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第一章 七不思議の欠片
学園保護委員会との接触
しおりを挟む後ろから声を掛けられ、俺たちは同時に振り向いた。そこには月島が大きな段ボールを抱えながら立っていた。
「月島こそ何なの、それ」
教室の所々から黄色い悲鳴が聞こえてくる。どうせ月島のことなんだろ。こんな奴の何処が良いのか、女生徒の気持ちなど理解できないな。
俺からしたら、あいつの方がよっぽど――。
「あ、これ? ほら、新学期な訳だからさ。新しい日記帳だとよ」
「――まだ日記帳を続けるのかよ」
心底うんざりするんだが。俺は苦虫を嚙み潰したように顔を顰める。
俺達の学校では、課題の一つとして、毎日の日記を課している。一日一日の復習など、自分の頭だけで充分だ。
「クラス全員分を持ってきたのなら、重いだろ」
「ん? それほど重くはないぞ」
言外に段ボールを下ろしたらどうだ、と提案したつもりが断られた。
とんだゴリラだな、こいつ。見た目は爽やかイケメンボーイで、深めの茶髪や彫りの深い造形も他人から愛されやすいだろう。がっしりとした体躯を見るに、この重たそうな段ボールを運ぶのに苦労もないといったところか。見た目と強度で人気者扱いされるのは一体どんな気持ちなんだろうか。
「それで、さっきまで何の話をしていたんだ?」
月島は段ボールを自身の机に置き、その上に置かれた鋏を手に取った。そして豪快にガムテープを剥していく。隙間から大量の日記帳が見えてしまい、俺は反射的に眉を顰める。
それでも月島の手元を眺めていると、日記帳を七冊ずつ分けていくので、机一列ごとに効率よく配ろうとしているようだ。
「国のお偉いさんが襲われたんだってさ。ニュースだよ」
沢村がそう教えると、月島も大して興味を抱かなかったようで、「へえ、そうなんだ」と一言で済ましてノートを配りに行ってしまった。
「政治関係は難しいから興味なさげってところかしら」
「そうだな」
月島の背を見ながら頷く。月島はノートを配りつつも、クラスメイトに話しかけていくので、コミュニケーション力の高さを見せつけてくる。……月島も月島で何か引っ掛かるんだが。どうして気になるのか? 考えても思い当たるものはないが、俺の第六感は大概正しいからな。
沢村も自分の席を後にして、廊下にあるロッカーから教科書を取りに向かった。
ふ、と樋脇のことが気になった。今日は朝からあいつを見掛けていない。教室を見渡したがその姿はなく、珍しく欠席なのだろうか。すると目の端で月島が不満そうな顔をしながら、教室を出ていくのが見えた。
廊下側の窓へと視線をずらせば、沢村がロッカーの前で二、三人の女生徒に囲まれていた。一体何がどうしてそうなったんだ。目を離した隙に、トラブルへと遭遇するのもよく見掛ける気がするんだが。
おそらくリーダー格のツインテールの女生徒が沢村へと距離を詰め、何やら彼女たちだけで話し込んでいた。だがツインテール少女の隣にいる取り巻きの片割れが、沢村の腕をいきなり引っ張り、沢村が危うく転びそうになったところを月島が割り込んだ。沢村の肩を掴んで、その身体を支える。事態は一瞬だった。危うく騒動になりかけていたが、沢村たちは彼女らと一言、二言交わし、すぐに教室に戻ってきた。
「大丈夫か?」
口を一直線に結んだ沢村に訊くと、彼女は重々しく頷いた。
「黒川くんってさ、学園保護委員会って知ってる?」
「知らないな」
「私もさっきまで知らなかった」
「俺は委員会に入ったこともないからな」
「そういえば確かに。黒川くんが委員会に所属していたところとか見たことないかも。ええと、学園保護委員会は今年から発足したらしいんだけど、学園の平和を守ってるんだってさ」
沢村の口ぶりは鬱陶し気だった。
「学園の平和……? この学校はそこまで物騒なのか?」
多少なりとも思い当たる節は、あると言えばあるんだが。
「風紀委員会は校則を扱ってるらしいんだけど、学園保護委員会は学校の雰囲気や生徒同士の問題に介入、解決する委員会なんだって」
そんな大層な委員会があっても良いのかよ。今年から発足したにせよ、つい最近までそんな委員会があっただなんて聞いたことが無い。ほんの少しだけ引っ掛かりを覚えるが、まあどうでも良いか。
ざっと聞いた話だと、ツインテール少女が学園保護委員会の委員長で、沢村に注意を促しに来たのだろう。考えなくても原因はすぐに分かる。横にいる月島だ。こいつは学年中、いや校内中が知っている有名人だからこそ、異性である沢村は女生徒らの嫉妬の的って訳だ。要は月島と仲良くするな、と言いたかったんだろ。
「私、目をつけられているみたいだから心配だわ」
「大丈夫だろ。あの女、確かクラスは違うだろ」
「えっ、黒川くんが分かるの!? ってことは、彼女のことを知ってるのよね。まさか……想いを寄せているとか……?」
「お前、ふざけてんだろ。この教室で見掛けたことがないんだから、他クラス一択だろ」
「……それもそうよね」
沢村は沈痛な面持ちで、静かに着席した。
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