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森の魔女が生きた理由(日常編)
第3話 弟子
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二人が一緒に暮らし始めてから数日が経った。
どんな恐ろしい体験をするのかと初めは死さえ覚悟していたクリロにとって、その暮らしは意外なものだった。
魔女は口数は少ないものの、常にクリロを気にかけているようだった。
魔女が、無言だが優しげな視線を投げかけてくる度、クリロは笑顔で「どうかしたの?」と聞き返す。
大抵の場合、答えは「何でもない」だったが、クリロはそれでも少し嬉しい気持ちになった。
クリロを気にかける者など、これまでいなかったからだ。
魔女は森の中で、ほぼ自給自足の生活をしているらしい。
魔女が言うには、この森は恵まれていて動物にも植物にも困らないそうだ。
そして定期的に、物好きな商人が森で手に入らない食材や道具を持って来るらしい。
魔女は対価として調合した薬を売っているが、その薬は街で密かに流通しているそうだ。
魔女は、クリロの過去については聞かなかった。
もしかしたら、何か察するところがあったのかもしれない。
自分と同じ匂いを、感じたのかもしれない。
クリロもまた、魔女の過去は聞かなかった。
気にならないと言えば嘘となるが、誇るものがない自身について語ることがどういうことかを少年は知っていた。
二人は、お互いの身の上と、名前すら知らないまま共に過ごした。
クリロにとって、そして魔女にとっても、それは居心地の良い日常となり始めていた。
この数日間、魔女はクリロの扱いを決めかねていた。
連れ帰ったは良いものの、人と接した経験が少なく、ましてや他人と共に暮らしたことなど無かったからだ。
緊張した様子のクリロにとりあえずスープとパンを与えると、スープの温かさのお陰だろうか、美味しいと告げて落ち着いた表情になった。
食事の時は、お互いに相手の様子を見ながらほぼ無言で口へ運ぶ。
食べ終わると、クリロはいつも「とても美味しかった。ありがとう」と言った。
魔女は感謝の言葉を言われ慣れていない。
どう答えれば分からないまま、口元をひきつらせ、慣れない笑顔を浮かべた。
魔女はクリロに小部屋を与えた。
森で拾った、素性も分からぬ少年に、どうしてここまで油断しているのか。
もしかしたら自分を殺しに来たのかもしれないのに。
そもそも、自分と一緒にいたい人間なんていないはずなのに。
魔女は自分でも分からないままにクリロを受け入れていた。
クリロの纏っていた、孤独と諦めの匂いが魔女を安心させたのかもしれない。
クリロは毎朝、魔女よりも早く起きて掃除をした。
食事の後は木を切りに行き、夕方には薪を並べていた。
クリロは魔女に、自分をどう扱って欲しいかを伝えなかった。
召し使いでも生け贄でも、おそらくクリロは受け入れただろう。
魔女も、クリロのそうした諦めの匂いを感じていた。
クリロは毎日今まで通り木こりの仕事をし、残りの時間は魔女の為に働いた。
クリロが何かを要求することは無かったが、ただ魔女を見る時だけは、普段の諦めたような匂いを纏いつつも、かすかに期待を抱いた目をするのだった。
そんな生活を数日間送り、二人が少しずつ会話をするようになった頃、魔女はあることを決めた。
クリロを信頼したからか、これまで何かを決断するという機会が無かったが故に時間がかかったのか。
おそらくその両方であるが、魔女はクリロを呼んで言った。
「君に私の仕事を教えよう。明日からは私の手伝いをして欲しい」
クリロは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になった。
「ありがとう。ずっと、待っていたんだ。君が僕を……変えてくれるのを」
二人が、師弟という絆で結ばれた瞬間だった。
もっとも、彼らは弟子を取ったとも、弟子になったとも考えていなかった訳だが……これまでの曖昧な関係ではなく、絆を持って共に生きるということをお互いに意識したのだった。
どんな恐ろしい体験をするのかと初めは死さえ覚悟していたクリロにとって、その暮らしは意外なものだった。
魔女は口数は少ないものの、常にクリロを気にかけているようだった。
魔女が、無言だが優しげな視線を投げかけてくる度、クリロは笑顔で「どうかしたの?」と聞き返す。
大抵の場合、答えは「何でもない」だったが、クリロはそれでも少し嬉しい気持ちになった。
クリロを気にかける者など、これまでいなかったからだ。
魔女は森の中で、ほぼ自給自足の生活をしているらしい。
魔女が言うには、この森は恵まれていて動物にも植物にも困らないそうだ。
そして定期的に、物好きな商人が森で手に入らない食材や道具を持って来るらしい。
魔女は対価として調合した薬を売っているが、その薬は街で密かに流通しているそうだ。
魔女は、クリロの過去については聞かなかった。
もしかしたら、何か察するところがあったのかもしれない。
自分と同じ匂いを、感じたのかもしれない。
クリロもまた、魔女の過去は聞かなかった。
気にならないと言えば嘘となるが、誇るものがない自身について語ることがどういうことかを少年は知っていた。
二人は、お互いの身の上と、名前すら知らないまま共に過ごした。
クリロにとって、そして魔女にとっても、それは居心地の良い日常となり始めていた。
この数日間、魔女はクリロの扱いを決めかねていた。
連れ帰ったは良いものの、人と接した経験が少なく、ましてや他人と共に暮らしたことなど無かったからだ。
緊張した様子のクリロにとりあえずスープとパンを与えると、スープの温かさのお陰だろうか、美味しいと告げて落ち着いた表情になった。
食事の時は、お互いに相手の様子を見ながらほぼ無言で口へ運ぶ。
食べ終わると、クリロはいつも「とても美味しかった。ありがとう」と言った。
魔女は感謝の言葉を言われ慣れていない。
どう答えれば分からないまま、口元をひきつらせ、慣れない笑顔を浮かべた。
魔女はクリロに小部屋を与えた。
森で拾った、素性も分からぬ少年に、どうしてここまで油断しているのか。
もしかしたら自分を殺しに来たのかもしれないのに。
そもそも、自分と一緒にいたい人間なんていないはずなのに。
魔女は自分でも分からないままにクリロを受け入れていた。
クリロの纏っていた、孤独と諦めの匂いが魔女を安心させたのかもしれない。
クリロは毎朝、魔女よりも早く起きて掃除をした。
食事の後は木を切りに行き、夕方には薪を並べていた。
クリロは魔女に、自分をどう扱って欲しいかを伝えなかった。
召し使いでも生け贄でも、おそらくクリロは受け入れただろう。
魔女も、クリロのそうした諦めの匂いを感じていた。
クリロは毎日今まで通り木こりの仕事をし、残りの時間は魔女の為に働いた。
クリロが何かを要求することは無かったが、ただ魔女を見る時だけは、普段の諦めたような匂いを纏いつつも、かすかに期待を抱いた目をするのだった。
そんな生活を数日間送り、二人が少しずつ会話をするようになった頃、魔女はあることを決めた。
クリロを信頼したからか、これまで何かを決断するという機会が無かったが故に時間がかかったのか。
おそらくその両方であるが、魔女はクリロを呼んで言った。
「君に私の仕事を教えよう。明日からは私の手伝いをして欲しい」
クリロは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になった。
「ありがとう。ずっと、待っていたんだ。君が僕を……変えてくれるのを」
二人が、師弟という絆で結ばれた瞬間だった。
もっとも、彼らは弟子を取ったとも、弟子になったとも考えていなかった訳だが……これまでの曖昧な関係ではなく、絆を持って共に生きるということをお互いに意識したのだった。
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