ようこそ、むし屋へ  ~深山ほたるの初恋物語~

箕面四季

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ほたるの記憶 ~中学生編~

わかってるけど。

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 あっちー。と、篤は田んぼを眺めている。

「え……で、でも。夏休み前に紗良、フラれたって」
 げこげこと、カエルの鳴く声がほたるの耳に響いていた。

「いやー、この前また告白されてさ。こんなオレのこと、好きになってくれる人、他にいないだろうなってOKした」

(いるよ、ここに)

「そう、なんだ……よかった~、あたしも紗良が二回告白してフラれたって聞いて、さすがに可哀想だと思ってたんだよね。そっかそっかー。ほんっと良かった。あ、じゃあ、これからはこういうことも自粛しなくちゃね」
「なんで?」

「なんでって、篤には彼女ができたんだから、他の女子と一緒にいたらまずいでしょ」
「別に関係なくない?」

「そういうわけにはいかないよ。これからは学校でも必要以上にお互い話しかけないようにしないと」
「橘さんは、そういうの、気にしないと思うけど」

 橘さん。
 そのうち、紗良って、呼ぶようになるんだろうか。
 嫌だ。そんなの。

 苦しくてどうかなってしまいそう。
 なのに、顔の筋肉がヘラヘラして妙に口が軽い。

「あたしが気にするんだって! じゃ、お幸せにー」
「おう、お菓子、サンキュー」

 後ろを向いて、間延びした篤の声を聞いた途端、涙がこぼれた。
 後悔が押し寄せる。

(もっと早くに告白すればよかった)
(紗良が諦めたとか都合よく勘違いして、バカじゃん)
(篤の紗良への気持ちは、ただの同情だよ。そんなんで付き合わないでよ)
(同情でつき合うなら、あたしと付き合ってよ)

 あたしが臆病で卑怯だったからって、わかってる。
 だから、告白できなくて、フラれることすらできなかった。
 紗良の勝ちだ。

 わかってる。

 わかってるけど……悔しくて悔しくて、涙がとめどなく溢れた。
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