審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第一章 七不思議の欠片

使者の出現パニック!

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 そして鞄を置きに、二階の自室に向かった。
 電気があると言っても、リビングから離れると心細い気持ちになるのはどうしてだろ。
 父はいつも仕事で遅いし、一人しかいないのに。真っ暗な部屋の中が、階段と廊下の灯りで薄ぼんやりと浮き出る。ベッドの傍に鞄を置き、全開になっているカーテンを引こうとした。
 私の部屋の窓は台形の出窓となっている。そのため窓は三面となり、まるで三面鏡にも見える。鏡と言えば、昨夜のことを思い出すし、近寄りたくないんだけど仕方ない。

 ……しかし。ふと気付く。
 夜になると窓は反射して鏡になる。もう一度言うけど、それも三面鏡へ。
 最初は目の錯覚だと思った。ただの見間違えだって。私は左のカーテンへと手を伸ばした状態で一時停止し、視線をまっすぐに向けている。窓の中に映る私も、カーテンへと手を伸ばしていた。左右の違いもない。ほっと胸を撫で下ろす。
 やっぱり気のせいだったんだ、ともう一度手を伸ばした瞬間――。
 確かに真ん中の窓は問題なかった。カーテンを引こうと片手を伸ばしている側の左の窓もだ。だけど右側の窓だけは違う。
 私は片手しか伸ばしていないのに、右側の窓に映る私は両手で何かを掴もうとしていた。それは――カーテンではなく、私に。
 まるで、私を、捕えようとしているみたいに。

 ――後ろだっ!
 私は体を素早く翻すと、目と鼻の先に『私』がいて、にたりと笑った。私へと伸ばした指先がその首筋へと掠った瞬間に、私は『私』の片足を踏みつけてやった。バランスを崩した『私』の腹へと目掛けて、蹴りも入れる。視界の片隅で『私』が倒れていくのが見える。
 その隙に走って、序に鞄も手に取った。そして部屋から飛び出す。扉を強く閉め、『私』が出て来ないように背中で抑える。

 持ち出した鞄の中には携帯が入っている。手を突っ込んで探したが、こういう時ほど携帯は見つからないものだ。気が動転しているんだ、と自分を俯瞰的に見ている私がそう告げた。
 そんな冷静さが残っているのなら、今すぐ私の脳みそにも頂戴よ! いや、どっちも私か!

「もうっ、どうして! だって、見つからないんだものっ」

 何度鞄をかき回しても、携帯は見つからない。――何処にあるって言うのよ!

「くっそ!」

 私がそう毒づいた途端、『私』が派手な音を立てて扉をこじ開けようとしてきた。
 ドンッ、ドンッドンッ! 激しい音が響く。先ほどの『私』の姿を思い浮かべる。あいつ、寸分違わず私の姿かたちをしていやがった。あれが鏡の使者--。
 この扉を突破されたら、私は殺される。どうにか背を凭れて扉を押さえつけていると、勢いよく扉を叩かれて、その強い衝撃が背中に走る。

「もう大人しくしててよ!」

 躍起になって鞄の中を乱暴に探っていると、固いものが手に当たった。――あったわ、私の携帯!
 もう用済みになった鞄を投げやって、携帯の画面をスライドさせる。すぐに黒川のアドレスを開いた。登録だけしておいて、本当に良かった。これも樋脇くんが教えてくれたおかげだ。
 黒川へと電話を掛けてみたが、中々通じない。終いには留守電に繋がってしまった。
 舌打ちして電話を切る。こんなの一人でどうにもできないわよっ。内心でそう叫んだ時、携帯の着信音が鳴った。黒川が折り返しの電話を掛けてきたのだと思って、慌てて電話口に出ると、

「くろか……」
『よっ。オレだ、沢村』

 信じられないけれど月島の声だった。

「えっ、何で月島が!?」

 月島がどうして私の携帯電話の番号を知っているのか、スッゴク気になるんだけど、今は命の危機が先決よ。私は藁にも縋る気持ちで叫んだ。

「聞きたいことが山ほどあるけど、とにかく助けて!」

 使者は未だに扉を強く叩きまくり、私と同じ声で何やら呟いている。力強い振動と高まる恐怖で危うく意識が遠のき掛けた。

『やっぱ沢村のところにも出たんだな。オレのところにも来たぜ。大変だったわ、マジで』

 そう言っている割に声音が愉し気だが? 愉悦だと思っていやがるな、こやつめ。
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