審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第二章 わたし、めりーさん

10.怪しくなる雲行き

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「あ~~、びっくりした」

 沢村が自身の胸に手を置いて呟いた。そんな彼女に、月島が「大丈夫か?」と気遣う素振りを見せる。

「まあね」

 振り向くことなく簡素に返すのも、クラスの人気者と話しているところをあまり見られたくないのだろう。雑に対応するのも、反感を買っていそうだが。

 四限の授業が終盤に差し掛かった頃、ちょっとした騒ぎが起きた。
 パリンッと小さな破裂音が頭上から聞こえてきたと思った、その時。――沢村の席へと硝子の細かな雨が降ってきた。沢村は音の発生源を探して見上げていたので、下手をすれば視力を失っていただろう。
 だが、月島が沢村の肩に手を回し、窓際へと大きく体を寄せた。そして沢村を庇うように自分の体で覆ったのだ。そのおかげで沢村は無事、月島も軽度な切り傷だけだった。教師に言われ、俺は二人を保健室に送ったが、すぐに教室へと戻された。
 割れた蛍光灯はそのままだったが、硝子の破片は教師が片付けてくれたようだ。昼休みに蛍光灯を変える、と教師は言い、沢村の戻ったタイミングで自習となった。流石にその席を使う訳にもいかず、月島と千堂が机を合わせ、沢村と三人で雑談を交えつつ自習を始めた。
 これも怪異の影響だろうな。事態は明らかに良くない方向へと舵を切っている。

 奇妙な空気が流れる中、あっという間に昼の時間となった。
 生徒たちも割れた蛍光灯や、自分の真上にある蛍光灯を気にして、気味悪そうに天井を時折眺めている。割れる可能性は今後ともありそうだ。沢村の頭上で割れた理由はあるのか、偶然なのか。答えの出ない問いを考えても無意味だ。俺は思考を辞めた。

「はーあ、私たちって本当に大丈夫なのかな」
「大丈夫だろ。こっちには黒川がいるしな!」

 月島が俺へと笑顔を向ける。

「俺に全てを振るな」
「まあさか、人狼ゲームのシステムを模しているとは思わなかったよな」

 月島はそう話題を変えると、沢村もうんうん、と大きく頷いた。

「怪異って学習するのか?」
「……いや、しない筈だ。全てはメリット、デメリットで終わる。だが進化する可能性は高い。高いが……、進化するには時間が必要だ。適応を繰り返した先にある筈」
「比較的新しい定義って言ってたよね、黒川くん」
「そうだ。人間で例えるなら、まだ赤ん坊だな。進化と成長は違うが、同じ括りだとして、赤ん坊から幼児に変わるにはもっと長く掛かる予見だった」
「それじゃ、どうして……?」
「これは進化じゃない。メリットとデメリットの枠内に入っている筈」

 改めて考えるとして、メリットとは何だろうか。俺たちが最後までメリーの正体が分からなかった場合、メリーは四十人もの命を喰える。俺たちに役割を与えたとしても、最低でも一人は喰える。初日でメリーを当てる可能性はかなり低いからだ。
 デメリットは俺たちに役割を与えることか? 大量喰いがメリットで、メリーの正体を当てられるのがデメリット? 
 いや、三日でメリーの正体を探すのは難しい。大人数であればあるほど。
 トリガーは千堂が拾ってきた携帯だった。誰かが拾ってくれるまで、この怪異は発動しない。発動条件を鑑みるに、デメリットはそれか?

「んー、よく分かんないけど、とりあえずナイトは誰なのかな?」

 沢村が言う。

「騎士か……」
「クラス全体にそれとなく聞いてみたけどよ、役職について言及していたのは誰もいなかったなあ。お前と立川くらいだろ」
「誰も死んでほしくないけど、霊媒師って誰かが死なないと使えないカードなのよね。誰も役割のことを言ってなかったってことはさ、その人も自分が霊媒師って気付いていないんじゃないの? ほら、めっちゃスクロールしないと気づかないし」

 役割に関して、月島が予めメールの内容をスクロールしたのか確認しなければ、全く気付いていない生徒の声もちらほら聞こえてきた。
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