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第一章 七不思議の欠片
8.屋上の温室
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「さてと、どうしようかな」
僕は屋上から彼らの姿を見下ろして独り言ちる。
「本当にどうしてくれようかしら!」
その隣で怒り狂う渡辺ちゃんが、拳を握ってわなわなと震えている。気持ちは分かるけど、殺気は抑えてほしい。さっきは望遠鏡で彼らの様子を覗こうとしたから、黒川くんに気付かれる寸前だったのだ。まあ別に気付かれても困らないけどさ、彼が知らなければ知らないほど僕たちは動きやすくなる。
あれだけ言っても、自分の命を代償に実体験を得ようとしている人間だ。たとえ命が尽きる寸前でも、僕の手を借りようとはしないだろうな。黒川くんのことは好きだけど、頑固なところはムカつく。
祖母の時代は、妻は夫の三歩後ろを歩くとか言われてたらしいし、亭主関白だったとか。僕は人に尽くしたいってタイプでもないから、黒川くんの尻拭いとか本当に御免なんだけど、喪うよりはマシだからね。その内、この熱も冷めちゃうのかも。少しだけ残念に思うのは、やっぱり黒川くんのことが好きだからなのかな。
でも彼の実験に付き合うのは、その理由だけではない。いかに彼が目を付けた怪異という存在が、人間に対して影響を及ぼすのか気になるのだ。
「渡辺ちゃんはこれからどうするつもり?」
「私は守護者よ。私の命に代えても、たとえ神を滅ぼすことになっても、彼女を守り抜きますわ」
渡辺ちゃんが言い切る。
「へえ。具体的にどう守るつもり?」
「それが分からないから、貴方について回っているのよ!? 悪かったわね!」
「確かに協力体制を強いてきたもんね。そうだなあ……正直沢村さんを守りたかったのなら、怪異の発生を止めるべきだったね」
「怪異……? あいつも話していたようだったけど、怪異って何なのよ」
あれだけ性能の低い盗聴器を沢村さんに付けていたのに、怪異の部分を聞き取れただなんて相当な地獄耳だな。
「今、何かお言いになって?」
「……いえ、何も」
渡辺ちゃんって心の声も聞こえちゃうとか?
「ええと、何て言ったら良いんだろう。明確な定義づけはされてないかな。怪談や僕たちが言っている怪異とはまた違う……NEW怪異ってやつ?」
「NEW怪異?」
「あ、待って。冠詞を付け忘れちゃった! THE NEW 怪異だね」
「ここは日本よ。日本の学校で学ぶ英語に冠詞も何もないわよ」
渡辺ちゃんって結構言うよね……。僕は苦笑する。
「そもそも私たちの知ってる怪異と貴方の知ってる怪異って何なのよ」
立ちっぱなしだと疲れちゃうし、すぐ傍にある温室へと視線を向けた。
この学校は効率よく太陽光を浴びせられるよう、温室を屋上に配置している。あまり植物に詳しくはないけれど、確かに自分の家に生えている植物たちよりも成長は早い。冬に咲くはずの花が夏に咲いていたこともあったし。
渡辺ちゃんも僕の意図を察したようで温室を見た。
「そう言えば、貴方が管理しているのよね」
「うん、そうだよ」
「理由は聞かないわよ。学園側にも確認済みだもの」
「手早いね。秘書に向いているんじゃない?」
「秘書ですって? これでもご令嬢なんですけれど、わたくし!」
「司書ならもういるもんね」
「ええ、随分と出来る女と思わせるような彼女がねっ!」
どうやら渡辺ちゃんは、沢村さんの司書さんを敵視しているご様子。憤慨する渡辺ちゃんを引き摺って、温室に入る。
すぐ入り口にある小さめのランプを点ける。近くの花壇に合わせた百合型のランプだ。この温室は夜に使っていることもあって、灯りの用意は万端だ。中央の丸いテーブルに置かれている蝋燭へと火を灯し、片手で椅子を引く。
「どうぞ?」
「あら、紳士的ね。あの糞野郎に貴方を持っていかれるのは勿体ないわ」
渡辺ちゃんは悠然と座ったが、如何せん一言多いのでは。
「それってどっちに言ってるの?」
「月島くんと付き合いたいの?」
質問を質問で返され、思わず言葉が詰まる。それを否定と捉えた渡辺ちゃんが「違うわよね。それはそれで良かったわ」と言う。
「それで怪異って何よ?」
渡辺ちゃんが足も腕も組んで訊いた。
「言っておくけど、僕はそこまで詳しくないからね。もしかしたら間違ってるかも」
「前口上なんていらないわ」
「おーけい。僕たちにとって……いや、一般的って言った方が分かりやすかったね。怪異とは、普通では説明がつかない事象のこと。例えるなら曖昧、不思議、そんなこと人間の仕業では無理ってやつだね」
「それなら、わたくしでも分かりますわよ」
「だろうね、でも新しい怪異はちょっと違う。僕たちの知っている怪異は曖昧だからこそ、特に規定はないし、不思議な現象は全て怪異と仮定しても良かった。盗聴器で黒川くんたちの会話を聞いていたんでしょ? 彼らが踏んだ怪異は、ちゃんと発動条件があるんだ」
「発動条件なんて、そんなこと言ってたかしら?」
……言ってたと思うんだけど。
渡辺ちゃんが訊いていたタイミングでは、話題に上がっていなかったのか、もしくは渡辺ちゃん自体が最近学校で流行っている七不思議を知らないのかも。僕は月島くんから話を聞いて知っているんだけど。
