盲いた王子と悪役令嬢

早乙女 純

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レガリア王国王都編

忙しい日々

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 祖父との面会をして、次の日には家庭教師たちがやってきた。私は礼儀作法から経営、外国語など様々なことを学んだ。全てが初めてで学ぶことばかりで、ほぼ勉強三昧の生活を送った。しかし、前世と比べてもこの体はスペックが高い今世では、勉強は苦ではなかった。もしろ全てが面白いほど頭に入り勉強が楽しい。前世の頭のいい人たちもこんな感覚で勉強していたのだろうと思うこの頃である。
 そんな感じで、私は毎日忙しい日々を送って3年があっという間に経過した。

 私はこの3年で成長したなぁと大きな姿見を見て思った。腰まである長くてさらさらな黒い髪につり目がちな黒い瞳、そして左目の下にある泣きぼくろがある。綺麗で整った顔立ちをしているが、いかにも気が強そうな幼い少女が映っていた。

(なんで今世でもつり目なのかしら。もうつり目のせいでどれほど前世で苦労したと思っているの。神様に会ったことないけど、今からでも良いから転生特典でタレ目にしてくれないかしら)

 私は、前世と変わらないつり目を見てため息をついた。前世の人生ではつり目のせいで不良と間違われることもあった。私にとってつり目は不幸の象徴なのだ。しかし残念ながら今世もそうであるのだ。
 私は、手で目尻を下げようと下向きに引っ張るが憧れのタレ目になる気配はない。

 「お嬢様。お嬢様のその切れ長な猫目もお嬢様の魅力でございます。ですので、そのようにたれ目になろうとなさらなくてもよろしいかと思います」

 アンナは、私の髪に櫛を通しながらそう言った。

「でも、私の顔きつく見えない?」

「いえいえ、とても上品に見えます。ご自分の顔を卑下しないでくださいませ」

「わかったわ。たれ目はあきらめます。じゃあ、表情の練習するべきなのかしら?」

 私も、こんなことをしていても変わらないとわかっていた。前世で経験済みだ。でも、諦め切れないから表情で誤魔化す方法を学ぶ選択を取ることにした。

「それは素晴らしいことですわ。表情を操るのは、淑女の嗜みございます。礼儀作法でそろそろ習うと思いますのでご安心くださいませ」

 アンナはそう言いながらも、私の身嗜みを整え終えた。相変わらず仕事が速い。

「今日は、何か予定があったかしら?」

「はい、この後シュヴァリエ夫人がお呼びでございます」

 アンナは淡々と答えた。

「そう、久しぶりに会うわ。なんのようでしょう?」
 
 母と会うのは2歳のときに一回会ったきりだった。私はいきなりのことで不思議に思う。

「何やら、シュヴァリエ家の今後の進退に関わることとおっしゃっていました」

「そうですか。では、早く会いに行きましょうか」

 そして、私は母のもとに向かった。





「失礼します。クリスティーヌが参りました」

「入りなさい」

 母の声が扉の向こうから聞こえてきた。

 アンナが扉を開き、私は中に入った。中には、私の母であるカトリーヌ、その執事であるアロイス、そして初めてみる中年の男性がいた。
 私は頭をフル回転させ、その男性と同じ特徴を持つ人物を頭に入っている貴族年鑑で探した。そして見つかった人物は、アルフォンス・ド・ミュラー侯爵であった。我が家が属する派閥のトップである人物だ。
 私は、すかさず淑女の礼をした。

「お初にお目にかかります。私は、シュヴァリエ伯爵家 長女 クリスティーヌと申します。ミュラー侯爵閣下におかれましてはご機嫌麗しゅう」

 侯爵は少し驚いた風にこちらを見た。

「よく私がミュラー家の者だと分かったね」

「はい、ミュラー家特有の赤みがかった金髪にアイスブルーの瞳をされていました。そして、貴族年鑑に書いてあった印象に最も近いのが、アルフォンス・ド・ミュラー侯爵閣下お一人しかいらっしゃいませんでした」

 ミュラー侯爵は何かに納得したかのように頷いた。

「なるほど、今すぐデビュタントをしても問題がないほどしっかりとした娘であるようだ。夫人の仰った通りだ。これならば、第二王子殿下にお似合いであろう。残念ながら、我が家に年頃の娘はいない。……分かった、夫人に手を貸しましょう」

「えぇ、ありがとうございます、侯爵様。これからもよしなにお願い致します」

 そう言って母と侯爵は握手をした。私は急な事態に困惑した。そうこうしているうちに侯爵は、出て行ってしまった。

「クリスティーヌ。さっきの話の通りよ。あなたは第二王子ダニエル様と婚約するのよ。名門たる我が伯爵家にとっても、名誉なお話よ。しっかりと努めなさい」

 そう言ってアロイスを引き連れてカトリーヌも出ていこうとした。

「待ってくださいませ。どういうことでしょう。私は、そのような話は聞いていません」

「何を言い出すかと思えば、そんなことですか。あなたは、シュヴァリエ家の令嬢としての自覚が足りないのではありませんか? そんなことを一々あなたに報告するわけないじゃない。この婚約は義務です。拒否権はありません。いいですね」

 カトリーヌは私を睨み付けながら言い放った。そして、続けてカトリーヌは言った。

「あぁ、あと一週間後に顔合わせがあります。粗相のないように」

 そして、カトリーヌは部屋から出ていった。

「はぁーー、婚約かぁ~」

 わかっていたが、このように急な話に私は愕然とした。いつか、望まない形の結婚をすることになることはわかっていたがあまりにも突然すぎる。
 立ち尽くしている私を見て、アンナは言った。

「お嬢様! 王子様との婚約ですよ!! 第二王子殿下といえば、次期国王陛下でもあります。つまり、お嬢様は、我が国の国母となるのですよ! おめでとうございます」

 私はとても喜んでいるアンナを見て、口角を引きずらせて苦笑いをした。 

「そ、そうね。それよりも、第二王子殿下にお会いするための準備をしないと行けないわね。どうしようかしら」

 私にはこの世界の常識、もしくは貴族社会の常識には馴染めない。王子様との婚約と聞いてもときめかないし、嬉しくもない。私は、平凡な幸せを手に入れたいだけのに……。幸せを手に入れるために頑張ったことが裏目に出てしまった。

(いきなり、前途多難すぎるわ。よりにもよって王子に嫁がないといけないとは……。もし革命なんてものが起きてしまえば、私はマリーアントワネットと同じ道を辿ることになってしまうわ……。はぁ~、いきなり難易度が高すぎないかしら。でも、……やるしかないわ。今度こそ絶対大往生してみせるだもん!!)

 そして、クリスティーヌは腹をくくりこれからのことの対策を考えるのであった。

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