その都市伝説を殺せ

瀬尾修二

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二章

十九話

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 宿題を終えると、和義は心霊現象への対処方法をネット上に求めた。だが、三十分と経たずにフリックする指が止まり、スマートフォンの画面から目を離してしまう。
 前日にも霊障対策を調べていたが、半ば恐慌状態に陥っていたため、内容を殆ど覚えていない。何とか落ち着きを取り戻したので調べ直したものの、成果は得られなかった。
 心霊に関する情報を載せたサイトは、数え切れないほどある。彼は閲覧数の多いサイトから探ってみたのだが、各サイトごとに対処法が全く異なっていた。そもそも、化け物や霊などの定義自体が、編集した人間によって違うのだ。
(適当に思いついた方法を、効果があると言い張っているだけじゃないのか?)
 彼には、こう思えてならない。サイトには、参考にした資料や条件・試行回数等はあまり書かれておらず、自己申告の超常体験──自分が、如何に特別な存在かを示すための文章──が長々と書かれている。
 うんざりとした和義は、スマートフォンをベッドの上に放った。それから、マグカップを持って立ち上がり、窓際に近づていく。自分が絵になると思うポーズを取り、ブラックコーヒーを──苦さに慣れていないため──少しずつ口にした。
 そんな、誰も見ていないのに格好つけている痛々しい少年が、家の外から妖しい気配を感じ取った。

 庭を見下ろせば、自宅の門柱に体の半身を押しつけている老婆がいた。相手は人外だと、感覚的に分かる。
 和義は、(実際に化け物と対峙したら、自分はどんな反応をするんだろう)と、ホラー映画を見ながら考えた事があった。想像の中での自分は、恐怖を振り払い勇敢に立ち回っていた。
 しかし現実世界での彼は、激しい動悸と共に情けなく膝を震わせている。
 ネット上の自称霊能者達を恨みながら、どうすべきかを考えた。一階には彼の両親がいて、しかも化け物を認識できない。
(あれが家に侵入して、父さんと母さんを襲ったら…)
 そう思うと、強い焦燥感に駆られる。
 まず達也に電話しようと決めた瞬間、老婆が顔を上げ始めた。彼は、相手の視線から逃れたかったが、何故か目を逸らす事が出来なかった。
 ゆっくり、ゆっくりと、焦らすように面が上げられていく。
 ついに目が合った。能面のような顔つき、光を全く反射しない虚ろな瞳。無表情の顔からは、何も感情を読みとれない。だからこそ理解し難い恐怖が、彼を襲った。喉元までせり上がってきた叫び声を無理矢理飲み込み、一言だけをどうにか絞り出す。
「ばぁ、ちゃん?」
 そう呟いた刹那、老婆は姿を消してしまった。その化け物は、三年前に亡くなった父方の祖母、藤村知子の姿形をしていた。
 老婆がいた辺りに視線を彷徨わせながら、和義は呆然とする。暫くの間そうしていると、複雑な感情が芽生えているのに気づいた。死んだ祖母が、可愛がっていた孫の前に突然現れて、何も言わずに去ってしまう。
 「祖母とは良好な関係を築いていた」というのが、彼の認識だった。少なくとも嫌われてはいなかっただろう、と思っていたのだ。そうだとすれば、つい先程の態度は解せない。
 生前の祖母と今し方現れた亡霊は、姿形が同じでも別の存在としか思えなかった。
(道端の石ころでも見つめていたら、あんな顔になるのだろう)
 そう思えるような面持ちで、彼を見つめていたのだから。
 床についた後も、もしかして自分は疎まれていたのではないかと思ったり、その考えを否定したりして悶々と考え込んだ。
 また、霊能を得る前と得た後とのギャップを再認識した事も、中々寝付けない原因の一つだった。これまで非現実的だと思っていた出来事が、ひっくり返って現実的な出来事となってしまった。その現実を全て受け入れようとすると、強い拒否反応が起こってしまう。
 浅く寝ては、直ぐに起きる。彼は、その反復を深夜まで繰り返すうちに、何とか眠りについた。 
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