充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道

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第六章 生徒編

第二十話 妹よ、俺は今ボスと大ボスの会話を聞いています。

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 展示会二日目。午前中は一日目と同じく一般開放、午後からは招待状を送った人達が中心になる。昨日ほどの混雑にはならないと思うが、早速外から大勢の声が聞こえてきた。

「失礼しまーす」

 顔を出したのはトロンの盾リーダーのヘイダー。その後ろには大勢の団員と冒険者も居るみたいだ。

「あっ、団長だ!」
「本当だ、トロンの盾のメンバーも居る!」
「デュラン副団長、こっち、こっち!」
「スネルさん、僕の描いた絵を観て!」
「チャップさん、わたし、お花の観察日記を書いたんだよ!」

 守衛として学校を警護してくれているトロンの盾は子供達も顔見知り。しかも、どういう訳か年少組の子供達には大人気だ。トロンの盾のうしろには、彼等より冒険者ランクの高いウィルやルシアさんも来ているのに、年少組の子供達は見向きもしない。普段から働いている姿を見ているからか、それとも若干中二病の気がある担任のシスターパトリに、あること無いこと話を聞かされているのか、その人気はS級冒険者のマーカスでも及ばない。

「落ち着け、落ち着け。慌てなくてもみんなの作品は、全部観させてもらうから」

 子供達の扱いにもなれたもので、リーダーのヘイダーを中心に興奮する年少組を落ち着かせる。トロンの盾の言葉にはえらく柔順な子供達。あれか、前世で校長先生の言うことは聞かない子供でも、有名スポーツ選手の言うことは素直い聞くってやつか・・・

「凄い人気だな・・・トロンの盾。子供達も、彼等がこれまでにしてきたことは詳しく知らなくても、優しい奴らだってことは感覚的にわかるんだな」

 この光景を優しい眼差しで見ているA級冒険者ウィルは知っている。トロンの盾と名乗り冒険者になる前の彼等が、裏ギルドとしてこの街の平和に貢献してきたことを。新生クランとして初の大仕事が、未曽有うのスタンピードだったことを。

「ウィル達も頑張らないと、このままじゃ冒険者に憧れる子供達は、みんなトロンの盾に入団を希望してしまうぞ」

「それはそれでアリじゃないか。ヘイダーとデュランは勿論、トロンの盾は皆いい男達だ。彼等の下で冒険者としての実践を学んでから、どんな冒険者になるかを決めても遅くない。彼等が、右も左も分からない新人冒険者を放っておくとも思えない」

「ウィル、お前も十分いい男だぞ」

「やめろ、気持ち悪い。俺にそっちの気はねぇぞ!」

 ウィルと二人、軽口を言い合っていると一瞬で場の空気が変わる。入り口に向かって直立するトロンの盾が一斉に頭を下げた。

「おはようございます、ボス!」

「「「おはようございます!!」」」

 ヘイダーに続き皆が挨拶するのは、長年に渡りトロンの街を陰ながら守り続けた元裏ギルドのボス、現在はトロンの盾相談役にして、頼れるトロンの門番マイヤーさん。

「やめろ、やめろ、俺はもうボスでもなんでもねぇ。今のリーダーはヘイダー、お前だろうが!」

「ヘヘヘッ、マイヤーさんが何と言おうと、俺達のボスはマイヤーさんですよ」

「まったく、しょうがねえなぁ・・・まあ、困ったことがあればいつでも相談に来い。ただ、ボスはやめろ!」

 裏ギルドは壊滅しても、彼等がマイヤーさんを慕う気持ちは変わらない。優しい門番マイヤーさんのおかげで、彼等は道を外さずに済んだのだ。

「ねえ、ヘイダー団長。あの人がボスなの?」

「そうだぞ、あの人が俺達を導いてくれたんだ。顔は少し怖いけれど、滅茶苦茶優しい人なんだ」

「ボス、かっこいい!」

 みんなが大好きなトロンの盾を導いたボスと聞いて、一旦落ち着いた年少組のテンションはマックス。あっという間に「ボス、ボス!」と叫ぶ子供達に囲まれてしまう。

「おい、ヘイダー、お前のせいだぞ。どうすんだよ、これ!」

「ヘヘヘッ、サイン会でもしますか?」

「アホ!しょうもないことを言っていないで、なんとかしろ!」

 フフフッ、ウィルの言う通りだ。子供達は感覚的に優しい人がわかるんだな。

「おい、トキオ、なんとかしてくれ!」

 トロンの盾でも収拾がつかなくなって、俺に助けを求めるマイヤーさん。やれ、やれ、しかたがないなぁと思ったところで鶴の一声。

 パン、ハン!

