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ほたるの記憶 ~中学生編~

恋愛のカリスマ、さなえちゃんの助言

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「と、いうわけなのです」

 中間テストのため、部活が休みだったさなえちゃんと、久々に下校しながらほたるはため息を吐いた。

 ももちゃんは紗良に取られた。
 だから、さなえちゃんは自分の方に寄せておきたいという下心ありありな自分。
 性格悪いな、と呆れてしまう。

「なるほどねぇ。最近あんたの様子がおかしかったのは、そういうわけか」
「……紗良とか、ももちゃんから聞いてなかったの?」

「聞いてないよ。紗良はそういうの自慢するタイプじゃないし、ももはああ見えて口がかたいからね。どうでもいいことはペラペラしゃべるけど。ま、あたしも部活で忙しかったけどさ、二人とも人としていい子だよ」
「知ってる。だから、自分が醜くて嫌になる」

 つぶやいたら泣けてきた。
 「よしよし」と、さなえちゃんが頭をポンポン叩く。

「いいなぁ、さなえちゃんは大地君とラブラブで」
「まあね」と受け流すさなえちゃんは、やっぱりドライ。

 さなえちゃんと大地君が付き合っているのは、もはや先生すら周知の事実だった。

 最初はキャーキャー質問攻めしていた恋バナ好きな女子たちも、顔色ひとつ変えず堂々ドライなさなえちゃんに何も言わなくなった。
 既に熟年夫婦の域に達しているさなえちゃん。

 大地君とさなえちゃんが相思相愛になったのは、さなえちゃんがちゃんと告白したからだ。
 告白する勇気がなかったほたるが、さなえちゃんを羨ましがるのはお門違い。

 紗良だってそうだ。
 ちゃんと告白したから付き合ってる。

 でも。

「二人、別れないかなぁとか、思っちゃうあたしは最低だ」
 うなだれると「それがわかっていれば上出来だ」とさなえちゃんが笑った。

「もう~。ちょっとはそんなことないよ~、とか言ってよ~」
「ソンナコトナイヨ~」とさなえちゃんが言ったあと、ふと真顔になって「だって、あたしはほたると紗良と篤君のことをどうこう言える立場ではないから」と、付け足した。

 そういえば、さなえちゃんが大地君に告白したきっかけって、紗良だったっけ。
 あの時、さなえちゃんが大地君に告白していなかったら、今頃、大地君と紗良が付き合っていて……

「あんた今、性格悪いこと考えたっしょ」
「すいません」

「それにしても篤君は何考えてるんだろうな」
「何って?」

「だって、あたしが思うに篤君は……」
「何?」

「いや、こういう憶測は誰の得にもならないから。まあ、中学生の恋なんて大人になる頃には『ああ、そんな時代もあったなぁ』くらいのもんだって。だから元気だしな」
「さなえちゃんは大地君と相思相愛だからそんな風に言えるんだよ」

「ああ、めんどくさい、友達のあんたにだけ言うけど、あたし、大地と別れたから」
「え? うそ! だって、今日も仲良く話してたじゃん」

「だって、うちら円満に別れたから」
「……え、なんで? なんで別れたの?」
 興味津々のほたるに「あんたねー」と、さなえちゃんは苦笑する。

「ま、いいけど。よくさ、キスから始まる恋、みたいなのあるじゃん。不慮の事故でキスしたらお互い意識し始めて恋が始まる、みたいな」
「うん。いいよね。憧れる」

「あたしらは逆だったんだよね」
「と、言いますと?」

「キスしてもお互いなんとも思わなかった。うちで飼ってるチワワのぽんすけとチューしてる感じでさ、あいつも『あれ?』みたいな顔して、一気にお互いシラケたよ。で、幼馴染みに戻ることにした。でも、別れたって言ったら絶対面倒くさいことになるから、あえて言わない」

「……信じられない。お似合いなのに」

「思春期の恋なんてそんなもんなんだよ。恋に恋してるだけ」

 微笑むさなえちゃんは、また一つ大人の階段を上ったようだった。
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