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第一章 七不思議の欠片
遠回しの✘✘
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「お前、マジで勘弁しろよ」
俺達は沢村の家にいた。沢村は今日も親がいない、と言っていた。実際家に灯りは無く、沢村の私物から鍵を取り出して家の中に入った。
ここまで月島が沢村をおぶり、リビングの隣室のソファに寝かせた。一応電気は点けたままだ。扉も閉めずに、俺達はリビングへと戻る。
「いやあ、まさかねえ」
「じゃねえだろ。何で沢村から手を放してんだよ」
全てが終わった後、月島は確かに階段から落ちかかっていた沢村の体を支えていた。だが鏡が全て割れたことで一気に喜びが勝ったらしい。思わず沢村から手を放して両腕を天高く上げて「やったー!!」と大声を上げそうになったところで、事態に気付いたとかふざけていやがる。
慌てて階下を覗き込めば沢村は既に意識が無かった。特に命の別状もないと俺が判断して、沢村を持ち帰ることにした。
「悪い悪い」
「俺じゃなくて沢村に言え」
「了解~~」
返事が軽すぎる。眉根を顰めると、それに気付いた月島が「そんなに気にすんなよ」と笑った。
こいつには何を言っても無駄だな。
「月島。お前には幾つか聞きたいことがある」
「は? まあ、別に良いけど」
月島がソファに腰かける。
「お前は何者なんだ?」
真っすぐに視線を向けると、月島は瞬いた。俺の質問の意図が理解しきれないらしく、首を傾げて「何者?」と呟き返した。
「何者って言われても人間だけど?」
「そういうことを聞きたい訳じゃない。俺と沢村は使者相手に苦戦を強いられた。だがお前は使者が攻めてきた初日から使者を倒すことが出来たんだろ? しかも素手で。一体どういうことなんだ?」
矢継ぎ早に質問を繰り返すが、月島の反応は薄い。
「オレにとっちゃ、倒せたって感じしかないけど。逆に聞くけど、何でお前らは倒せなかったんだ?」
俺は沈黙した。俺が特異だと感じたものは、相手にとっても特異だと感じている。つまり個人の出来る範疇の理解を越えているということだ。
俺は月島のことを理解できないと思っていると同時に、月島も俺達のことを理解しきれないのだ。価値観が丸っきり違うのかもしれない。
「……なるほど。お前が変わった奴ってことは分かったさ。ああ、変わってると言えば、お前はどうして沢村を狙うんだ?」
俺がそう言った途端に、月島の眼力が強まる。獲物を横取りにされまい、という気迫も感じられる。
「別に沢村を取ったりはしないが、お前のその感情が気になる。沢村が好きなのか?」
「……好き? 何言ってんだよ、黒川。オレは別に沢村個人を好きって訳じゃない。殺して俺の色に染めたいってだけだ」
「……憎いってことか?」
「んな訳ないだろ。沢村は面白いし、一緒にいて気楽だ。憎しみなんて抱くわけねーだろ」
「じゃあ何で殺したいんだよ?」
自分のことは棚に上げて月島に問うと、月島が真顔となった。
「何で殺したい、か。それを言ってもお前には理解出来ねえだろ」
「沢村だって理解出来ねえだろ」
「何で沢村の名前が出るんだ?」
心底理解できない、と言う風に切り返され、俺は困惑した。
「オレのこの気持ちを理解できるのは多分二人しかいねーよ」
「二人……?」
「そりゃオレの唯一の肉親、妹だろ? あとは樋脇だな」
月島が上を見ながら左手の親指、人差し指を順に折る。二人しかいないのなら数えなくても良くないか?
「……樋脇? 何故樋脇が勘定に入ってるんだ?」
「樋脇はよお、オレの話を聞いてくれたんだ。初めて肉親以外からこの感情を認めてくれた。あいつが首肯してくれるのなら、オレは自由になれる」
普段はニコニコと爽やかに、沢村に殺気を向ける顔では欲情した顔とギラリとした歯を見せてくる月島。それが一転して表情の色が全く読めない。静かに隅を見ている彼の横顔はまるで心が和いだみたいだ。
月島と樋脇。沢村と樋脇。二人は樋脇と言う存在を信仰しているような一面を見せてくる。……手懐けられていないか?
「まっ、お前が何を気にしてんのかさっぱり分かんねえけど。オレは今回のこと、マジで巻き込まれただけだし」
「いや、お前が巻き込んだんだろ」
「は? ちげーけど」
「……いい。もう黙れ。お前が俺を階段から落としたことなんて忘れてやる」
俺がげんなりして、諦念の心で片手を振ると、月島はぐるりと首を俺の方へと向けた。
「あれは樋脇に言われてやったんだよ。お前の仰天ぶりは最高に楽しめたし、樋脇には感謝しねーとな!」
何を言われたのか理解できずに呆ける。思考が白一色に塗りつぶされる。
「……は?」
樋脇が月島に俺を階段から落とすように言った? あれほど俺を止めようとした奴が? そも何故そんなことをするんだ? 俺を愛しているとあんなにも瞳で告げてくる黒幕が、俺を殺そうとした?
