ようこそ、むし屋へ  ~深山ほたるの初恋物語~

箕面四季

文字の大きさ
28 / 69
ほたるの記憶 ~中学生編~

ずっとこうしていたいから

しおりを挟む
「荷物乗せる?」と、ヘルメットをかぶった篤が自転車のカゴを指差す。
「いいの?」

「妹だし」
「違いますけど」
 ハハッと笑いながら、ほたるの通学リュックをカゴに入れた篤は自転車を押し始めた。

 170cmまで背が伸びた篤は、肩幅も背中も全部がごつごつ硬そうで、やっぱり異性なんだと意識した途端、ドキドキが止まらなくなってしまう。

「なんで無言?」
「べ、別にぃ~」
 真っ赤になって俯き加減のほたるの頭を篤がポンポン叩いた。

「ほたる縮んだ? 給食の牛乳ちゃんと飲めよ」
「ちゃんと飲んでます! てゆーか余計なお世話だし」

 ドキドキドキドキ、心臓の音がうるさい。

 話したいのに話せない。
 顔を見たいのに、恥ずかしくて見れない。
 いつからあたしは、こんな風になってしまったんだろう。

「おっ、たんぽぽ」と、篤が道路の端を指差す。
 アスファルトの割れ目からにょきっと茎を伸ばして、たんぽぽが咲いている。
 でも、寒さのせいか土壌のせいか、花は小さくて、色もあまり綺麗じゃない。

「すげぇよな」
「何が?」

「土の上じゃなくても、こんなに風が冷たくても、そんなの関係ねー。咲きたいから咲く、みたいな? 他の花とか、花の常識とか関係なくて、自分は自分みたいな。オレもそんな風になりたいなー」
「篤は十分そんな感じするけど。有言実行で、修学旅行の班編変えちゃうし」

「でもオレさー。オレはオレだって、堂々とできない」
「どうして?」
 篤は困ったように笑って肩をすぼませた。

「言ったら絶対引くから言わない」
「何それ。気になるじゃん」

「まあなんていうか、枠に囚われないで生きたいってことかな。死んだじいちゃんはそういう生き方してたんだ。頭おかしいとか、非常識とか、普通じゃないとか言われても平気だった。オレもそういう風に生きたいけど、いろんなしがらみとか、世間体とか、親の気持ちとか、友達とか、そういうの考えると、なかなかしんどいよな」

「……それって、世にいう、中二病ってやつじゃ」

「おい」
 こつんとほたるのおでこを小突いて篤が怒ったフリをした。

 嬉しくてくすぐったくて、ドキドキして……好き。
 ずっとこうしてじゃれ合っていたい。
 二人だけで。
 それには。

「篤」
「うん?」

「あたし、ね」
「うん」

 息が、止まる。
 喉が、詰まる。

 頑張れ。
 言わなきゃ進まない。
 紗良にとられたくないんでしょ。

「……部活、クッキング部に入ろうと思ってるの。篤は決めた?」
 やっぱり、ムリ。告白してフラれたら、気まずくなって、こんなふうに話すことすらできなくなる。
 それならこのまま……

「オレ部活入らないかも」
「へ? だって必須だよ」

「そーなんだよなぁ。ほたるさー、部活入らないでいい方法知らない?」
「知るわけないでしょ」

(やっぱり、あたしはこのままでいい)と、ほたるは自分に言い聞かせた。
 今のままで、十分幸せだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...