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episode13【Double liminalities】
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パーシバルとアネリの瞳に、強い決意が宿る。
絶対にマドックは逃がさない。奴に殺される気も毛頭ない。
そして、
「お嬢様、私の傍を離れませぬように……」
「ええ、護ってね」
「命に代えても」
“もう互いに離れない。”
「マドック刑事、最後に聞かせて。どうする? 投降する? 別にそれでもいいわよ。散々計画がめちゃくちゃにされたまま、リトル・レッド社への復讐を中途半端に終わらせてもいいのなら」
「…………ッ!!」
アネリの挑発がマドックを的確に刺激する。
マドックは右腕をだらりと下ろすと、左手で拳銃を取り出し構えた。今まで扱っていたのは右手。だが利き腕ではない左手で構えても、銃はまったくぶれることがない。
さすがの腕前。これでオドワイヤーとパーシバルの急所を一撃で仕留めたのだから、恐ろしい男だ。
「負けられないのはお前達だけじゃない…っ! この、化け物ども!!」
引き金が引かれた。
バンッ!
「…っ!」
精確に顔を狙って放たれたが、パーシバルのほうがわずかに速く弾を避ける。弾はアネリをかすめることなく背後の壁へ。
視線がやや逸れた隙を狙い、マドックは銃倉に残っている弾をパーシバルひとりに集中させる。
バンッ! バンッ!
1発目をまた寸でで避け、さらに飛んできた2発目の弾を、
「………ッ!」
パーシバルは片手の平を開き、その中心で受けた。
弾は貫通することなく手の平の皮膚数ミリまで食い込んで止まる。
「な……ッ!!」
額を貫いたこの弾なら唯一パーシバルを殺せると信じていた分、マドックは想定外の出来事にただただ戸惑った。
「額の貫通は予想外でしたが、意識していれば体の一部を硬化して弾を止めることなど簡単です」
受け止めた弾を床に捨てながら、パーシバルは人間離れしすぎた持論を述べる。
規格外だ。どこまでも。
「…クソッ…!!」
マドックは諦めたように銃を床に投げ捨て、代わりに懐から黒いものを取り出す。
拳大の、小さなパイナップルのような形。細いストッパーが付いているそれが、リトル・レッド社でも幅広く手掛けている“手榴弾”だということに気付く。
「死ねっ!!」
マドックは歯でストッパーを引き抜き、手榴弾をふたり目掛けて投げつけた。
「…………!!」
パーシバルは狼狽える。
避けるのは簡単だ。だが自分の身が護れたとしても、背後にいるアネリを護ることはできない。それは論外だ。
1秒もない一瞬の時間で考えをめぐらせた結果、
――お嬢様…っ、お見苦しい姿を晒すこと、お許しください…!
「…がっ……!!」
信じられなかった。
パーシバルはとっさに大きく口を開け、飛んできた手榴弾を真っ直ぐ胃の中に送り込んでしまったのだ。
今まで手榴弾を食べた人間なんて見たことがない。そこにいた全員が目を疑う中、パーシバルは両手で口を押さえる。
ズン…ッ!!
直後に胃の中から鈍い音がした。それが手榴弾の爆発だということは言うまでもないだろう。
パーシバルはゆっくりと手を離す…。
「……あぁ、なんということでしょう…。お嬢様のお毒見用に食べた料理が消し炭になってしまいました……」
口の端から黒い煙を立ち上らせているが、パーシバル自体は無事だった。被害があったといえば胃の中に収まっていた食べ物くらい。外部もそうだが、一体彼の内部はどうなっているのだろう。
「……ぁ、あ……ッ!」
銃弾も無駄。手榴弾も無効果。頭を撃っても致死量の血を流しても死なない。
「……なん、なんだ…っ…!」
マドックは、これ以上この“怪物”を殺す手段が思いつかなかった。
「…ば、化け物…ッ!!!」
焦点が合わなくなってきた目で、パーシバルに酷い軽蔑の視線を向ける。
――私が復讐を誓った相手は…リトル・レッド社は…っ、おぞましい化け物だ…! 悪魔だ…!!
