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第五章ex
Epilogue
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あれから十年の歳月が流れた― 。
悦卿は金鰲山を下りて都・漢陽に居を構えた。そして、還俗して安氏を妻に迎えた。
生来、身体の弱かった安氏は、既に婚期を逸し、自分は結婚とは無縁の人生を送るだろうと考えていた。そんな彼女を妻にと望んだのは、前妻・南氏に似ていたこと、そしてどういう経緯か彼女が南氏から貰った指輪の片方を持っていたためだ。
安氏との平凡だが穏やかな生活は、悦卿にとって最初で最後の幸福な日々だった。それは安氏にとっても同様だった。このありふれた日常は長くは続かなかった。安氏の寿命はやはり限られていたのだ。
独り身になった悦卿は再び、頭を剃り、僧体となって放浪生活を始めた。しかし、今度の放浪は以前とは異なり前向きなものだ。かつて異国の詩人が高麗に生まれて、その山水を心行くまで見たいと願ったという。幸い、彼は高麗の地に生を受けた。自分の俗世での寿命があとどの位残っているのかは分からない。ただ、この世にいる限り、この地をあまねく見ておくつもりだ。それは、この地に生まれながら自分の生まれた地をほとんど見ることなく俗世を去った妻・南氏に話してやるためだ。
こう心に決めた彼は、竹杖を手に東へと発って行った。
悦卿は金鰲山を下りて都・漢陽に居を構えた。そして、還俗して安氏を妻に迎えた。
生来、身体の弱かった安氏は、既に婚期を逸し、自分は結婚とは無縁の人生を送るだろうと考えていた。そんな彼女を妻にと望んだのは、前妻・南氏に似ていたこと、そしてどういう経緯か彼女が南氏から貰った指輪の片方を持っていたためだ。
安氏との平凡だが穏やかな生活は、悦卿にとって最初で最後の幸福な日々だった。それは安氏にとっても同様だった。このありふれた日常は長くは続かなかった。安氏の寿命はやはり限られていたのだ。
独り身になった悦卿は再び、頭を剃り、僧体となって放浪生活を始めた。しかし、今度の放浪は以前とは異なり前向きなものだ。かつて異国の詩人が高麗に生まれて、その山水を心行くまで見たいと願ったという。幸い、彼は高麗の地に生を受けた。自分の俗世での寿命があとどの位残っているのかは分からない。ただ、この世にいる限り、この地をあまねく見ておくつもりだ。それは、この地に生まれながら自分の生まれた地をほとんど見ることなく俗世を去った妻・南氏に話してやるためだ。
こう心に決めた彼は、竹杖を手に東へと発って行った。
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