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二度目のチャイム

高貴なるフェイス

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「うーん、困ったなー」
 御簾の奥の狩衣の人が、明らかに現代風の言葉で困っている。

 きっと、オオゴマダラの蛹が金色に戻らなかったせいだ。
 そのせいで、この豪華な拝殿の見栄えがちょっと悪くなったことを怒ってるのかも。

 そう推測した名探偵ほたるは、ハッと優太君を見た。
 それくらいでバチとか、当てたりしないとは思うけど。

「あの、優太君のこと、許してあげてください」
 ほたるは、優太君の後頭部をぐいと手で押しつけた。

「ぐぇ」
「優太君は蝶とか蛾とか、虫が大好きなんです。子供のやったことなんで、大目に見てあげてください。ほら、優太君も謝って」

「す、すみませんでしたー!」
「いやー、許すとか許さないじゃないんだよねー」
 御簾の奥の狩衣の人は、すっくと立ちあがり、衣擦れの音をしゅ、しゅと立てながら、御簾の方へしゃなり、しゃなりと歩いてきた。

 ドキドキと、ほたるの胸が高鳴る。
 見えそうで見えなかったものが見えると思うと、ちょっとワクワクする。
 それに、あの人の姿がわかれば、この、喉にザクザク刺さった小骨みたいな既視感の正体もわかるはず。
 隣で優太君も、ほたると同じようにソワソワしている。


 ドキドキドキドキ
 しゅ、しゅ

 ドキドキドキドキ
 しゅ、しゅ

 ドキドキドキドキ
 しゅ、しゅ……

(って、おそ!)
 狩衣の人、小股すぎて、ほんの数メートルの距離が全然縮まない。
 アリ並みに遅い。アリより遅いかも。

 優太君の右足が、耐え切れず貧乏ゆすりを始めた。
 わかる。
 イライラするほどの遅さだ。
 じれったすぎる。

 我慢に我慢を重ねて、ようやく狩衣の人が御簾の手前までやってきて、いよいよ御簾に手をかけ……たところで、ピタリと動きが止まったので、ほたると優太君はズッコケそうになった。

 うずうずイライラしながら、様子を見守っていたら「そなたら、われの高貴なるフェイスをそーんなに拝みたいのか?」と、もったいぶるように狩衣の人が尋ねてきた。

(高貴なるフェイスって……)
 どうも、さっきから喋り方がおかしい。
 昔風の言葉、本当は喋り慣れてないんじゃないの? この人。

「拝みたいです!! ナルハヤで見せてください!! よろしくお願いしまっす!!!」
 ペコリと勢いよく頭を下げながら、「おい。ダメほたるも」と、優太君がほたるを肘でつついてくる。

(ええい。仕方ない!!)
 やっぱ、あたしも見たい!!

「あたしも高貴なるフェイスが、そーんなに拝みたいです!!」
 ほたるも優太君に倣って、ペコリと頭を下げた。
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