「化け物がッ!!!」
狂ったように叫び、マドックはその場に這いつくばって、たった今投げ捨てた拳銃を取りに向かった。
「…っ、ひッ、…ヒィッ…!!」
だが今度は銃身が大きく震えている。デボンの時以上の恐怖と動揺が、彼を襲っているのだ。
「化け物? 私が?」
それは誰が聞いても侮辱の言葉と受け取るだろう。
だが、
「……ええ、そうですね。むしろ光栄です。私はずっと化け物になりたかったのですから」
パーシバルはその侮辱を、褒め言葉として受け取った。
そこには昔、アネリに読み聞かせた1冊の絵本が関係している。
『王子様はお城に住まう、火を吐く恐ろしい怪物に、正義の剣を突き立てました』
「お姫様がピンチに陥ってようやくノコノコ現れる王子様よりも、常にお姫様の傍でその身をお護りできる怪物に、………私はなりたかったのです」
機械の体を持ち、驚異的な戦闘力を誇る自分は、人間からすれば怪物だ。
あの時、絵本の中で王子に殺される怪物が、パーシバル自身の境遇と重なった。
だからパーシバルは、人間になれないならせめて怪物になりたいと思ったのだ。
ただし、
――アネリお嬢様を何者からも護る、最凶の怪物に。
もうパーシバルは瞳を曇らせることはなかった。
心の中まで見透かされそうな鋭い眼光は、マドックを逆に恐れさせる。
「……あっ、ぁ……ア…!」
構える拳銃がぶるぶると震える。
今更こんなものが何の役に立つだろう。目の前にいる怪物には効かない。
そして、
「ぐ、ガアァ……!!」
バネッサが這いずりながら、ゆっくりとこっちに近づいてくる。
マドックは命の危機を感じながらも、それを回避する手段なんて無いことを分かっていた。
「………ッ…!」
絶体絶命。まさかそんな言葉を使う日が来るなんて。
マドックはパーシバルに向けていた銃口を、ゆっくりと自分の顔に近づけていく…。
「いけないっ、パーシバル!」
アネリの声と同時にパーシバルは走り出す。
マドックは銃を口に咥え、自分で自分の命を絶とうとしていた。
引き金が引かれる寸前、
――っ!!
パーシバルが、マドックの銃を握る手元に強烈な薙ぎ蹴りを見舞った。
「ヅ…ゥッ…!!」
銃の先端の照星が口の端を引き裂き、新しい傷と血を生む。
そのまま拳銃はマドックの手から離れ、部屋の隅へ飛ばされていった。
「……ア、ァァアァ…!!」
最後の手段を絶たれた瞬間、マドックは狂ったように襲い掛かってきた。
が、完全な丸腰のマドックが、パーシバルに勝てるはずもない。
パーシバルは奴の背後に回り、ただ一度。
トンッ
手刀で、マドックの首筋を強く叩いた。
「……ッ、く……!!」
ぐにゃりと歪む視界。脳みそがめちゃくちゃに揺さぶられたような、気分の悪い感覚。
――い、いやだ……ッ、私の、私の敵討ちはこんな…、こんな形で、終わるはずじゃなかったのに…!!
