しかはあれども

山之城奈央子

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 私は、寡聞にして今日まで親の百ヵ日が【そんなモン】だとは知らなかったです、お兄さん。





はぁ~ 確かにネット上に法要の解説がされた何処かのページには、最近は百ヵ日を省略するところもある。とは書いてあったよ?

年忌も三十三回忌までで終える場合が増えた、とも。




 そういう時代なんだから、仕方ないのかと言ってしまうのもなんだか……




 例えば、今の兄が知っているのであろう、他地域の、他宗派の百ヵ日の法要に一体どれほどの手間と経費が掛かるのかは不明だが、我が家が古くから檀家となっているお寺は、客観的に見ても厳格なところでは無い。

葬儀社をも含めた、比較的良く聞こえてくる所謂【街の声】
この評価は、体感的にも正しいと私には思える。

だから、今度の百ヵ日にも事前に打ち合わせ、時間決めてお寺に足を運び、お布施と御供をご住職にお預けしたら読経の間手を合わせ、焼香を済ませたら何時ものように、卒塔婆と施餓鬼旗受け取って墓地に向かう……


たったそれだけの内容ですが、これの一体何処に声を荒げる必要があったのか……




 えっと、お布施ですか?(申し訳無いが、そんな高額じゃないよ? )



 それとも、事前に購入しに行く御供ですか?(唯の菓子折りだよ? )



 まさか、墓参が面倒だとか言わないよね?(否、帰省そのものが なんて事、思ったとか? )






仮にだよ? 田舎者には違和感しか無いが、それでも、それでも百歩譲って、仮に百ヵ日は省略する事を選んだのだとしても【そんなモン】呼ばわりは無いだろうに……




 今回も、父の時も、この手の行事にあまり参加して来なかったから、まるで【喪主という名の客】の様だった、と評されていた。


『例え身内でも、わざわざ足を運んでくれた弔問客に何故「ありがとう」の一言も言えない? 』と。

『顔を合わせたら、最初の挨拶はルールじゃなくマナーだろう! 式の最後の喪主の挨拶とは別の物だろうが! 』と。




祖父母のそれは、どれだけ記憶しているのだろう? 


それに、近しい親戚の時の事も、多分参列すらしなかったから知らないんだよね? 


それとも、貴方の妻の縁者側でも、こちらでの過ごし方と同じようにずっと無関心のままで来ましたか? 







 古いしきたりの継承は、ムズカシイ。

理由すら知らず、自分では説明も出来ないのに、何となく形だけが、歪にゆがんだまま、歪んでいる事にも気付かないままで居そうで、今現在、残ってるモノの全てが正しいとは、言えないし、言わないけれど。






 ではあるのだけれども……







  アア  コノ ヒトハ   アテニハ ナラナイ ヒト  ナンダ。








なんとなく気付いては、いた。




昔から……

誕生日も

母の日も

父の日も



そのような日々が、この世に存在している事さえ忘れているかのように、こちらから電話しない限り音信不通を貫く兄に、ある年の正月帰省時に少しだけ現金での小遣いを置いて帰ってくれるように頼んだ事があった。

未成年の私が、一人で準備するプレゼントよりも、二人で出し合った方が良い物が購入出来るから、と。


 ああ勿論、プレゼントなんて金額じゃないし、物でもない。
押し付けなのかもしれないと思いつつ、それでも子供なりに考えた上での提案は、あっさりと承諾され私に一万円が手渡された。



あの頃は、普通に話せていたし、分かってもくれた、兄にはそれなりに可愛がられていた、とも思う。



その年の、いつもより少し豪華なプレゼントに種明かしをすれば、母は可笑しそうに笑った。

兄が置いて行った以上に、帰省する度に母が持ち帰らせる様々な物資の方が、遥かに多く車のトランク一杯に詰め込まれ、見た目にもハッキリと判る程に沈み込んだ重そうな車体の後ろ姿を思い出したのだろう。

何しろ帰省時に手にしたバッグの『ん、お土産』と、差し出されるその半分以上は洗濯物だったりしたのだから(笑)






 数年後、兄から『実家への仕送りの一万円を半額にしたんだけど良い? 』
と、母に問い合わせという名の報告があった。車を買い替えるローンの支払いに充てたから と。


その頃には、まだ奨学金の返済もあったのは知っている。


が、給与明細は見た事も無いにしろ、日本人なら小学生でも聞き覚えがある程の大企業の月給が、おそらくは余程の地元民しか知らないであろう、中小企業の会社員だった父のそれより少ないとは考えられなかった。



 妹的には、兄自身の実力も、努力も、これっぽっちも疑う気は無いが、不器用だった分、それなりの幸運にも恵まれたからこその就職だったとは思う。(本人も『試験官と相性が良かった。話し易かった。』と喜んで言ってたし)

そして、誰もが知る大企業だからこそ、海外勤務もあり得るし、首都圏辺りに出たっきり帰って来ないかも知れないと、覚悟していたら意外にも地元に比較的近いエリアの勤務地を、本人が希望したらしい。

曰く、『自分は長男だし、年老いた親もいずれ看なければならないだろうから』 と。






 それは【我が家に於いては】終生果たされなかった希望だったが……






 当時、父は入院中で、既に帰宅は叶わないと思われていた頃ではあったが、裕福とは言えないまでも、そこまで困窮している訳でも無いから『それで構わないよ』と、母は異議を唱える気は無さそうだった。

そもそも、母は振り込まれる通帳のお金には一切手を付けず、ある程度貯まると時折兄名義で定期預金に回していた程だ。


 『まだ、お兄ちゃんの仕送りを当てにする気は無いよ』と『(兄名義で定期にするのは)母親だからかねぇ』と綺麗に笑った。




 もっとも、この後の制度改正で、本人しか定期預金は下せなくなると聞き『せっかくお母さんの為に送ってきたのだから』と、以降は定期化を止めるのだが。

『この先、収入が落ちた時に少しずつ使わせて貰おうかねぇ』と、寂しそうにベッドの父を見つめた。





だが、『ローンが終われば金額は元に戻すから』との口約束は、結局その後数十年経っても守られることは無かった。 
そもそも、企業の給与振込の型を取った仕送りのシステムで無かったら、残念ながら続いていたかどうかさえ怪しい。







 そして、父は亡くなり、既に祖父母もおらず、兄は結婚し、やがて段々と他人へと変わっていった。
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