僕は屋上から彼らの姿を見下ろして独り言ちる。
「本当にどうしてくれようかしら!」
その隣で怒り狂う渡辺ちゃんが、拳を握ってわなわなと震えている。気持ちは分かるけど、殺気は抑えてほしい。さっきは望遠鏡で彼らの様子を覗こうとしたから、黒川くんに気付かれる寸前だったのだ。まあ別に気付かれても困らないけどさ、彼が知らなければ知らないほど僕たちは動きやすくなる。
あれだけ言っても、自分の命を代償に実体験を得ようとしている人間だ。たとえ命が尽きる寸前でも、僕の手を借りようとはしないだろうな。黒川くんのことは好きだけど、頑固なところはムカつく。
祖母の時代は、妻は夫の三歩後ろを歩くとか言われてたらしいし、亭主関白だったとか。僕は人に尽くしたいってタイプでもないから、黒川くんの尻拭いとか本当に御免なんだけど、喪うよりはマシだからね。その内、この熱も冷めちゃうのかも。少しだけ残念に思うのは、やっぱり黒川くんのことが好きだからなのかな。
でも彼の実験に付き合うのは、その理由だけではない。いかに彼が目を付けた怪異という存在が、人間に対して影響を及ぼすのか気になるのだ。
「渡辺ちゃんはこれからどうするつもり?」
「私は守護者よ。私の命に代えても、たとえ神を滅ぼすことになっても、彼女を守り抜きますわ」
渡辺ちゃんが言い切る。
「へえ。具体的にどう守るつもり?」
「それが分からないから、貴方について回っているのよ!? 悪かったわね!」
「確かに協力体制を強いてきたもんね。そうだなあ……正直沢村さんを守りたかったのなら、怪異の発生を止めるべきだったね」
「怪異……? あいつも話していたようだったけど、怪異って何なのよ」
あれだけ性能の低い盗聴器を沢村さんに付けていたのに、怪異の部分を聞き取れただなんて相当な地獄耳だな。
「今、何かお言いになって?」
「……いえ、何も」
渡辺ちゃんって心の声も聞こえちゃうとか?
「ええと、何て言ったら良いんだろう。明確な定義づけはされてないかな。怪談や僕たちが言っている怪異とはまた違う……NEW怪異ってやつ?」
「NEW怪異?」
「あ、待って。冠詞を付け忘れちゃった! THE NEW 怪異だね」
「ここは日本よ。日本の学校で学ぶ英語に冠詞も何もないわよ」
渡辺ちゃんって結構言うよね……。僕は苦笑する。
「そもそも私たちの知ってる怪異と貴方の知ってる怪異って何なのよ」
立ちっぱなしだと疲れちゃうし、すぐ傍にある温室へと視線を向けた。
この学校は効率よく太陽光を浴びせられるよう、温室を屋上に配置している。あまり植物に詳しくはないけれど、確かに自分の家に生えている植物たちよりも成長は早い。冬に咲くはずの花が夏に咲いていたこともあったし。
渡辺ちゃんも僕の意図を察したようで温室を見た。
「そう言えば、貴方が管理しているのよね」
「うん、そうだよ」
「理由は聞かないわよ。学園側にも確認済みだもの」
「手早いね。秘書に向いているんじゃない?」
「秘書ですって? これでもご令嬢なんですけれど、わたくし!」
「司書ならもういるもんね」
「ええ、随分と出来る女と思わせるような彼女がねっ!」
どうやら渡辺ちゃんは、沢村さんの司書さんを敵視しているご様子。憤慨する渡辺ちゃんを引き摺って、温室に入る。
すぐ入り口にある小さめのランプを点ける。近くの花壇に合わせた百合型のランプだ。この温室は夜に使っていることもあって、灯りの用意は万端だ。中央の丸いテーブルに置かれている蝋燭へと火を灯し、片手で椅子を引く。
「どうぞ?」
「あら、紳士的ね。あの糞野郎に貴方を持っていかれるのは勿体ないわ」
渡辺ちゃんは悠然と座ったが、如何せん一言多いのでは。
「それってどっちに言ってるの?」
「月島くんと付き合いたいの?」
質問を質問で返され、思わず言葉が詰まる。それを否定と捉えた渡辺ちゃんが「違うわよね。それはそれで良かったわ」と言う。
「それで怪異って何よ?」
渡辺ちゃんが足も腕も組んで訊いた。
「言っておくけど、僕はそこまで詳しくないからね。もしかしたら間違ってるかも」
「前口上なんていらないわ」
「おーけい。僕たちにとって……いや、一般的って言った方が分かりやすかったね。怪異とは、普通では説明がつかない事象のこと。例えるなら曖昧、不思議、そんなこと人間の仕業では無理ってやつだね」
「それなら、わたくしでも分かりますわよ」
「だろうね、でも新しい怪異はちょっと違う。僕たちの知っている怪異は曖昧だからこそ、特に規定はないし、不思議な現象は全て怪異と仮定しても良かった。盗聴器で黒川くんたちの会話を聞いていたんでしょ? 彼らが踏んだ怪異は、ちゃんと発動条件があるんだ」
「発動条件なんて、そんなこと言ってたかしら?」
……言ってたと思うんだけど。
渡辺ちゃんが訊いていたタイミングでは、話題に上がっていなかったのか、もしくは渡辺ちゃん自体が最近学校で流行っている七不思議を知らないのかも。僕は月島くんから話を聞いて知っているんだけど。
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