復讐も中途半端に終わり、自殺もできなかった。自分がとんでもない恥さらしに思える。
それにすら抗えないまま、マドックはパーシバルの手刀によって呆気なく意識を失ってしまった……。
―――
――――
『…父さん、兄さんも…行っちゃうのか?』
この日が来ることはずっと前から決まっていたことだ。
10歳になったばかりの幼いウィリス少年は、軍人のように体中を武器で固めた父と兄の背中を不安げに見送る。
父は言う。
『ああ、だが心配するな。俺達は必ず帰ってくるからな。政府は残虐の度を超えてる。俺達が襲撃して分からせてやるんだ。もう無差別な死刑はさせない。高い税金も徴収させない。ウィリス…お前達子どもの未来のために、父さんと兄さんは英雄になってくるよ』
父の大きな手が、ウィリスの頭を撫でる。
『………うん、待ってるよ…』
行かないで、とは言えなかった。
父と兄は家族と、無惨に死んでいった友のために、テロに参加するのだから。
父は扉の脇に立てかけておいたボウガンを手に取る。
『すごいだろう。リトル・レッド社が格安で提供してくれたそうだ。仲間の分も全部だ』
殺人に使われるはずなのに、流線型のボウガンはとても美しかった。
ウィリスはその形をしっかり目に焼き付けて、同じボウガンを背負う父と兄を見上げる。
『ぼくも、大きくなったらふたりを手伝うよ』
すると今度は兄が笑う。
『はは、馬鹿だなぁ。戦争はこれきりだよ。いや、これきりじゃないといけないんだ。……お前はしっかり母さんを護れよ?』
ウィリスは視線を隣に立つ母に向ける。
父と兄は外で戦い、自分は家の中で戦わなければ。
ウィリスは信じていた。父と兄は必ず帰ってくる。襲撃は必ず成功すると。
『うん。いってらっしゃい!』
そして、南米のテロが勃発した。
テロ集団は強い武器を持ち寄り最後まで戦った。
が、本物の軍隊に勝てるはずもなかった。テロに参加した800人以上の武装兵の半数は戦争で死に、半数は処刑された。電気椅子から銃殺までの5つの方法で。その中には、ウィリスの父と兄も含まれており、
『英雄になってくるよ』
皮肉にも、自分達が倒そうとしていた政府によって息の根を止められる結果となる。
『……父、さん…っ、兄さん…!!』
家族の死の知らせを受けたウィリスのショックがどれほどのものか。想像もつかない。
その時だ。幼い彼の中に、歪んだ正義と復讐心が同時に生まれた。
『………リトル・レッド社さえなければ、父さんはテロに参加することはなかった…。政府は…国家の犬だ。あいつらのせいで…、父さん達はむごい死に方をすることに…!』
ウィリス少年の復讐は、その20年後に実行される。
両親に貰った大切な“ウィリス”の名は隠し、狂犬事件の狂犬(マッドドッグ)からもじった“マドック”の名を使い、この日をずっと待っていた…。
厳重な警備の中で、ウォーロック家の人間を5人も殺害すれば警察のメンツは潰れる。
そしてウォーロック氏の一粒種であるアネリを殺せば、すべての復讐は終わる………はずだったのに。
―――マイティガード―――
銃火器の比にならない恐ろしい兵器が造られていた。
マドックは最後の最後で、亡き父が信頼していたリトル・レッド社に負けたのである。
絶対にマドックは逃がさない。奴に殺される気も毛頭ない。
そして、
「お嬢様、私の傍を離れませぬように……」
「ええ、護ってね」
「命に代えても」
“もう互いに離れない。”
「マドック刑事、最後に聞かせて。どうする? 投降する? 別にそれでもいいわよ。散々計画がめちゃくちゃにされたまま、リトル・レッド社への復讐を中途半端に終わらせてもいいのなら」
「…………ッ!!」
アネリの挑発がマドックを的確に刺激する。
マドックは右腕をだらりと下ろすと、左手で拳銃を取り出し構えた。今まで扱っていたのは右手。だが利き腕ではない左手で構えても、銃はまったくぶれることがない。
さすがの腕前。これでオドワイヤーとパーシバルの急所を一撃で仕留めたのだから、恐ろしい男だ。
「負けられないのはお前達だけじゃない…っ! この、化け物ども!!」
引き金が引かれた。
バンッ!
「…っ!」
精確に顔を狙って放たれたが、パーシバルのほうがわずかに速く弾を避ける。弾はアネリをかすめることなく背後の壁へ。
視線がやや逸れた隙を狙い、マドックは銃倉に残っている弾をパーシバルひとりに集中させる。
バンッ! バンッ!
