審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第一章 七不思議の欠片

11.バレてるココロ

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「ちょっと聞いてくれよ」

 帰り支度をしている俺達の元に、月島がやって来た。

「話を聞いてきたぜ。結局、誰が鏡の怪異を言い出したのか分からなかったけどな」
「え、そうなの」
「そ。樋脇と一緒にさ、女子たちに誰から聞いたか教えてもらって、そんでそいつに話を聞きに行ったんだよ」

 俺は思わず教科書を落とし掛けた。
 は? 樋脇と一緒に話を聞きに行っただと? 
 何でもう仲直りして、何で一緒に行ってんだよ。
 沢村から恐々とした視線を感じ、なんとか憤激を飲み干す。

「そしたらさ、そいつも別の誰かに聞いた話だったみたいで、今度はその誰かさんに話を聞きに行って……完全に鼬ごっこだったわ。終いにゃ、樋脇から聞いたって言い出す輩もいてよお。樋脇はオレと一緒にいた時に、初めて七不思議を知ったっつってんのに。そんで誰が言い出したのか、分からなくてさ」
「あー、樋脇くんなら絶対に嘘をつかないものね。嘘を吐くとしたらそいつね」
「そう思うだろ? それなのに樋脇も真に受けちゃって、『僕、もしかして記憶がないだけ……?』って混乱してたから、なんとか場を収めて宥めてきた」

 宥めてきた?
 ……は? 何その役得?

「あ、ははは……。ま、まあ、人狼ゲームでさえ、嘘をつけずに一発で人狼ってバレちゃうしね」

 沢村が横目で俺の様子を確認しながら、話を続ける。

「まじでそれ! あいつ、今後も生きていけるかな。怪しげな壺を売りつけられるんじゃないかって不安なんだけど。オレたちが今後も支えてやんねえと、生きられないんじゃね?」

 俺は頭を抱えそうになった。そうだ、あいつは知り合った全員を陥落させ、絶対的信頼感を付与する人間性を持っている。だからこそ、こいつらも樋脇は嘘をつかないと言い切れる。あいつは自分のせいで他人に何かしらの事象へと巻き込むことを恐れ、自分が間違っていると知るや否やすぐに謝ってくるという認識が一般的だ。つまり他人を愛おしみ、心配し、尽くすタイプだと思われている。

 だが、俺の知っている樋脇と、こいつらが知っている樋脇は全然違う。人は他人に対して態度や仮面を変える生き物だ。例えば上司に対して、教師に対して、親に対して、友人に対して。だが樋脇に関しては、教師やこいつらに対する態度は同一。
 そう考えると、俺に見せる顔は普段の顔とは、圧倒的に掛け離れている。それ故、月島に宥められる程の混乱をしていたのか疑問だ。或いは自分の魅せ方を自覚しているのか。

「なるほど。俺はあまり樋脇と話したことがないから、さっぱり知らなかったな」

 特に『さっぱり』を強調すると、一気に場が静まり返った。

「お前が樋脇と話している姿はあまり見掛けねえが、樋脇はよくお前を気に掛けてんじゃねえか」
「マジそれね! よく黒川くんのことを見てるし、目が合ったら凄く嬉しそうに微笑むよね」

 二人は同時に顔を見合わせ、「だよな~~!」と唐突に盛り上がる。

「樋脇がこっちを見てた時さ、オレらと目が合うと、一瞬驚くように目が丸くなるのが可愛いよな。そんで照れ臭そうに微笑んでるのが癒されるから、もっとオレらにも向けてほしい」
「は?」

 パキリ、と音が聞こえ、自分の掌を見る。持っていた鉛筆が折れてしまった。隣の沢村が小さく「ひえ」と怯えるが、月島は全くと言って空気を読まなかった。

「お前らって、ロミオとジュリエットみてえだよな。会話はしねえけど、視線で恋してるって感じがしねえ?」

 月島が同意を得るように沢村を見るが、沢村は慌てて首を横に振った。視線でも月島に訴えかけていたが、徒労に終わっている。

「ロミジュリってさ、出会って一日で結婚してるだろ? お前らもそんな感じだったりしてな。オレなんかさっき、樋脇に牽制されたばっかりだし」

 あれはお前が悪いに決まってる。
 待てよ、今朝の出来事は樋脇が俺を助けたように見られているのか。くっそ、恥じいな。――そも俺と樋脇って周囲から好き同士だと思われているのか?

「まっ、お前らのラブラブ光線は、お前とよくいるオレ達か感性が鋭い奴らしか分からないだろうから、気にすんなよ」
「いっそ俺を殺せ」
「話は戻すけど、怪異を言い出した人は嘘をついてることになるの?」
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