桜旅 ~たぶん歴女の花見~

佳純

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関ケ原

東軍の陣

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 地図を見ながら歩いていると、見覚えのある戦国武将の名前があった。戦国時代のゲームにはまっていて、そのカードに書かれていた名前だった。ガチャで引いて、出てきたカードに兵を乗せて城を攻める。
 頼りにしているカードもあれば、そうでないカードもある。

 地図の名前を見ていると、今風のカラーのイラストが脳裏に浮かんでいた。
 ゲームでお世話になっているカードたちのオリジナルがここで戦っていた。
 馴染があるのかないのかよくわからない状態だった。

 深夜にネットで知りあった人たちと遊んでいたゲーム。兵力やら適正やらを考えて使っていたカードのオリジナルの人たちがここに居た。そんな場所を、自分の足で歩いている。
 変な気分だった。

 現実と虚構ゲーム、そして歴史が交差している。立体と時間で4次元の旅をしている気分だった。
 観光でほんの一瞬、立ち寄るだけだったが、それでも何か感じる物があったりする。
 それが楽しい。

 清々しい春の晴れた日。
 小学校でも中学校でも高校でも必ず日本史の時間に習う、そんな合戦があった場所を、のんびりと歩く。

 たまに桜と出会いながら、足元に花びらを観ながら。
 のんびりのんびり、慌てることもなく。

 ここであの関ケ原の戦いがあったのかぁ……。


 それほど歩かずに家康の陣跡についた。
 そこは公園みたいになっていた。

 合戦の陣と聞くと、ドラマなどでよく見る映像が浮かぶ。背もたれのないパイプ椅子のような小さな椅子に偉い人が座って、その前に地図があって、もちろん私が持っているような地図ではなく、なんか偉そうな人が見るのに相応しいような立派な地図。その地図を囲むように武将が見ている。

 そして、ひょうたんのような物が先についた棒を持って偉い人が指図さしずをする。
 家康の陣も当時はそんな感じだったのだろうか?

 椅子のような物は床几しょうぎというらしいが、『家康がいた』とされている地点に『床几場』と書かれている石碑が建っていた。

 博物館の方に地図で教えてもらっていた時「首実験があった場所だ」と聞いていたので、神妙な気持ちで見つめる。首実検だもの。
 ひっそりとした公園。緑に囲まれて、石に文字が刻まれている。

 それをじっと見つめた。

 他の遺跡にある石碑とどう違うのだろうか?
 石碑があるということは何か特別な場所であって、関ケ原の戦いで大事な場所だったからここに現在石碑があるわけで……。木の板だと木が朽ちたら残らない。それほど長くはない時間で朽ちる。そこはやはり石にするべきなのだろう……。

 あまりにも変哲もないので、それほど長居はできそうになかった。
 それでもがんばってそこを見つめる。想像してみる。

 家康がいたということは、ここで首実験をしなければならないらしい。首を持った武士たちが「わたくしはこんなすごい人を討ちました」という報告に来なければならない。

 その首がすごい人の首なら、評価が上がって褒美も良い物になる。
 それが首実験である。

 ここに首がゴロンゴロン転がっていたのだろうか? 首のみが山になるシュールな景色を想像してみる。想像するだけでも不謹慎な気がする。そんなことが本当にここであったのか?
 現在は何もない地面を見つめる。

 首だと大変だから耳を持ってきたと聞いたような気もする。耳の場合は誰かを知ることはほとんどできないだろうから、数を競ったのであろう。笹に耳を大量に差して持ってきた人もいたらしい。ゲームのカードのイラストの武将の背中に笹が大量に描いてある物がある。さすがに耳は描いてなかったけれど。

 いったい、どれだけの命が失われたのか。
 私がいるこの場所で。

 かつては人としてみずから動いていた人間の一部が切り取られ、それが大量に置かれたであろう地面を見つめる。どんな感じで持ってこられたのだろうか?

 自分たちが切り取ったパーツを血が滴るまま持ってきたのか。もしかして、ここにその血がしみ込んだのか。それらを持ち、ご褒美をくださいと意気揚々とやってきたのか、後悔の念と戦いながらやってきたのか、それともそれ以外の感情か。

 すぐ横に慰霊碑もある。
 とても大きな石でできた慰霊碑だった。

 天下を賭け、多くの人の命が失われる戦が、かつてこの地で繰り広げられた。
 もちろん、今はそんな形跡はない。その時の頭蓋骨ずがいこつが転がっているわけではない。関ケ原の戦いは、今から400年以上も前のこと。

 血なまぐさい物はなく、穏やかな、ふつうの人が暮らすふつうの町だ。
 桜が一面に咲き誇り、とても美しくのどかな町。

 地図を見ながら次の家康の陣跡に行く。
 こちらは緑の葉の大きな樹々に囲まれ、薄暗い感じだった。慰霊碑はさっきよりも大きい。やはり首実検があった場所ということだ。
 地図には陣跡となって書いてはないが首実検が行われた場所ということで、ここにもたくさんの首や耳が持ってこられたのだろう。
 もしかして、耳なし芳一はそういう意味があったのでは?

 この他にもいくつかの家康の陣跡を観て回った。
 慰霊碑ももれなくついていた。

 桜がひらひらと舞い散る関ケ原の町で、ひとりで歩いてそれらを見ていた。
 陣跡をぼーっと見つめる。

 風がサヤサヤと樹々の葉を揺らす。
 その音しか聞こえない。

 どんなに悲惨なことがあった場所でも、緑は生え、すべてを覆いつくす。
 何もなかったかのように。

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