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神明山の遊歩道

恋する大家さん?

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 いきなり口調が変わった大家さん。カステラをごくりと飲み込んで顔を上げると、無垢な笑顔で笑っている。

(なに? どーゆーこと??)

 少女のような大家さんの周りを、さっきと同じ透明な靄のような糸のようなものが、うっすら漂っている。
 次の瞬間、それらは薄れて消えてしまった。
 大家さんは、自分のカステラを一口食べて、おもいっきり顔をしかめた。

「まあまあザマスね。これなら長崎のかすていらの方が美味しいザマス。まったく、相変わらず、花岡先生の奥さんは海外志向が強くて嫌味ザマスね。あの人、息子が花岡医院をついでから、やれ台湾だ、韓国だと、飛び回ってるんザマスよ。でもここだけの話、跡を継いだ息子はデキが悪いザマス。医学部に入るのに5浪もしたザマスよ。そんなだから、花岡医院を継いだものの、診察は、勤務医の先生を雇ってまかせっきりザマス。それでいて自分は院長としてふんぞり返ってるんザマスよ。ああ、やだやだ」

「はあ、そーなんですねー」

(ザマスに戻った)

 唖然としていたら、大家さんが、ぽっと、さっきの無垢な笑顔とは種類の違う、気持ち悪い頬の染め方で笑った。

「でも、この勤務医先生がまた優秀な先生でねぇ、佐貫さんのおばあさんは、早期に認知症が見つかって早めの治療のおかげで、進行を遅らせることができたザマスの。優しくてよーく話を聞いてくれて、定期健診も予防接種もしてくれるし、注射なんか、いつされたかわからないくらい上手ザマスのよ。おまけに顔が時代劇俳優の松蔵為之助似の二枚目なんザマスの。だから、病院が混んで混んで、もう大変。昨日だって、朝一番で診察券を出しに行ったのに、おばあちゃんが4人も並んでいたザマスよ」

「は、はあ。そーなんですねー」

 ザマスに戻った大家さんは、どうやら、時代劇俳優似の勤務医先生がお気に入りらしい。
 推し活?

「こほん。ま、まあ、私が定期健診に行くのは、病気になって忙しい弁護士の息子に迷惑をかけないためザマスけれど。そうそう、花岡先生の不出来な息子と言えば」

(まだ続くのか~)
 やっぱり帰れば良かったと、ほたるは、かすていらにつられた自分に後悔した。

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