審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

文字の大きさ
64 / 111
第二章 わたし、めりーさん

温室の謎

しおりを挟む
 沢村さんの視線を一心に受ける。既に黒川くんのことは意識の外にあるようだ。

「ううん、全然大丈夫!」

 ぶんぶん、と首を横に振る沢村さん。

「……おい」

 黒川くんが不機嫌そうな声を出す。

「ただ樋脇くんに手伝わせるのは心もとないから、答えられなかっただけなの。でも樋脇くんがやりたそうにしているし、もしそうなら……是非是非手伝って欲しいなあ。なんて、」

 全力で首を振ったせいか、沢村さんの目が回り始めている。必死に笑おうとして口許が引き攣っている顔を見ると、罪悪感が首を擡げる。

「ありがとう、沢村さん!」

 僕は嬉々とした声を出しながら、沢村さんの手を握る。

「いや、別に、たいしたことは。だって、樋脇くんが悲しそうな顔をしていると、私だって悲しいし」

 それは紛い物の感情だけどね。

「温室って結構広いみたいだし、沢村さん一人だと大変じゃないかなって。本音は、ずっと前から温室に興味があったんだけど」
「それめっちゃ本音言ってんじゃん」
「ふふ、実は入学前から温室の話は聞いててさ。綺麗だろうなって気になってたんだ」
「へえ!? 入学前から知ってるのって凄くない? 穴場だもん。パンフレットとか記載されてないし、前に温室の場所が分からなくて先生に聞いたけど、知らないって言われちゃったし」
「そうだね、僕も入学早々教師に質問したらそう言われたよ」
「正直、清掃を任されている園芸委員会しか知らないのかな、って思ってたわ」

 確かにあの温室は神秘に包まれている。誰にも穢されない神域。さしずめ園芸委員会は巫女と言うべきか。

「でも本当に綺麗よ。図書室も落ち着いた雰囲気で好きだけど、温室はもう別格」

 温室は特別な硝子で造られた一室であり、外からでは中の様子が見えないが、中からは外の景色を一望できる。生徒会がある棟の屋上にあるも、生徒会員でさえ立ち入らせたことがない。

「温室は色んな植物が育ってて、中世に出てきそうなテーブルもあるんだよねえ。まるでいつでもご主人様がティータイムを満喫できるようセッティングされてるようって言うか、校長先生が使っていたりして」
「それは素晴らしいね」
「私が説明するより、一度見てもらった方が良いかもね。じゃあ、行きましょ」

 これ以上黒川くんに睨まれたくないし、と顔に出ているよ、沢村さん。

「うん、本当にありがとう。嬉しい」

 僕は沢村さんにエスコートされながら、教室から出る。その直前で黒川くんと視線が交わったが、臆することなく逸らす。怯えながら逸らすのと意味合いが違う。意図して無視しただけ。どうやら探られているみたいだ。
 鋭い目つきで僕を視る黒川くんに背筋がぞくり、とする。嬉しい。そんな感情が心の奥底で芽生える。でも過度な期待は大きな落胆に繋がる。落ち着かなければ、とそんな背をふわりと撫でられた。沢村さんにつられて、唄をうたっている。風に運ばれる調べのように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...