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関ケ原
駅の桜
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もうずいぶん前のことなので、現在もこうなのかは知らない。
学生で、できるだけお金を節約する旅だった。
春になったので京都へ花見に行こうと思った。寒い冬が終わり、日差しが眩しく感じられるようになると、緑が芽吹き、花が咲き出す。
桜が舞い散る時期は、旅に出たくてうずうずする。
ネットで宿を取って西へ向かう列車に乗る。各駅停車が乗り放題の青春18きっぷ(当時)を使って京都へと向かっていた。
とにかく桜の花が観たかった。
一面の桜を求めていた。
始発で行くつもりだったがそれはできず、のんびり出たら人がまばらの列車になり、ひとりでボックス席の窓際に座って流れる景色を見ていた。
春だったので、それだけでも桜が咲いていた。
満開の桜の木があるだけで世界は華やいで見える。どうしてこんなに心がはずむのか。春になるとどこに行っても桜があり、日本に生まれて良かったとさえ思う。
列車が停まり、駅が見事な桜に囲まれているのが目に入った。
反射的に荷物をまとめていて、降りる駅ではなかったけれど降りていた。
ちらりと見えた駅名は『関ケ原』。
1600年に家康率いる東軍と豊臣秀頼をかつぐ西軍が戦った場所。
あの、天下分け目の戦があった関ケ原だった。
とにかく見事な桜だった。
判断は間違えていなかったと、景色を楽しみつつ改札を出た。
晴れた空の下、舞い散る桜の中を歩くのはなかなかよかった。
平日とはいえ春休み。
やや出発が遅かったとはいえ、昼下がりの午後。
なぜか人がいない。
まったくいないわけではない。ぱらぱらと降りる人はいた。
でも桜など見向きもせずにどこかへ行ってしまう。こんな素敵な桜が咲いているのにどこへ行くのだろう。
足早に去って行く人たちを見て思った。
ただ、満開の桜のおかげか淋しい感じはしない。
気を取り直して無人の観光案内へ向かう。そこにあった簡単な地図を手にして、急いてしまう気持ちを抑え、駅の向こうにも見えた桜色の景色を目指して歩くことにした。
こんなに素晴らしい花ふぶきを、ひとりで観ているのはもったいない。
それくらい綺麗な桜で、とても素敵な時間だった。
花びらがひらりひらりと舞っている。
その中をゆっくりゆっくり、のんびりと歩く。
こういう景色に出会いたいがために、私は旅に出る。
静かで穏やかな時間の中を気ままに歩く。
これこそが途中下車の醍醐味である。
たまに、思っていなかった行動を取ることがある。
それをしようと思っていなかったのに、勝手に体が動く。
その結果、悪いことが起きることもなかった。むしろ、面白いものを見つけたり、懐かしい気持ちになれることも多かったので、そういう時はその感覚を信じるようにしている。
だからよくやることだった。以前、荷物を持たずに飛び出してしまい、少しだけ困ったことがあったので、今回はちゃんと荷物は持った。
しばらく桜を楽しむと、その先に関ケ原の戦いの資料館があった。
桜並木が終わって他に観る物はないかと思っていると、待ってましたとばかりに。
桜に誘導された。
嫌な気持ちにはならなかった。こんなに素敵な誘導ならば悪い気はしない。
ごっつい瓦屋根に白い壁、窓があってその下の壁に斜めの黒い格子の時代劇でよく見るタイプを模した建物だった。思う存分に桜を観て満足していた私は中に入って展示物を見た。
関ケ原といえば、すぐに思い浮かべるのは『関ケ原の戦い』。桜の花に誘われてやってきたとはいえ、ここまで来てそれを知らずに宿に向かうのはもったいない。
展示されていた物をじっくりと読む。思っていた以上に面白かった。
印象的だったのは、極悪狸な徳川家康の肖像画。それに対比するように凛々しい殿様な石田三成だった。
関ケ原では、家康よりも三成の方が人気があるのだろうか。ちょっとおもしろかった。
