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二章
十八話
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陽も完全に沈んで夜の闇が深まった頃、和義は両親と共に食卓を囲んでいた。父親が残業で遅くならなければ、決まった時間に家族全員で夕食を取るのが暗黙の了解だ。
和義を除いた藤村家の家族構成は、サラリーマンの父・康行に、専業主婦の母・恭子だけだ。去年まで彼の姉も同居していたが、今は嫁いで隣街に住んでいる。
何気ない態度を装って、和義は話を振った。
「早紀は、最近、ウチに来てるの?」
「何よ、いきなり。そういえば、ここ最近は来ないわね。山田さんの家には行ってるみたいだけど。アンタ、今度早紀ちゃんと会ったら、ウチに遊びに来なさいって、言っといてよ」
「あの子の家も色々あるからなぁ。何か困ってるようだったら、助けてあげなさい」
康行も少女の家庭環境に思うところがあるのか、時折こういった発言をする。
「ああ」と返事をして、和義はテレビに目を向けた。
恭子と早紀の母・真奈美は、親しい友人だった。真奈美が健在の頃は、早紀を連れて藤村家にもよく来ていた。
彼が口を閉ざした後も、「近所の誰々さんの息子は、どこどこの塾に通っているから、お前もどうだ?」というような、恭子の説教めいた話が続く。これは、相手が聞いている・いないに拘わらず延々と続く。
和義は、いつもの独演会を、いつもの生返事で聞き流した。
「アンタ、そういえば、佐江子さんに聞いたわよ。最近、早紀ちゃんを、追いかけ回してるんだって?」
あのクサレババアがと、和義は心の中で吐き捨てた。佐江子のニヤついた顔が、目に浮かぶ。
康行まで、「そうなのか?」と乗ってくる。両親が急にニヤニヤし出したので、息子はその場に居辛くなり、自分の部屋に戻ろうとした。
階段を上がろうとする彼の耳に、ヒソヒソ話が聞こえてくる。「だから唐突に、早紀ちゃんの話題を出したのね」とか、「あいつは、本当に単純だな」と。
和義が自室に入ろうと扉を開けた時、「洗濯物出しときなさい」という声が階下から響いた。「分かった」という返事が聞き取れなかったのか、恭子はもう一度大声を上げる。
「女の尻を追いかける前に、洗濯物を出しなさい!!」
この日から一週間ほど、「女の尻を追いかける前に、~しなさい」という言い回しが、康行と恭子の間で大ブームとなった。
和義を除いた藤村家の家族構成は、サラリーマンの父・康行に、専業主婦の母・恭子だけだ。去年まで彼の姉も同居していたが、今は嫁いで隣街に住んでいる。
何気ない態度を装って、和義は話を振った。
「早紀は、最近、ウチに来てるの?」
「何よ、いきなり。そういえば、ここ最近は来ないわね。山田さんの家には行ってるみたいだけど。アンタ、今度早紀ちゃんと会ったら、ウチに遊びに来なさいって、言っといてよ」
「あの子の家も色々あるからなぁ。何か困ってるようだったら、助けてあげなさい」
康行も少女の家庭環境に思うところがあるのか、時折こういった発言をする。
「ああ」と返事をして、和義はテレビに目を向けた。
恭子と早紀の母・真奈美は、親しい友人だった。真奈美が健在の頃は、早紀を連れて藤村家にもよく来ていた。
彼が口を閉ざした後も、「近所の誰々さんの息子は、どこどこの塾に通っているから、お前もどうだ?」というような、恭子の説教めいた話が続く。これは、相手が聞いている・いないに拘わらず延々と続く。
和義は、いつもの独演会を、いつもの生返事で聞き流した。
「アンタ、そういえば、佐江子さんに聞いたわよ。最近、早紀ちゃんを、追いかけ回してるんだって?」
あのクサレババアがと、和義は心の中で吐き捨てた。佐江子のニヤついた顔が、目に浮かぶ。
康行まで、「そうなのか?」と乗ってくる。両親が急にニヤニヤし出したので、息子はその場に居辛くなり、自分の部屋に戻ろうとした。
階段を上がろうとする彼の耳に、ヒソヒソ話が聞こえてくる。「だから唐突に、早紀ちゃんの話題を出したのね」とか、「あいつは、本当に単純だな」と。
和義が自室に入ろうと扉を開けた時、「洗濯物出しときなさい」という声が階下から響いた。「分かった」という返事が聞き取れなかったのか、恭子はもう一度大声を上げる。
「女の尻を追いかける前に、洗濯物を出しなさい!!」
この日から一週間ほど、「女の尻を追いかける前に、~しなさい」という言い回しが、康行と恭子の間で大ブームとなった。
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