盲いた王子と悪役令嬢

レガリア王国王都編

第一王子との再会

　アンナは扉を開けた。中には、母と執事のアロイスがいた。母は、こちらを睨んできた。
　
　「クリスティーヌ、よくもシュヴァリエ家に泥を塗ってくれたわね！！」

　母はヒステリック気味に叫んだ。

「お前のせいでどれだけ恥をかいたと思っているの！！　本当に使えない。お前は今日から辺境の男爵の後妻よ。早く出てお行き！」

　私は、母にそう言われてすぐに部屋を追い出された。

「さて、予想はしていたけどどうしましょう？」

「お嬢様、もう男爵の馬車が迎えに来ているようです。このまま馬車に向かうようにとのことです」

「え？　荷物はどうするの？」

　私がそう言うと後ろからアロイスが

「そのようなものはございません。すでに貴方のものは処分させています」

　と言い、冷たく見下したふうにこちらを見ていた。

「何をおっしゃっているのですか！？　荷物なしで出て行けとは、流石に酷すぎます！！」

　アンナはありえないという顔していた。

「はぁ、わかったわ。アンナ行くわよ。」
　
　私はため息を吐きながらもアロイスの指示に従うことにした。
　アンナはアロイスを説得するように言うが別に想いれのあるものがあるわけでもなし、結果は変わらないので時間の無駄だ。一種の諦めの境地とも呼べる心境であった。私はそのまま手ぶらで屋敷を出て馬車に向かった。

　屋敷から出ると普通の馬車があった。特段に貧乏な男爵家ではないらしい。馬もしっかりとした身体つきをしている。
　私は馬車の前まで行きアンナに言った。

「アンナ、ここでお別れよ。あなたを連れて行くことはできないわ」

「お嬢様！　先程言ったばかりではないですか。何があってもお嬢様について行くと。私は、絶対にお嬢様についていきます」

「……でも、これから向かうのは辺境の地よ。そんなところにアンナを連れて行けないわ」

「何をおっしゃいますか。お嬢様も同じではないですか。もし今連れて行ってくれないなら、私は勝手にお嬢様の跡を追いかけます」

　アンナの意思は固いようだ。

「……分かったわ。ありがとう、アンナ。実はアンナにはついて来てほしいと思っていたわ。でも、アンナにはアンナの人生があるから無理強いしたくなかったの」

「お嬢様、私はもう歳でございます。残りの人生をお嬢様の下で使わしてください」

「えぇ、分かったわ。では行きましょう」

　そして、アンナは御者について行き、私は馬車の中に入った。

　中には、なぜか第一王子殿下がいた。私は驚き声を上げてしまう。

「殿下！？　なぜここにいらっしゃるのですか？！」

「久しぶりだね。クリスティーヌ嬢。驚くことはない。辺境の男爵とは私のことだよ」

　殿下が言っていることが理解出来なかった。

「どう言うことでしょう？」

「何、よくある話だよ。私はダニエルが即位するときに邪魔になるから、王都から私を離すために辺境の領地に行くことになったのさ」

　殿下は飄々と言った。私は少し納得した。第一王子であるアルベール様は、見目も麗しく盲目でありながらも、卒なく執務をこなしているとのことだ。第一王子を次期国王にという声もあるらしい。

「で、では、なぜ私を？」

「君は優秀だ。君の祖父ベルナール卿から随分と仕込まれたそうだね。その能力を貸してもらおうと思ってね。まぁ、それは建前なんだけどね。本音をいうと君の魂が誰よりも美しかったからだよ。だから、君が欲しくなったんだ」

　殿下はニコニコとしながらそう言った。私は真っ向から、君が欲しいと言われてあまりにも恥ずかしく目線を下げた。それに顔も熱を帯びている気がする。私が言葉を紡げないでいると、

「時間はたっぷりあるからゆっくり話そうじゃないか」

　殿下は楽しそうに言った。