一般的な知識では関ケ原の戦いで勝ったのは東軍の徳川家康で、徳川家は江戸時代のトップになるすごい家である。
三成と比べたら雲泥の差のはずだった。
それなのに三成の方がイケおじになっている。
少なくとも資料館では三成が好まれていた。いかに三成が優れた政治家だったかが懇々と説明してあった。
家康は勝利した後に、町民の癇に障ることでもしたのだろうか? そんな楽しい疑問を持った。天下を取った家康よりも、負けてしまった三成の方が持ち上げられていて、忠臣蔵では悪役の吉良上野介が地元では人気だとテレビで聞いたことを思い出した。
勝者ではなく敗者に優しいかつての日本人の気質を見た気がした。
敗者にするまでがえげつないことは置いておこう。
満足して外へ出ようとすると、資料館の入り口にさっきまではいなかった人がいた。おそらく昼食で席を外していたのだろう。基礎知識を入れるまで待っていたかのようだった。そのスムーズさに茶道を感じた。侘び寂びの絶妙なおもてなしである。
関ケ原のことなら任せてという雰囲気のおじさんだった。渡りに船というかとても嬉しい。
そのおじさんに持っていた地図を見せて町の見どころを教えてもらう。
いろいろな観光名所があるらしいが、2時間程度で観光できて駅まで戻れる場所ということで、三成の陣の跡地を勧められた。そこに行くまでに家康の陣跡もあり、激戦地跡を通って、三成の陣の跡地がある笹尾山に向かう。
おじさんにお礼を言って資料館を出ると、敷地内の椅子に座り時刻表の確認をした。2時間で戻ってきて乗れる列車があるかと、私はふつうよりもゆっくりと回るタイプなので、2時間以上かかっても大丈夫か調べてから行かねばならない。予約したのはビジネスタイプのホテルだったので門限のようなものはなく、電車が走っていれば問題はない。
大丈夫そうだったので、もよりの家康の陣跡をめざして歩き出す。
資料館の敷地を出ようとしたところで外をふらふらしていたおじさんにまた会ってしまったのでとりあえず笑みを浮かべて「行ってきます」と言った。
学生で、できるだけお金を節約する旅だった。
春になったので京都へ花見に行こうと思った。寒い冬が終わり、日差しが眩しく感じられるようになると、緑が芽吹き、花が咲き出す。
桜が舞い散る時期は、旅に出たくてうずうずする。
ネットで宿を取って西へ向かう列車に乗る。各駅停車が乗り放題の青春18きっぷ(当時)を使って京都へと向かっていた。
とにかく桜の花が観たかった。
一面の桜を求めていた。
始発で行くつもりだったがそれはできず、のんびり出たら人がまばらの列車になり、ひとりでボックス席の窓際に座って流れる景色を見ていた。
春だったので、それだけでも桜が咲いていた。
満開の桜の木があるだけで世界は華やいで見える。どうしてこんなに心がはずむのか。春になるとどこに行っても桜があり、日本に生まれて良かったとさえ思う。
列車が停まり、駅が見事な桜に囲まれているのが目に入った。
反射的に荷物をまとめていて、降りる駅ではなかったけれど降りていた。
ちらりと見えた駅名は『関ケ原』。
1600年に家康率いる東軍と豊臣秀頼をかつぐ西軍が戦った場所。
あの、天下分け目の戦があった関ケ原だった。
とにかく見事な桜だった。
判断は間違えていなかったと、景色を楽しみつつ改札を出た。
晴れた空の下、舞い散る桜の中を歩くのはなかなかよかった。
平日とはいえ春休み。
やや出発が遅かったとはいえ、昼下がりの午後。
なぜか人がいない。
まったくいないわけではない。ぱらぱらと降りる人はいた。
でも桜など見向きもせずにどこかへ行ってしまう。こんな素敵な桜が咲いているのにどこへ行くのだろう。
足早に去って行く人たちを見て思った。
ただ、満開の桜のおかげか淋しい感じはしない。
気を取り直して無人の観光案内へ向かう。そこにあった簡単な地図を手にして、急いてしまう気持ちを抑え、駅の向こうにも見えた桜色の景色を目指して歩くことにした。
