審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第一章 七不思議の欠片

10.夢の扉

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 お昼休みの時間になったので、僕は図書室に向かった。
 この学校の人間たちはみな、図書室が好きではない。そもそも本を読む人が少ないばかりか、図書室の置かれた環境も嫌悪されているようだ。湿気で本にも黴が生えているし、以前に自殺した生徒もいるから恐ろしいみたい。それこそ七不思議に含めれば良かったのに。
 そう思いながら図書室の戸を引き、室内に入ると先客がいた。沢村さんは僕と目が合うと、縋るような声で「樋脇くん」と零した。

「え、どうかしたの?」

 沢村さんは首を横に振った。なんでもないって意思表示だが、そのようには見えない。

「僕じゃ頼りないよね。ごめん」

 今度は僕が落ち込んでみせると、沢村さんは「違うの!」と大きな声で叫んだ。沢村さんは、渡辺ちゃんや黒川くんとは違って素直で可愛いよね。

「じゃあどうして? 僕に何かできることはない?」

 彼女の座っている席に近づいて、その隣に腰かける。

「違うの。妙な夢を見たっていうか」

 ゆるりと首を振って、視線を自分の指先に向ける。何やら言いにくい内容らしい。

「……変な子だって思わないで欲しいんだけど」
「夢の中でしょ? それなら何でもありじゃない」
「……それもそうよね。うん、ありがとう」
「摩訶不思議な夢でも見たの?」

 そう尋ねると、沢村さんは静かに頷いた。

「四限の授業で寝落ちしちゃってさ。なんか体がふわふわと下に落ちていく心地がして……あと、カチリって音が聞こえてきたんだよね。金属音に近いかも。それでハッと目を覚ましたら、一面が真っ白。もう壁も床も天井も真っ白の廊下だったの」
「へえ、綺麗だね」
「そうなんだけど、でも私がその世界の異物に思えちゃって怖かった。まるでアリスになった気分だったの」

 沢村さんが言うには、その世界は白しか存在しない円環な廊下だったらしい。白昼夢だと思った彼女は廊下の先へと歩き出し、綺麗に装飾された扉へと到達したと言う。何かの紋章が美しく描かれていたようで、それこそ現代の至宝だろうな。

「ゴテゴテな扉に触れたら開いちゃってさ、中を見たらもうビックリ! 天井が見えないほどのたっか~い書棚に囲まれてて、まるで映画のセットに入り込んだみたいだった!」
「そんなに本が読みたかったのかな?」
「そうかも。夢の中の出来事は、欲求に直結してるとか聞いたし」
「それ絶対、雑誌の受け売りでしょ」
「あ、分かった? 一言一句覚えてたの」

 夢の続きを促すと、書棚に囲まれた部屋の隅に大きなデスクが置かれていたらしい。そのデスク上にはローマ字で『SAKI』と書かれた透明な石があったんだとか。既に立ち上がった状態のパソコンや、乱雑に散らばった本や書類もあったようだ。

「それでパソコンを覗いてみたんだ。画面は本の題名リストだったらしくて、もうすっごい量なの! 読みたい本は特に無かったんだけど……ちょっと今、気になることがあって」
「気になること?」
「うん、ちょっとね」

 沢村さんは苦笑いをして曖昧に誤魔化す。

「それで本を探してみたら、一冊だけあったんだよね。それでその本を読みたくて脚立とか色々やってみたんだけど、取れなくてさ……もう誰があんな高いところまで本を積み立てたのよって問い質したくなっちゃった。それで『新怪異大全が読みたいのに』って呟いたら、それが頭上から落ちてきたの」
「頭上から? 危なくない?」
「あはは、本当にそう。落下した本に巻き込まれて死ぬかと思ったんだけど、そこは流石夢って感じ! いきなり落ちてきた速度がゆっくりになって、私の両手に静かに降りてきたのよ。それで読もうとしたら地震が起きて、轟音も聞こえてきたと思えばさ。書棚から大量の本も落ちてきて! その本の雪崩に呑み込まれそう! って時に目が覚めました……」

 ふう、と息を吐いて、沢村さんは「夢で良かった」と安堵していた。
 まだ司書さんは出てきていないようだ。おそらく覚醒前のことだと思う。渡辺ちゃんが荒療治計画を立てていたけれど、怪異と接触した以外の別の要素――どう考えても月島くんのおかげだろう。

「結局調べたかったものも分からなかったし、図書館に来てみたは良いけど、怪談話に纏わる本が一冊も無いだなんて思いもしなかった」

 大きく肩を落とす沢村さんには悪いけど、それは少し違う。
 怪談に纏わる本は確かにこの図書室にもあった。だけど奥の書棚に長い間仕舞い込まれていた分、おどろおどろしい緑色に変化していた。だから学校側が処分してしまったんだよね、一昨日に。

「また夢の中の書庫で探してみた方が良いのかもね」
「え?」

 沢村さんが顔を上げて僕を見る。

「もしかしたら、その書庫が沢村さんの潜在能力なのかもよ。君の知りたい内容が分かるのかもしれない」

 彼女は大きく目を見開いた。今の沢村さんにとって、ただ些末な夢の承認でしかないもんね。

「樋脇くんに相談して良かった。ありがとう」
「ううん、こちらこそありがとう」

 僕も微笑み返す。沢村さんは一人で不安を吐露するために誰も来やしない図書室に来ていたのだろう。図書室に嬉々として向かう奇特な人は僕だけだったみたいだし、僕も本を返却するだけの用事だった。
 でも渡辺ちゃんが気にしていた事象を聞くことが出来て良かったかも。ただ現時点で、沢村さんから夢の話を聞いた、と言う記録を残しておく訳にはいかない。

「樋脇くんはこのあと……?」
「本はもう返したからね。教室に戻る?」
「うん、そうしよ!」

 沢村さんが立ち上がり、出口へと向かう。その背に手を伸ばし、――僕は沢村さんから先ほどの記憶を消去した。
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