「はい、そこまで。他のお客様もいらっしゃるのですから、みんな持ち場に戻りなさい」

「「「はーい!」」」

 名残惜しそうな子供達だが、マザーループには素直に従う。流石は我が校、並びに教会のトップ。影響力は俺やトロンの盾の比ではない。そしてここにもう一人、マザーループに最も影響を受けた人が。

「おはようございます、マザー」

 普段はべらんめえ口調のマイヤーさんも、マザーループの前では肩をすぼめて恐縮している。まるで、怒られている子供の様だ。

「おはようございます、マイヤー。忙しい仕事の合間を縫って、よく来てくれましたね」

 マイヤーさんにとって、母であり、御師でもあるマザーループ。二人の関係は年十年経とうが変わらない

「招待状も頂きましたし、トキオも誘ってくれましたので。俺も、立派な学校が出来て子供達がどんなことを教えてもらっているかには興味がありました」

「トキオさんには感謝してもしきれません。立派な学校を建てていただいただけでなく、教師としても私などより遥かに優秀で、読み書きや計算以外にも沢山のことを子供達に教えていただいています。私の力不足で、マイヤー達にこの学校のような教育をしてあげられなかったことは、本当にごめんなさい」

「や、やめてくださいよ。マザーが俺達に感謝されることはあっても、謝ることなんて何一つありません。今ならわかります、あの時マザーに助けて頂かなければ、間違いなく俺は近い将来命を落としていました。生きることは戦うことだと思い込んでいた俺達を変えてくれました。それだけじゃありません、読み書きや計算まで教えていただき門番にもなれました。マザーが居てくれたおかげで、あの時声を掛けていただいたおかげで、今俺は充実した人生を送れています。毎日笑っていられます」

 そう言って笑顔を見せるマイヤーさん。マザーループも嬉しそうに微笑む。

「年齢を重ねても、笑った顔は子供の頃と同じですね。あなたの笑顔が伝染して、他の子供達も笑顔を取り戻していったのが昨日のことのようです。ありがとう、マイヤー。あなたが私の声を聞き入れてくれて、笑顔を取り戻し、学びの大切さを知り、門番となって巣立ってくれたことが、今この学校に繋がっています。後輩たちが夏休みに頑張った成果を、見てあげてください」

 二人が話す姿を少し離れた場所で見ていたトロンの盾。ボスがマザーループを尊敬していることは知っていたが、実際に本人と話している姿を見るのは初めて。普段のボスからは想像もできない低姿勢な態度が新鮮でもあり、改めてマザーループを尊敬してやまないことも窺える。そんな中、トロンの盾と一緒に会話する二人を見ていた年少組の子供達が小声で話し始める。

「・・・ボスがマザーに頭を下げているよ」
「・・・うん、何度も」
「・・・マザーって凄いんだよ」
「・・・ボスより上の人なんだ」
「・・・きっと、マザーが大ボスなんだよ」
「・・・大ボス、かっこいい!」

 パン、ハン!

「聞こえていますよ!くだらない話をしていないで、皆持ち場に戻りなさい。お客様が待っているではありませんか」

「「「はーい!」」」

 相変わらず返事だけは良い年少組。まあ、子供とはそういうものだ。それにしても、マザーループが大ボスとは・・・いや、マザーループが居なければ裏ギルドは存在しなかった。裏ギルドが存在しなければ、当然トロンの盾も存在しない。なにより、ボスだったマイヤーさんがマザーループに心酔しているのだから、あながち間違ってはいないか。



 朝一番に少し騒がしくはなったが、その後は大きな問題も無く展示会は順調に進んでいき、午前の部は無事終了した。現在、子供達は昼食を兼ねた昼休憩。午後からは招待状を送った貴族や街の有力者が中心となるため子供達は緊張するかもしれないが、俺にとっては、逆に知り合いが多くなるためこれまでより気は楽だ。

「一般の方にも沢山来てもらえて良かったですね、師匠」

「ああ、大きなトラブルも無くて良かったよ。あとは貴族と街の有力者達だけだから気が楽だ」

「フフフッ、初めはブロイ公爵邸に挨拶に行くのをあんなに嫌がっていたのに。師匠も少しずつこの世界に慣れてきたようですね」

「それをドラゴンのサンセラに言われているようじゃ、まだまだだよ」

 どうして魔獣の大森林最奥地に長年住んでいたドラゴンの方が順応しているんだよ!そういえば、サンセラに昔のことはあまり聞いていなかったから、今度執事服の謎と一緒に聞いてみるか。

「そうだ、午後から王都の学校で学長をしている、アマヤ イオバルディという方が展示会に来る予定だ。今後、何かと力になっていただけるとの事なので、サンセラにも紹介するよ」

「王都の学長ですか・・・」

『トキオ様に弟子入りを志願したが却下された者だ。弟子入りは叶わなかったが、本人たっての希望でトキオ様を心の師とすることは許された』

 こら、コタロー!余計なこと言うなよ!

「ほう、それは、どの様な人物か見定めておく必要がありますねぇ・・・」

『なかなか見どころのある人物だったぞ。トキオ様のお人柄と知識やお力、崇高な理念を瞬時に理解しておった。自らを家畜同然にお使いくださいと言っておるくらいだ』

「王都で学長を張るだけはあるということですね。わかりました、コタロー様。心の弟子とはいえ弟子は弟子。しっかりと見定めておきますので、ご安心ください」

『ああ。頼んだぞ、サンセラ殿』

 こいつら、俺を無視して話を進めるんじゃないよ、まったく。特にサンセラは、ミルやオスカーすら靡いてしまう、謎の人心掌握能力があるから厄介なんだよなぁ・・・軽い挨拶だけで済ませようと思って当日まで黙っておいたのに、お喋り聖獣め!

「まあ、今日は顔見せだけでいいから。あくまで、メインは展示会だぞ」

「はい、心得ております」

 嘘つけ!今、瞳の奥に炎が灯ったのに気付かない俺じゃないぞ!面倒くさいことにならなきゃいいけど・・・なんか、サンセラとイオバルディ学長って波長が合いそうな気がするんだよなぁ・・・

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