婚約者は私を愛していると言いますが、別の女のところに足しげく通うので、私は本当の愛を探します

一話 必然的な婚約破棄

「アルベルト、婚約を破棄しましょう」


　私ことアデリナ・フォン・アーレンスは我が家の客間でアルベルト・フォン・ベルツにそう言った。

「どうしたんだ！？　いきなり婚約を破棄するなんて。そういうことは軽々しく言うもんじゃないだろう」

「軽々しくですって？　そんなわけ無いじゃない。しっかり考えた結果よ」
　
　アルベルトは私の肩を掴み、戸惑い気な表情で目の前に迫ってきた。どうしてか分かっていないみたいだ。

「僕はいつも君を愛していると言っている。僕の気持ちが分からない君じゃないはずだ」

　この男はとにかく愛を囁いとけば、私は分かってくれると思っているようだ。全く理解し難いことである。

「じゃあ、何であの娘のところに足しげく通うの？　私は、何回もやめてと言ったはずよ。そもそも、なぜあの娘のところに通う必要があるの？」

「それは……。アリアは、体が弱いんだ。それに家が貧しくて満足な食事をとることもできない。あと、彼女には妹たちがいて養うために毎日働いているんだ。体が弱いにも関わらずだよ。だから、僕がアリアを守らなくちゃいけないんだ。幸い僕にはお金がある。それで少しでも彼女が救われたらと思って……」

　彼は何やらあの女を助けないといけないという使命感に囚われているようだ。意味が分からない。

「その話どこを信じられるというの？　どこの三流作家が作った話よ。……まぁ、それの真偽は置いとくわ。つまり、あなたはそのアリアという娘が好きなのね？　だったら、無理して私と結婚する必要はないわ」

「いや、僕は君ことを愛しているよ。僕と君は付き合いが長いから言葉だけで十分だけで伝わると思ったんだ。それに別にアリアと結婚したいと思っているわけではないんだ」

　私は彼の程度の低さに呆れてしまった。

「つまり、貴族の生活が辞めれないし私とは都合がいいからと結婚するけど、心はアリアにあると言いたいのね。もういいわ」

　私がそう言うと、私のお父様が隣の部屋のドアを開けて出てきた。

「残念だよ。私はアルベルト君に期待をしていたが、私の娘以外に気があるとは。別に私は娘が嫌な婚約を押し付ける気はない。だから、これまでだアルベルト君」

　お父様がそう言うとお父様の隣にいた執事がアルベルトを部屋の外へ連れっていった。

「君たちはあんなに仲が良かったのに残念だ」

　私は悲しい表情をして言った。

「申し訳ありませんでした、お父様。私がお止めすることができれば良かったんですが……」

　お父様は横に首を振った。

「アデリナがどうという問題ではない。彼自身の甘えの問題だ」

　そう言ってお父様は私を慰めた後、部屋を出て行った。私の侍女も私を心配してあれやこれや気を使ってくれた。私も自分の部屋に戻り、侍女がドアを閉めて部屋から出て行ったのを確認して、私はベットに顔から突っ込んだ。次第に口元が緩み出した。
　
（やっとだわ。やっとあの男と縁が切れた）

　その後、メイドが心配して私を見に来るまでこれからのことに思いを馳せた。