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神明山の遊歩道

大家さんの常識

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「花岡先生のところの、お孫さんのスグル君! あの子の出来も悪いザマスのよねぇ。優太と同じ小学校の一つ下の学年なんザマスけどね。ほらぁ、優太の小学校は成績順に1組から4組までクラスが振り分けられるザマしょう。優太は1年生からずーっと、1組ザマス。でも、花岡先生のお孫さんは3組と4組を行ったり来たりしてるザマス。まあ、議員の村山さんとこの孫は万年4組だから、それに比べればマシザマスけど、議員はコネが効くからバカでもなれるザマしょ? でも医者はそうはいかないザマス。どうするつもりザマスかしらね」

「あのー、そのお医者さんのお孫さんの、スグル君? は、医者になりたいんですか?」
「はあ?」
 何を言ってるんだ、と、いう顔で、大家さんが睨みつけてくる。

「花岡先生のところは代々医者をしているんザマスよ。孫は医者になるに決まってるザマしょう。優太、かすていら、そんなに無理して食べなくてもいいザマス。おかしなものを食べて、脳に異変が起きたら大変ザマスから」

(カステラ食べて脳に異変って、聞いたことないんですけど)

 むすっとした顔で、大家さんが優太君の台湾カステラのお皿を取り下げようとすると、優太君は、お皿を自分の方に引き寄せ、にっこり笑った。

「おばあさま。食べ物を残すのはマナー違反です。それに将来、国際弁護士になるなら、各国の料理に慣れておく必要もありますしね」
「あら、ごめんなさい。そうザマスね。国際弁護士になるなら、口に合わない料理も我慢して食べる必要があるザマスね」
「はい。おばあさま」
 微笑んだ優太君が、フォークとナイフで台湾カステラを上品に口に運ぶ。
 ごくりと噛まずにカステラを飲み込んで、口角を上げる優太君。
 絶対このカステラを気に入っている。

(うーむ。さすがは弁護士の息子。大家さんを上手く丸め込んでいる)

「国際弁護士と言えば、優太は本当に優秀で、塾でも……」

 そこから始まる怒涛の孫自慢。

 優太君は国際弁護士を目指すために、毎日、進学塾で夜遅くまで勉強しているとか、その塾のクラス分けでもトップのSSクラスだとか。
 塾のない日は、大家さんの家でよく勉強しているとか。

 優太君は、慣れているのか、口元に大人びた微笑を浮かべ、黙々と台湾カステラを平らげていた。

「優太はね、この佐世保の家で勉強するのが好きなんザマス。ね、優太」
「はい。この家は広くて、静かで、散歩もしやすいから」
「散歩?」
「長時間机に座って勉強していると、集中力が切れて、勉強の効率が下がるんです。だから45分に一回、リフレッシュのために15分間の散歩をしなさいと塾で教えられています。塾でもビルの階段や廊下を歩いたりするんですよ」
「へえ」

「優太の通っている塾も名門塾ザマスからね。普通の塾とは一味も二味も違うザマス。あらやだ、もうこんな時間ザマス。私、かすてぃらのお礼を花岡先生の奥さんにもっていかなくっちゃならないザマス。悪いけど、二人に留守番を頼むザマスね」

 そんなこんなで、ほたるは大家さんの家で優太君と二人っきりになったのだった。
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