上にいるのは何かな?

『しょうがねーなぁ、行くぞー。いち、にの、っさん!!』
 ひゅんっ!
 にいにいの抱っこは、ふわっと、くすぐったくて面白いの。 

『きゃははっ』
『しっ、柚葉、声でけぇから。水族館では静かにな』 

 ワクワクしながら、冷たいガラスにほっぺをくっつけて中をのぞく。ひゅっ、と、何かがいなくなった。息をひそめて見ていると、白い砂の中から、なんか出てきた。

『なに、こえ(これ)~』
 声を出したら、またサッと、みんな穴の中に引っ込んだ。白いつぶつぶの砂にいくつも穴が開いていて、そこからにょろりと白い紐みたいなお魚が顔を出したりひっこんだりしている。

 変!!

『にいにい、こえ(これ)、なぁに??』
『え? ……えっとぉ。なんだろうなぁ』

『ええ? にいにいわかんないの?』
『そ、そうそう。わかんないなぁ』
 何でも知ってるにいにいがわかんないなんて。

『おいう(おりる)』
 ぴょこんっと、地面に降りて水槽の名前を見る。

『あたしね、ちょっと字読めうのよ。にいにいに教えたげうね』
『え、あ、おい、柚葉』
 にいにいのために、一生懸命考える。

 この字は~
『あいうえお、アイウエオ』の絵本で見て知ってるんだ。
 なんだっけ。えっとぉ。

『……チ、チだ! あと、こえ(これ)……ン、ンだ! あとはぁ……ま、いっか!』
 あたしはえへん!と、にいにいに言った。

『こえ(これ)はね、チンチンだお! チンチン!!』
『ばっ』
 にいにいの大きな手が、あたしの口をふさぐ。

『わかったから、字読めてすげぇから! でも水族館では静かにしような』
 にいにいが『しぃー』と、指を立てたので『あ』と、あたしも頷いて『しぃー』とマネをした。

『はあ、焦ったぁ』と、にいにいが言って『ん?』と首を傾げた。
『なんか前にも同じようなことがあったような……』と、にいにいは呟いて『あ、そうか』と笑う。

『なに、なに?』
『いや、なんでもないよ』
 にいにいがあたしの頭を撫でながら、目を細めて不思議な顔で笑った。あたしは嬉しくなる。

(にいにい、あたしのこと、大好きみたいねー)

『トンネル水槽に行くか』と、にいにいが言った。
『とんねう水槽?? いくっ、早く、にいにい』
 待ちきれない! にいにいの手を引っ張る。

『しょうがねーなぁ。あっこしてやる』
(やっぱりね! にいにいは、あたしのこと大好きだもんね)

 嬉しくて嬉しくて、水族館が大好きと思う! なんでかって言うと、にいにいが笑うから!!
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