上 下
25 / 97
神明神社

優太先生の虫講義

しおりを挟む
「つまりだな」と、優太君は、近くに落ちていた木の枝を拾って、足元の硬い地面に『虫』と書いた。

(別に聞いてないんだけど)
 苦笑交じりに、ほたるは『虫』の文字を見る。

「まず第一に、小学校で習う、この『虫』って漢字は、元々マムシを意味していたんだな」
「マムシって、毒蛇の?」

「そう。ほら、『虫』の漢字ってさ、象形文字にすると、こんな感じで……『虫』の四角の部分がマムシの頭に見えるだろ。んで、真ん中の縦棒と下の横棒にチョンってところがさ、くねくねしたヘビの体に見えねぇ?」
「あ、本当だ」

「つまり『虫』は、大きな頭をした毒蛇の絵を漢字にしたもので、元々は、今みたいな虫のことじゃなかったんだよ」
「へえ~」

「で、この『虫』の漢字を三つ並べた『むし』……これ、この『蟲』って漢字」
「優太君、よくそんな難しい漢字知ってるね」

「オレ、ダメほたると違って賢いから。んで、この『蟲』の漢字には、ありとあらゆる動物が含まれるんだよ」

 ダメほたると違って、が、余計なんですけど。
 ここは、なめられないよう、賢いところを見せつけないと。
「はい!」とほたるは手を挙げた。

「じゃあ、ダメほたるさん」
「先生、ダメが余計です」

「細かいことは気にせず、どうぞ」
「細かくはないですが。ええと、さっき優太先生の言った、『ありとあらゆる動物』というのは、つまり植物と動物に大別した時の、虫とか魚とかを含む動物のことでしょうか」

「おっ、ダメほたるさんにしては正解です」
「こう見えて女子大生なので。てゆーか、ダメほたるさんにしては、が、余計です」

「んじゃ続きな」
 するっとスルーして、優太先生が続ける。

「えっと……古代中国では、 ありとあらゆる動物を、鱗のある鱗蟲、毛のある毛蟲、羽のある羽蟲、甲羅のある甲蟲の4つに分類してたんだ」
 優太君は、『蟲』と書いた文字から放射状に四つの線を引いて、それぞれの先に『鱗蟲』『毛蟲』『羽蟲』『甲蟲』と、付け足していった。

(小4なのに、鱗がさらりと書けるとは、末恐ろしい子)

 さすがは名門私立の小学生。頭のデキが違う。
 しかも、達筆なんですけど。
 この子と競うのは、もうやめよう。

「この、『鱗蟲』の長、つまり一番偉い奴が蛟竜なんだ。んで、『毛蟲』の長が麒麟。それから『羽蟲』の長が鳳凰、でもって『甲蟲』の長が霊亀なんだ。つまり」
 トントン、と地面の漢字を指さして、優太君がニヤリとした。

「霊獣たちは、全部『蟲』。な、『むし』だろ?」
「ああ、なるほど」

 神明大学のダニー講師と同じく、ためになるのか、ならないのかわからない、優太先生の虫講義、これにて終了。

「ま、それだけ、虫っていうのは、たっくさんの意味を含んだ神聖な生き物ってことなんだよ」
「神聖な生き物ねぇ」
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

カフェと雪の女王と、多分恋の話

BL / 連載中 24h.ポイント:278pt お気に入り:13

なんやかんやありまして、殺し屋が妻になりました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

小さな発見の旅

O.K
エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

結婚を認めてくれないので、女神の癒やし手と言われるようになりました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:11

令嬢は故郷を愛さない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:60

処理中です...