こんなに素晴らしい花ふぶきを、ひとりで観ているのはもったいない。
それくらい綺麗な桜で、とても素敵な時間だった。
花びらがひらりひらりと舞っている。
その中をゆっくりゆっくり、のんびりと歩く。
こういう景色に出会いたいがために、私は旅に出る。
静かで穏やかな時間の中を気ままに歩く。
これこそが途中下車の醍醐味である。
たまに、思っていなかった行動を取ることがある。
それをしようと思っていなかったのに、勝手に体が動く。
その結果、悪いことが起きることもなかった。むしろ、面白いものを見つけたり、懐かしい気持ちになれることも多かったので、そういう時はその感覚を信じるようにしている。
だからよくやることだった。以前、荷物を持たずに飛び出してしまい、少しだけ困ったことがあったので、今回はちゃんと荷物は持った。
しばらく桜を楽しむと、その先に関ケ原の戦いの資料館があった。
桜並木が終わって他に観る物はないかと思っていると、待ってましたとばかりに。
桜に誘導された。
嫌な気持ちにはならなかった。こんなに素敵な誘導ならば悪い気はしない。
ごっつい瓦屋根に白い壁、窓があってその下の壁に斜めの黒い格子の時代劇でよく見るタイプを模した建物だった。思う存分に桜を観て満足していた私は中に入って展示物を見た。
関ケ原といえば、すぐに思い浮かべるのは『関ケ原の戦い』。桜の花に誘われてやってきたとはいえ、ここまで来てそれを知らずに宿に向かうのはもったいない。
展示されていた物をじっくりと読む。思っていた以上に面白かった。
印象的だったのは、極悪狸な徳川家康の肖像画。それに対比するように凛々しい殿様な石田三成だった。
関ケ原では、家康よりも三成の方が人気があるのだろうか。ちょっとおもしろかった。
一般的な知識では関ケ原の戦いで勝ったのは東軍の徳川家康で、徳川家は江戸時代のトップになるすごい家である。
三成と比べたら雲泥の差のはずだった。
それなのに三成の方がイケおじになっている。
少なくとも資料館では三成が好まれていた。いかに三成が優れた政治家だったかが懇々と説明してあった。
家康は勝利した後に、町民の癇に障ることでもしたのだろうか? そんな楽しい疑問を持った。天下を取った家康よりも、負けてしまった三成の方が持ち上げられていて、忠臣蔵では悪役の吉良上野介が地元では人気だとテレビで聞いたことを思い出した。
勝者ではなく敗者に優しいかつての日本人の気質を見た気がした。
敗者にするまでがえげつないことは置いておこう。
満足して外へ出ようとすると、資料館の入り口にさっきまではいなかった人がいた。おそらく昼食で席を外していたのだろう。基礎知識を入れるまで待っていたかのようだった。そのスムーズさに茶道を感じた。侘び寂びの絶妙なおもてなしである。
関ケ原のことなら任せてという雰囲気のおじさんだった。渡りに船というかとても嬉しい。
そのおじさんに持っていた地図を見せて町の見どころを教えてもらう。
いろいろな観光名所があるらしいが、2時間程度で観光できて駅まで戻れる場所ということで、三成の陣の跡地を勧められた。そこに行くまでに家康の陣跡もあり、激戦地跡を通って、三成の陣の跡地がある笹尾山に向かう。
おじさんにお礼を言って資料館を出ると、敷地内の椅子に座り時刻表の確認をした。2時間で戻ってきて乗れる列車があるかと、私はふつうよりもゆっくりと回るタイプなので、2時間以上かかっても大丈夫か調べてから行かねばならない。予約したのはビジネスタイプのホテルだったので門限のようなものはなく、電車が走っていれば問題はない。
大丈夫そうだったので、もよりの家康の陣跡をめざして歩き出す。
資料館の敷地を出ようとしたところで外をふらふらしていたおじさんにまた会ってしまったのでとりあえず笑みを浮かべて「行ってきます」と言った。
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