「だぁから樋脇に言われてたんだよ。もしお前が例の鏡のある階段からオレらを引き連れて降りようとしてたら、お前を階段から突き飛ばしてみろってな。オレとしては血の雨を降らしながら下まで転がり落ちるお前が見たかったんだが、それは樋脇に止められてさ。まあ、血の雨なんてあり得ねーしなあ……」
――ほお? あいつはこの俺を試しやがったのか。結局全ては樋脇の掌の上だった訳かよ。
残念がる月島には暫く俺らのパシリを引き受けて貰うとして、俺は樋脇と話し合う必要があるようだ。
「そんで次はどうすんだよ?」
俺達は沢村の家にいた。沢村は今日も親がいない、と言っていた。実際家に灯りは無く、沢村の私物から鍵を取り出して家の中に入った。
ここまで月島が沢村をおぶり、リビングの隣室のソファに寝かせた。一応電気は点けたままだ。扉も閉めずに、俺達はリビングへと戻る。
「いやあ、まさかねえ」
「じゃねえだろ。何で沢村から手を放してんだよ」
全てが終わった後、月島は確かに階段から落ちかかっていた沢村の体を支えていた。だが鏡が全て割れたことで一気に喜びが勝ったらしい。思わず沢村から手を放して両腕を天高く上げて「やったー!!」と大声を上げそうになったところで、事態に気付いたとかふざけていやがる。
慌てて階下を覗き込めば沢村は既に意識が無かった。特に命の別状もないと俺が判断して、沢村を持ち帰ることにした。
「悪い悪い」
「俺じゃなくて沢村に言え」
「了解~~」
返事が軽すぎる。眉根を顰めると、それに気付いた月島が「そんなに気にすんなよ」と笑った。
こいつには何を言っても無駄だな。
「月島。お前には幾つか聞きたいことがある」
「は? まあ、別に良いけど」
月島がソファに腰かける。
「お前は何者なんだ?」
真っすぐに視線を向けると、月島は瞬いた。俺の質問の意図が理解しきれないらしく、首を傾げて「何者?」と呟き返した。
「何者って言われても人間だけど?」
「そういうことを聞きたい訳じゃない。俺と沢村は使者相手に苦戦を強いられた。だがお前は使者が攻めてきた初日から使者を倒すことが出来たんだろ? しかも素手で。一体どういうことなんだ?」
矢継ぎ早に質問を繰り返すが、月島の反応は薄い。
「オレにとっちゃ、倒せたって感じしかないけど。逆に聞くけど、何でお前らは倒せなかったんだ?」
俺は沈黙した。俺が特異だと感じたものは、相手にとっても特異だと感じている。つまり個人の出来る範疇の理解を越えているということだ。
俺は月島のことを理解できないと思っていると同時に、月島も俺達のことを理解しきれないのだ。価値観が丸っきり違うのかもしれない。
「……なるほど。お前が変わった奴ってことは分かったさ。ああ、変わってると言えば、お前はどうして沢村を狙うんだ?」
俺がそう言った途端に、月島の眼力が強まる。獲物を横取りにされまい、という気迫も感じられる。
「別に沢村を取ったりはしないが、お前のその感情が気になる。沢村が好きなのか?」
「……好き? 何言ってんだよ、黒川。オレは別に沢村個人を好きって訳じゃない。殺して俺の色に染めたいってだけだ」
「……憎いってことか?」
「んな訳ないだろ。沢村は面白いし、一緒にいて気楽だ。憎しみなんて抱くわけねーだろ」
「じゃあ何で殺したいんだよ?」
自分のことは棚に上げて月島に問うと、月島が真顔となった。
「何で殺したい、か。それを言ってもお前には理解出来ねえだろ」
「沢村だって理解出来ねえだろ」
「何で沢村の名前が出るんだ?」
心底理解できない、と言う風に切り返され、俺は困惑した。
「オレのこの気持ちを理解できるのは多分二人しかいねーよ」
「二人……?」
「そりゃオレの唯一の肉親、妹だろ? あとは樋脇だな」
月島が上を見ながら左手の親指、人差し指を順に折る。二人しかいないのなら数えなくても良くないか?
「……樋脇? 何故樋脇が勘定に入ってるんだ?」
「樋脇はよお、オレの話を聞いてくれたんだ。初めて肉親以外からこの感情を認めてくれた。あいつが首肯してくれるのなら、オレは自由になれる」
普段はニコニコと爽やかに、沢村に殺気を向ける顔では欲情した顔とギラリとした歯を見せてくる月島。それが一転して表情の色が全く読めない。静かに隅を見ている彼の横顔はまるで心が和いだみたいだ。
月島と樋脇。沢村と樋脇。二人は樋脇と言う存在を信仰しているような一面を見せてくる。……手懐けられていないか?
「まっ、お前が何を気にしてんのかさっぱり分かんねえけど。オレは今回のこと、マジで巻き込まれただけだし」
「いや、お前が巻き込んだんだろ」
「は? ちげーけど」
「……いい。もう黙れ。お前が俺を階段から落としたことなんて忘れてやる」
俺がげんなりして、諦念の心で片手を振ると、月島はぐるりと首を俺の方へと向けた。
「あれは樋脇に言われてやったんだよ。お前の仰天ぶりは最高に楽しめたし、樋脇には感謝しねーとな!」
何を言われたのか理解できずに呆ける。思考が白一色に塗りつぶされる。
「……は?」
樋脇が月島に俺を階段から落とすように言った? あれほど俺を止めようとした奴が? そも何故そんなことをするんだ? 俺を愛しているとあんなにも瞳で告げてくる黒幕が、俺を殺そうとした?
「だぁから樋脇に言われてたんだよ。もしお前が例の鏡のある階段からオレらを引き連れて降りようとしてたら、お前を階段から突き飛ばしてみろってな。オレとしては血の雨を降らしながら下まで転がり落ちるお前が見たかったんだが、それは樋脇に止められてさ。まあ、血の雨なんてあり得ねーしなあ……」
――ほお? あいつはこの俺を試しやがったのか。結局全ては樋脇の掌の上だった訳かよ。
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