審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第二章 わたし、めりーさん

悪戯心をひと匙混ぜて

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「皆で占ってもらいたいけれど、骨董屋って忙しいかな? 価値の高い物を売ってる、なあんてイメージしか沸かなくて、よく……」

 分かんない、と空気が震えた。

「んー、一般的な骨董屋とは大分風変りしているかな」

 どっちかと言うと、骨董品を売ると言うよりは、付喪神や曰く付きの品、果ては呪具まで取り扱っている。一般客が訪れることもあまり無いし、その道の人ばかり来るし。

「そうなんだ。やっぱり古くて価値のある物って不思議な現象が起きるの?」

 僕が目をぱちくりとさせると、沢村さんがあたふたとした。

「いや、別に、変なことを訊こうとは思ってなかったと言うか、そのね……」
「気にしてないよ。不思議なことだって起こるし。でも月島くんが言っていたような、鏡の怪異なんて起きないけどね」
「――へ?」

 沢村さんがふやけたような声を出して、固まる。

「え、なに。月島が……?」
「一昨日の体育の授業、男子だけ急遽自習になったんだ。それで月島くんが鏡の怪異に巻き込まれた時の話をしてくれたんだよね。現実的とは思えなかったから、作り話なのかなって思ったけど、月島くんって正直者だしね。実際、どうなの?」

 悪戯心もあって、訊いてみる。

「えっとお……」

 開いた口が塞がらないようで、沢村さんはそう呟いたきり、石のように固まってしまった。
 まあ、確かに月島くんってば、そう簡単に話しちゃうなんてさ。狂言だと思われるリスクだってあるし、もし僕が彼に敵対する意思があったとしたら、悪手だったろうに。

「別に言いたくないのなら、聞かなかったことにするけど」

 そうは言ってみたけど、沢村さんは完全にフリーズしてしまったようで、僕の声は届いていないようだ。緩慢な意識の中、僕の口が動いていたことは分かったのか、敢えて聞き返すことなく「そ、そうなんだね」と相槌を打った。
 聞いていないのであれば、それまでの話だ。

「うん、まあ、フィールドが違うんだろうね。僕の家では、そういったホラーな現象はあんまり起きないかなあ。でも僕がいない間に起こりうることでもあるし、祖母に聞いてみない限りは分からないんだけど。――ふふ、話が戻っちゃうんだけど、あの時の千堂くんの怯えっぷりは凄かったよね」

 話題を逸らすと、沢村さんは一度瞬いて、僕の顔を見た。

「千堂くんって怖い話が苦手って前に聞いたことがあって。でも参加するくらいなら、てっきり克服したのかな~って思ってたけど、開始早々叫んでは立川くんに縋り付いてたよね。正直に言うと、ちょっと面白かった。本人にとっては嬉しくない話なんだろうけど」

 その姿を頭に思い浮かべてしまい、くすくすと笑う。そんな僕に釣られ、あの時の千堂くんの姿を思い浮かべたのか、沢村さんも突然噴き出した。

「あっははは! あれは傑作だったわね!」

 沢村さんはそのまま腹を抱え、笑い転げないように必死に堪えようと足で踏ん張っている。
 暫くしてから、

「あー、本当に面白かった……。あとさ、立川くんが来てくれたのも驚いたね。あんまり自分から輪に入ってこないイメージだったから、珍しく思えちゃった」

 沢村さんが言った。

「確かに立川くんは品行方正だもんね。月島くんがもぎ取ってきた許可証だって怪しいものだったし、曲がったことが嫌いな立川くんにしてはね」
「千堂くんに無理やり連れられてきたんだよね。あの取っ組み合いは凄かったよ。最終的に樋脇くんも参加するって知った瞬間、自分から食いついてきたのには笑った」
「え? 何で僕……?」
「うーんと、何でもないよ」

 今の言葉は忘れておくれ、と沢村さんが続ける。「まだ立川くんに殺されたくはないし」と謎な発言まで。
 立川くんは僕たちの学級委員長。真面目で何事にも一生懸命に取り組む良いひとで、細かく注意もしてくるからクラスメイトからは厄介者扱いされることもままあるけど、千堂くんの幼馴染でノリも悪くない。
 個人的に好感は抱くけれど、時々僕を見る目が少し苦手なんだよね。ホラー映画観賞会(仮)でも、僕の体に穴が空きそうなくらい視線を浴びせられて、ホラー映画よりもホラーな体験だったかもしれない。ちょっぴりだけど。

「今度はみんなでこっくりさんとかやってみたいなあ」
「こっくりさんかあ。どうかな」

 僕はあまり賛成できない。
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