1発目をまた寸でで避け、さらに飛んできた2発目の弾を、
「………ッ!」
パーシバルは片手の平を開き、その中心で受けた。
弾は貫通することなく手の平の皮膚数ミリまで食い込んで止まる。
「な……ッ!!」
額を貫いたこの弾なら唯一パーシバルを殺せると信じていた分、マドックは想定外の出来事にただただ戸惑った。
「額の貫通は予想外でしたが、意識していれば体の一部を硬化して弾を止めることなど簡単です」
受け止めた弾を床に捨てながら、パーシバルは人間離れしすぎた持論を述べる。
規格外だ。どこまでも。
「…クソッ…!!」
マドックは諦めたように銃を床に投げ捨て、代わりに懐から黒いものを取り出す。
拳大の、小さなパイナップルのような形。細いストッパーが付いているそれが、リトル・レッド社でも幅広く手掛けている“手榴弾”だということに気付く。
「死ねっ!!」
マドックは歯でストッパーを引き抜き、手榴弾をふたり目掛けて投げつけた。
「…………!!」
パーシバルは狼狽える。
避けるのは簡単だ。だが自分の身が護れたとしても、背後にいるアネリを護ることはできない。それは論外だ。
1秒もない一瞬の時間で考えをめぐらせた結果、
――お嬢様…っ、お見苦しい姿を晒すこと、お許しください…!
「…がっ……!!」
信じられなかった。
パーシバルはとっさに大きく口を開け、飛んできた手榴弾を真っ直ぐ胃の中に送り込んでしまったのだ。
今まで手榴弾を食べた人間なんて見たことがない。そこにいた全員が目を疑う中、パーシバルは両手で口を押さえる。
ズン…ッ!!
直後に胃の中から鈍い音がした。それが手榴弾の爆発だということは言うまでもないだろう。
パーシバルはゆっくりと手を離す…。
「……あぁ、なんということでしょう…。お嬢様のお毒見用に食べた料理が消し炭になってしまいました……」
口の端から黒い煙を立ち上らせているが、パーシバル自体は無事だった。被害があったといえば胃の中に収まっていた食べ物くらい。外部もそうだが、一体彼の内部はどうなっているのだろう。
「……ぁ、あ……ッ!」
銃弾も無駄。手榴弾も無効果。頭を撃っても致死量の血を流しても死なない。
「……なん、なんだ…っ…!」
マドックは、これ以上この“怪物”を殺す手段が思いつかなかった。
「…ば、化け物…ッ!!!」
焦点が合わなくなってきた目で、パーシバルに酷い軽蔑の視線を向ける。
――私が復讐を誓った相手は…リトル・レッド社は…っ、おぞましい化け物だ…! 悪魔だ…!!
「化け物がッ!!!」
狂ったように叫び、マドックはその場に這いつくばって、たった今投げ捨てた拳銃を取りに向かった。
「…っ、ひッ、…ヒィッ…!!」
だが今度は銃身が大きく震えている。デボンの時以上の恐怖と動揺が、彼を襲っているのだ。
「化け物? 私が?」
それは誰が聞いても侮辱の言葉と受け取るだろう。
だが、
「……ええ、そうですね。むしろ光栄です。私はずっと化け物になりたかったのですから」
パーシバルはその侮辱を、褒め言葉として受け取った。
そこには昔、アネリに読み聞かせた1冊の絵本が関係している。
『王子様はお城に住まう、火を吐く恐ろしい怪物に、正義の剣を突き立てました』
「お姫様がピンチに陥ってようやくノコノコ現れる王子様よりも、常にお姫様の傍でその身をお護りできる怪物に、………私はなりたかったのです」
機械の体を持ち、驚異的な戦闘力を誇る自分は、人間からすれば怪物だ。
あの時、絵本の中で王子に殺される怪物が、パーシバル自身の境遇と重なった。
だからパーシバルは、人間になれないならせめて怪物になりたいと思ったのだ。
ただし、
――アネリお嬢様を何者からも護る、最凶の怪物に。
もうパーシバルは瞳を曇らせることはなかった。
心の中まで見透かされそうな鋭い眼光は、マドックを逆に恐れさせる。
「……あっ、ぁ……ア…!」
構える拳銃がぶるぶると震える。
今更こんなものが何の役に立つだろう。目の前にいる怪物には効かない。
そして、
「ぐ、ガアァ……!!」
バネッサが這いずりながら、ゆっくりとこっちに近づいてくる。
マドックは命の危機を感じながらも、それを回避する手段なんて無いことを分かっていた。
「………ッ…!」
絶体絶命。まさかそんな言葉を使う日が来るなんて。
マドックはパーシバルに向けていた銃口を、ゆっくりと自分の顔に近づけていく…。
「いけないっ、パーシバル!」
アネリの声と同時にパーシバルは走り出す。
マドックは銃を口に咥え、自分で自分の命を絶とうとしていた。
引き金が引かれる寸前、
――っ!!
