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第一章 七不思議の欠片
3.組織とは?
しおりを挟む樋脇と会話してから二日が経った。あれ以来、あいつからのコンタクトもない。
俺も沢村も普段から人とつるむ性格ではないのだが、怪談話をしてからと言うものの、月島を含めて三人で会話するようになった。座席の関係上、時々千堂も混じってくる。
沢村が言うには俺は天然で、月島は話しかけやすく、千堂はツッコミをしてくれるボケだそうだ。
だから何だと言うんだ?
俺には沢村のことを理解することは出来ないが、彼女は時々俺達を眩しそうに眺める。まるで自身と俺達の間に線引きをしているような。
だが、俺にはそれよりも気になることがある。――俺の実験は成功したのか、確認をしなければいけない。沢村に関して気になることも否めないが、それに関しては寝かせておくしかないだろう。
俺はスマホを取り出して、ネット上を検索する。すると今話題のニュースがすぐに出てきた。
『内閣官房副長官が重症。風沼トンネルにて追突事件』
あれだけ手を加えてやったのに、死んでねえのかよ。苛立ちを押し殺すことが出来ずに、思わず舌打ちをすると、視界の左隅でびくりと体を震わせる仕草が見えた。その隣席を見ると、沢村が俺から顔を背けようとしていたところだった。残念なことに既に目が合ってしまい、ビビった沢村が肩を跳ねらせる。
「悪い。ビビらせたか」
「いいえ、そうでもないけど」
顔にビビった、と書いてあるから嘘だな。
俺は少し迷ってスマホの画面を一瞥し、結局沢村に見せることにした。
「……何かあったの?」
俺の顔を窺いながら、沢村がおそるおそる尋ねる。
「ああ、これだ」
スマホの画面に映し出されていたのは、リアルニュース中継だった。内閣官房副長官の乗っていた車両が襲われた、と言う文字が飛び込んでくる。
「え……っ!」
沢村が吃驚した。
「この日本で襲撃事件なんて珍しいわよね。一体何があったのかしらね」
「さあ。外国と比べて安全とは言われているが、実際軽犯罪とかは多いんじゃないか? 明白な数字として換算されてないかもしれないしな」
「あ、それこの間習ったやつ。暗数って言うんだっけ?」
「そうだ」
「合ってた、ヤッター! 私だってたまには勉強をするのよ! ま、まあ……ともかく、これじゃ暫く日本を騒がせる話題入りになるわね」
調子づいて立ち上がった沢村は、軽く咳払いをして大人しくまた席に座った。恥ずかしさの余りに自己嫌悪に陥っている沢村を無視し、画面に視線を戻すと、ニュースキャスターの言葉に紛れてカメラ外の喧騒が僅かに聞こえてきた。
「トンネルに入った瞬間、黒い物体が車両に突っ込んできたらしいぞ」
「……なるほど。全然分からないね」
沢村が不思議そうにニュースを眺めている。
「鹿かな? でも黒くないか……残像だったりして?」
「さあな」
中継の文字の下に映し出されているニュースキャスターの元へ、新しい原稿が届けられた様子が映る。彼女はその原稿に数秒だけ目を通して口を開く。
『先ほどお伝えした情報に誤りがあったようです。内閣官房副長官は重症ではなく、軽傷でしたーー』
俺は画面を睨みつけたが、視線一つで現実など変えられる筈がない。失敗は失敗だ。
この事件を引き起こしたのは俺だ。内閣官房副長官を狙った訳ではないが、今後狙うべき人間どもの為にも、このトラップを試験的に実施したかった。勿論、俺の手を汚してはいない。ただ怪異を利用しただけだ。
沢村たちは、幽霊が現実に存在するのか分からないと称した。俺だってそうだ。だが怪異に関してのみ、存在していると確信をもって言えるだろう。
フィールドワークなどによって、怪異に関して研究している団体――組織がある。宗教団体に近いものだが、信徒から金を巻き上げることはしない。金品が目的ではないからだ。カルト教団に近い思想は持っているかもしれないが、怪しいかどうか聞かれると、そこまで怪しくはないと思う。教祖も一応いるが、その熱意は怪異の実態へと向けている。
ともあれ、害はないと言いたいところだが、彼らの目的は怪異による国家転覆だ。しかし彼らは怪異を研究し尽くしているが、実践することは叶わない。神秘を扱うことに対して、圧倒的に劣っているのだ。そも神秘を扱える人間など少ない。俺も組織の大半の一人だが、怪異の種は俺がばらまいた。だが、俺だけでは内閣官房副長官まで切っ先を届けることは叶わない。だからこその団体、集団だ。
まあ、一つ目の実験は失敗に終わったけどな。俺は難渋の息を吐く。
「あ、横転した車に火がっ!」
沢村が声を上げるや否や、画面から阿鼻叫喚の表情が色濃く伝わってくる。
「引火したようだな」
「凄い騒ぎになっているわね。まっ、どうにかなるでしょ。見せてくれてありがと」
意外とドライだな。思わず沢村の横顔を眺める。
「どうかしたの」
「いや……、お前って」
「二人して何の話をしてんの?」
後ろから声を掛けられ、俺たちは同時に振り向いた。そこには月島が大きな段ボールを抱えながら立っていた。
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