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第一章 七不思議の欠片
解決した……?
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「えっ、何!?」
叫んだが一足無駄だった。使者が沢村の足首をがしり、と掴む。
「ひえ……!」
沢村が喉を引き攣らせる。恐怖で足が竦んでしまったらしく、抵抗もままならないようだ。
月島は今、身動きが取れないし、沢村との距離が近いのは俺だった。身を起こし、沢村の元に駆けつける。二の腕を掴み、こちらに引き寄せながら肩を引っ掴む。
しかし使者も力強く、沢村を階下へと引き摺り下ろそうとしてきた。
「離して! いや!」
耳元で沢村が騒ぐ。使者の青白い手に何度も蹴りを入れたが、びくともしなかった。
焦りと共に、思考が回る。月島の攻撃は全く入らなかったが、今の俺の蹴りは確かに入った。
俺はもう一度、沢村の手に握られた手鏡を見た。あの鈍い光は、鋭利な輝きへと変化していた。
「月島! こっちにサポート、回れ!」
「……了解だ!」
瞬時に判断した月島は、俺の使者から離れて俺達の元に走り寄った。沢村の体を月島へと放り投げ、沢村から手鏡を奪い取る。
「黒川!?」
俺は沢村たちから数歩右にずれて、改めて手鏡を鏡へと向けた。俺と手鏡の姿が映る。その瞬間、俺の使者の手がぼこり、と大きく波打ち、その手には同じ形の手鏡があった。
「何を…っ?」
月島も困惑気味に呟く。それを一切無視し、俺は駆け足に転がったバッドを拾い上げ、俺の使者の腕へと振るう。 コピーされた手鏡が床へと落ちる。それを拾ってその場で叩き落とす。パリンッ、と音が跳ね上がり、コピーされた手鏡は割れた。
同時に俺の握っていた手鏡も割れ、手中で音もなく欠片が灰のように分解されていく。物理的に有り得ない。思わず握りしめてしまったら、鏡の刃が手のひらを突き刺した。
「……っ」
「黒川!」
沢村が叫んだ。――心配など無用だ。
俺は自分の足元に転がるコピーされた手鏡の欠片を見る。破片の中に一つだけ、大きな欠片が残されていた。石器時代の鏃のように鋭く尖らせたそれを掴み、鏡へと刃先を向ける。
俺の使者が邪魔をしようと手を伸ばしてきたが、それを避けて鏡に突き刺した。
幾度もバッドで鏡を割ろうとしたがその度に失敗してきた。運よくバッドが当たっても傷一つ付けられなかった。――それでも。鏡のコピーである欠片が鏡に触れた途端、小さな亀裂音が聞こえてきた。確かに鏡へと刺さったのだ。
俺は自分の体重を乗せて更に深くまで斬り込む。徐々にヒビが入る。
力を籠めれば籠めるほどその亀裂は広がり、その傷を中心として円状に割れていく。とても静かだった。僅かに聞こえる耳あたりの良い音を奏で、鏡の淵までヒビが入っていく。
『ぎゅ、うぅお……』
鏡の中から汚い音が発生した。苦しんでいるような悲鳴。まだ割れていない鏡の表面が真っ黒に染まる。そして鏡の奥から何かが切り裂かれていく音が響き渡った。
『ぐっ、おぉおおおおおお』
凄まじい絶叫――。鼓膜が破れそうな程、空気が震える。その途端に鏡が大きく音を立てて崩れた。
割れた破片が降りかかって来た。咄嗟に両腕を顔に回し、膝をついて蹲る。暫くして無音になる。――やっと終わった。そう思ったが、後ろから何かが転げ落ちるような鈍い音が聞こえてきた。
俺は両腕を回したまま立ち上がり、硝子の欠片を払い落としてから振り返る。そこには呆然と階下を見つめる月島の姿があった。
「……」
「……」