パーシバルが、マドックの銃を握る手元に強烈な薙ぎ蹴りを見舞った。
「ヅ…ゥッ…!!」
銃の先端の照星が口の端を引き裂き、新しい傷と血を生む。
そのまま拳銃はマドックの手から離れ、部屋の隅へ飛ばされていった。
「……ア、ァァアァ…!!」
最後の手段を絶たれた瞬間、マドックは狂ったように襲い掛かってきた。
が、完全な丸腰のマドックが、パーシバルに勝てるはずもない。
パーシバルは奴の背後に回り、ただ一度。
トンッ
手刀で、マドックの首筋を強く叩いた。
「……ッ、く……!!」
ぐにゃりと歪む視界。脳みそがめちゃくちゃに揺さぶられたような、気分の悪い感覚。
――い、いやだ……ッ、私の、私の敵討ちはこんな…、こんな形で、終わるはずじゃなかったのに…!!
復讐も中途半端に終わり、自殺もできなかった。自分がとんでもない恥さらしに思える。
それにすら抗えないまま、マドックはパーシバルの手刀によって呆気なく意識を失ってしまった……。
―――
――――
『…父さん、兄さんも…行っちゃうのか?』
この日が来ることはずっと前から決まっていたことだ。
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父は言う。
『ああ、だが心配するな。俺達は必ず帰ってくるからな。政府は残虐の度を超えてる。俺達が襲撃して分からせてやるんだ。もう無差別な死刑はさせない。高い税金も徴収させない。ウィリス…お前達子どもの未来のために、父さんと兄さんは英雄になってくるよ』
父の大きな手が、ウィリスの頭を撫でる。
『………うん、待ってるよ…』
行かないで、とは言えなかった。
父と兄は家族と、無惨に死んでいった友のために、テロに参加するのだから。
父は扉の脇に立てかけておいたボウガンを手に取る。
『すごいだろう。リトル・レッド社が格安で提供してくれたそうだ。仲間の分も全部だ』
殺人に使われるはずなのに、流線型のボウガンはとても美しかった。
ウィリスはその形をしっかり目に焼き付けて、同じボウガンを背負う父と兄を見上げる。
『ぼくも、大きくなったらふたりを手伝うよ』
すると今度は兄が笑う。
『はは、馬鹿だなぁ。戦争はこれきりだよ。いや、これきりじゃないといけないんだ。……お前はしっかり母さんを護れよ?』
ウィリスは視線を隣に立つ母に向ける。
父と兄は外で戦い、自分は家の中で戦わなければ。
ウィリスは信じていた。父と兄は必ず帰ってくる。襲撃は必ず成功すると。
『うん。いってらっしゃい!』
そして、南米のテロが勃発した。
テロ集団は強い武器を持ち寄り最後まで戦った。
が、本物の軍隊に勝てるはずもなかった。テロに参加した800人以上の武装兵の半数は戦争で死に、半数は処刑された。電気椅子から銃殺までの5つの方法で。その中には、ウィリスの父と兄も含まれており、
『英雄になってくるよ』
皮肉にも、自分達が倒そうとしていた政府によって息の根を止められる結果となる。
『……父、さん…っ、兄さん…!!』
家族の死の知らせを受けたウィリスのショックがどれほどのものか。想像もつかない。
その時だ。幼い彼の中に、歪んだ正義と復讐心が同時に生まれた。
『………リトル・レッド社さえなければ、父さんはテロに参加することはなかった…。政府は…国家の犬だ。あいつらのせいで…、父さん達はむごい死に方をすることに…!』
ウィリス少年の復讐は、その20年後に実行される。
両親に貰った大切な“ウィリス”の名は隠し、狂犬事件の狂犬(マッドドッグ)からもじった“マドック”の名を使い、この日をずっと待っていた…。
厳重な警備の中で、ウォーロック家の人間を5人も殺害すれば警察のメンツは潰れる。
そしてウォーロック氏の一粒種であるアネリを殺せば、すべての復讐は終わる………はずだったのに。
―――マイティガード―――
銃火器の比にならない恐ろしい兵器が造られていた。
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