審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第一章 七不思議の欠片

4.渡辺ちゃんと樋脇くん

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 紺青に晴れた空が広がっている。微雲すらない空間は、まるで時が止まっているかのようだ。心地よくて、暖かくて、誰かに見守られているようで、何処か落ち着かない。
 堪えきれずに息を吐くと、「サボりかしら?」と背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「今は授業中よ、樋脇くん。貴方はどの教師からも評判が良いんだから、無暗にサボらない方が良いんじゃないかしら。わたくしだって見過ごす訳にはいきませんこと」
「そんなに怒らないでよ。空が見たくなったんだってさ。すぐに荒れ模様になるって」
「あら。他人事?」

 彼女――渡辺真緒はそう言い放つと、僕の隣に立った。
 授業中の屋上は誰も来ないから穴場だったのに、と心中でぼやく。表情には出していない筈なのに、渡辺ちゃんには分かるようで、二の腕を抓られる。意外と痛い。
 まさか生徒を取り締まっている側の人間が来るとは思わなかった。でも彼女は僕を指導するつもりはさらさらない。
 ツインテールにした髪が風に揺らめいて、軽やかに踊っている。その様子に思わず笑みが零れた。

「ちょっと?」

 渡辺ちゃんが気色ばむ。

「ごめん。風は予定調和だなと思って」
「どういうことかしら。予定調和って神があらかじめ調和を定めているのよね。モナドだったかしら」
「例え話だよ」
「それなら空は自由だと思うべきなんじゃないの」

 渡辺ちゃんは眉根を顰めて口調を崩したが、すぐに首を横に振った。

「いけない。貴方に振り回されるのも大変なのよ。不思議ちゃんはこれだから困るわ。兎に角、先ほどターゲットと接触したわ」
「学園保護委員会として?」
「ええ、それは勿論。表立って動くのなら肩書が必要なんでしょう? 去年から準備を進めていたのだから」
「どうだろう。僕は別に何だって良い、とは思うんだけどね」

 それに渡辺ちゃんが思いつく寸法は大方、並外れているし。普通に沢村さんと友人関係を築けば手っ取り早いと思う。
 悟られないように渡辺ちゃんから視線を逸らし、空を見上げた。何でも呑み込んでくれそうな空を見ると、渡辺ちゃんに何でも話してしまいそうになる。

「――君は沢村さんを守らないといけないんだもんね」

 自分から背けるように渡辺ちゃんの真実を漏らせば、渡辺ちゃんが眉根を顰めた。

「守護者として責任を果たすつもりよ。樋脇くん、貴方はどうなのかしら」
「どうって?」

 わざと惚けると、渡辺ちゃんが「貴方のそういうところが嫌いだわ」と拗ねたように告げた。

「貴方個人の問題に首を突っ込もうなんてしないわ。そちらではなくて、わたくし個人の問題の話よ。――わたくしだけじゃ無理。そもそもタイミングが悪すぎるし、同じクラスにもなれなかったのが痛いのよ」
「そう言われても、僕には何も出来ないよ。だって僕は、君と違って守護者じゃない。それにしても君も大変だね。学園保護委員会なんて立ち上げたからには、守るべき人が多いんじゃない?」

 彼女が銘打って、立ち上げた学園保護委員会――簡単に言えば、学校の人気者を巡った争いの火種を小さい内に鎮火する委員会である。もし渡辺ちゃんが沢村さんを守りたければ、『学校の人気者と距離が近付きすぎて、人気者のファンから襲われる恐れがある』という態を装うべきだ。

「そうね。でもそのおかげでエッセンスを隠せるじゃない。あの月島も黒川くんも、わたくしの取り巻きたちが彼女に害を成そうとしたと勘違いしたでしょうね。彼らを騙し通せるクオリティなら、どんな人をも騙すことが出来るわ」
「それに人手は足りてるみたいだしね」

 渡辺ちゃんが口の端を上げる。肯定のつもりなのだろう。

「人手があっても能力が足りていないのよ。ひと一人を守れる能力が、ね。彼女は貴方にとっても必要な存在なのでしょう。わたくしに協力しなくて良いのかしら」

 沈黙が宿る。渡辺ちゃんの視線を痛いほどに感じる。
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