「……沢村はどうした?」
「あ――」
月島は一度俺に呆けた顔を向け、再度階下へと目を向けた。
叫んだが一足無駄だった。使者が沢村の足首をがしり、と掴む。
「ひえ……!」
沢村が喉を引き攣らせる。恐怖で足が竦んでしまったらしく、抵抗もままならないようだ。
月島は今、身動きが取れないし、沢村との距離が近いのは俺だった。身を起こし、沢村の元に駆けつける。二の腕を掴み、こちらに引き寄せながら肩を引っ掴む。
しかし使者も力強く、沢村を階下へと引き摺り下ろそうとしてきた。
「離して! いや!」
耳元で沢村が騒ぐ。使者の青白い手に何度も蹴りを入れたが、びくともしなかった。
焦りと共に、思考が回る。月島の攻撃は全く入らなかったが、今の俺の蹴りは確かに入った。
俺はもう一度、沢村の手に握られた手鏡を見た。あの鈍い光は、鋭利な輝きへと変化していた。
「月島! こっちにサポート、回れ!」
「……了解だ!」
瞬時に判断した月島は、俺の使者から離れて俺達の元に走り寄った。沢村の体を月島へと放り投げ、沢村から手鏡を奪い取る。
「黒川!?」
俺は沢村たちから数歩右にずれて、改めて手鏡を鏡へと向けた。俺と手鏡の姿が映る。その瞬間、俺の使者の手がぼこり、と大きく波打ち、その手には同じ形の手鏡があった。
「何を…っ?」
月島も困惑気味に呟く。それを一切無視し、俺は駆け足に転がったバッドを拾い上げ、俺の使者の腕へと振るう。 コピーされた手鏡が床へと落ちる。それを拾ってその場で叩き落とす。パリンッ、と音が跳ね上がり、コピーされた手鏡は割れた。
同時に俺の握っていた手鏡も割れ、手中で音もなく欠片が灰のように分解されていく。物理的に有り得ない。思わず握りしめてしまったら、鏡の刃が手のひらを突き刺した。
「……っ」
「黒川!」
沢村が叫んだ。――心配など無用だ。
俺は自分の足元に転がるコピーされた手鏡の欠片を見る。破片の中に一つだけ、大きな欠片が残されていた。石器時代の鏃のように鋭く尖らせたそれを掴み、鏡へと刃先を向ける。
俺の使者が邪魔をしようと手を伸ばしてきたが、それを避けて鏡に突き刺した。
幾度もバッドで鏡を割ろうとしたがその度に失敗してきた。運よくバッドが当たっても傷一つ付けられなかった。――それでも。鏡のコピーである欠片が鏡に触れた途端、小さな亀裂音が聞こえてきた。確かに鏡へと刺さったのだ。
俺は自分の体重を乗せて更に深くまで斬り込む。徐々にヒビが入る。
力を籠めれば籠めるほどその亀裂は広がり、その傷を中心として円状に割れていく。とても静かだった。僅かに聞こえる耳あたりの良い音を奏で、鏡の淵までヒビが入っていく。
『ぎゅ、うぅお……』
鏡の中から汚い音が発生した。苦しんでいるような悲鳴。まだ割れていない鏡の表面が真っ黒に染まる。そして鏡の奥から何かが切り裂かれていく音が響き渡った。
『ぐっ、おぉおおおおおお』
凄まじい絶叫――。鼓膜が破れそうな程、空気が震える。その途端に鏡が大きく音を立てて崩れた。
割れた破片が降りかかって来た。咄嗟に両腕を顔に回し、膝をついて蹲る。暫くして無音になる。――やっと終わった。そう思ったが、後ろから何かが転げ落ちるような鈍い音が聞こえてきた。
俺は両腕を回したまま立ち上がり、硝子の欠片を払い落としてから振り返る。そこには呆然と階下を見つめる月島の姿があった。
「……」
「……」
「……沢村はどうした?」
「あ――」
月島は一度俺に呆けた顔を向け、再度階下へと目を向けた。
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