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第二章 わたし、めりーさん
有知の責任
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「立川も言っていただろ。強制的に占わされた、と。役割はほぼ強制的にやり遂げさせられるんじゃないか」
二人にそう言いながらも、俺は昨夜を思い出す。俺の場合、強制的に指名した訳じゃない。つまり指名しないと言う選択肢があったのではないかと思う。
しかし、それなら占わないと言う選択肢もあるんじゃないか。役割によって話が変わっていくのだろうか。そももう一つの役割が霊媒師とは限らないしな。
「……今日の犠牲者は誰もいないわよね。併せて考えるに、騎士も強制的に?」
「この四十人の内の一人をピンポイントで守れるほど、強運の持ち主だったのかもな」
月島がははっ、と笑う。
「そんな強運を持っている方がおかしいだろ」
「まあな! ま、いいや。また聞いてみるぜ。スクロールし忘れている生徒も他にいるかもしれないしな」
「そうしてくれ」
まだ昼休みになったばかりだと言うのに、月島は既に大体の生徒から話を聞きだしているぐらいだ。お手の物だろう。
沢村はそんな月島の手腕を信じられないと言わんばかりに、大きな目と口で月島を見つめていた。目は口程に物を言う、か。
「他の情報はどうだ?」
「そうだなあ、これといった情報は無かった。昨日の今日だからな。怯えている奴は何人かいたみたいだ。普段と様子が違うのは、爽香さんだな。普段から堂々としてるけどさ、ホラーが凄く苦手らしくて、千堂並みに駄目なんだとか。前に一度だけ怪談話をしたことはあるけどよ、電気を消しただけでぶるぶる震えていたからな。それなのに今日は堂々としているから、そこが気がかりだな。まっ、ただの悪質な悪戯だと思ってるのか、千堂と同じく友達の家に転がり込んでいるのか、そのどっちかかな――いや、第三者の……」
そこまで言って、月島は「関係なさそうだ」と笑顔を向けてきた。
「月島くん」
立川が珍しく師堂を引き連れて、月島の横に来た。「どうかしたのか?」と月島が首を捻ると、立川は「先生がガタイの良い生徒を連れてこいって命令です。月島くんも手伝ってください」と言った。
その横で、師堂が歯を見せて笑う。
「おっ、勝負でもするか? 師堂」
「あったりまえだろ。でねえと、センコーの言うこと聞くワケねえだろ」
「ま、そりゃそうか」
月島が指の関節を鳴らしながら、立ち上がる。
「いいぜ。やってやろうじゃねえかよ」
「ああ、たのしみだぜ」
両者ともに立川を置いて教室から出て行ってしまった。
「まだ場所も伝えてませんけど」
立川が呆れたように溜息を吐いた。すぐに追いかけるかと思えば、教室に残っている野球部の連中などに声を掛け、彼らを引き連れて出て行った。
その様子を見届けてから、
「月島がそう思うのなら、彼女は白だな」
すると沢村が生温かい目で見てきた。どうせ『おっ? 遂に黒川くんが月島くんに信頼を……』とでも考えているんだろう。睨み付けてやると、沢村は俯いた。『心なんて読んでないよね……声に出さずにジョークを言ってるだけなのに……』と確実に考えている顔をしている。
「沢村」
名を呼べば、怯えたように窺うような目でこちらを見やる。
「お前の頭上で蛍光灯が割れただろ。それで確実に分かったことがある」
「確実に?」
「ああ。メリーのフィールドは、この教室全体に根を張ったのだろう」
こうなってくると生徒たちは単なるターゲットだ。憑りつかれた――厳密には違うが、憑りついている状態に近い――相手は、宿主みたいなもの。
「フィールド……鏡の怪異の時にも言ってたんだっけ。忘れてましたけど。つまり、教室でさっきみたいなことが起きやすいってこと?」
俺は深く頷いた。だが、収まる可能性もある。何故なら俺たちは逃げ出さないからだ。ここは学校だ。不登校になるような原因や災害が起きない限り、多くの生徒が通う。たとえ得体の知れない恐怖が訪れたとしても。
「それじゃ……っ、早くメリーを見つけないとどうにも……」
声が掠れる。勢いをなくし、沢村は俯いた。
「――どうするの?」
自然と声に力が籠る。沢村は怪異の存在を知っているが故、責任の文字がちらついて見えるのだろう。
俺は一考した。
二人にそう言いながらも、俺は昨夜を思い出す。俺の場合、強制的に指名した訳じゃない。つまり指名しないと言う選択肢があったのではないかと思う。
しかし、それなら占わないと言う選択肢もあるんじゃないか。役割によって話が変わっていくのだろうか。そももう一つの役割が霊媒師とは限らないしな。
「……今日の犠牲者は誰もいないわよね。併せて考えるに、騎士も強制的に?」
「この四十人の内の一人をピンポイントで守れるほど、強運の持ち主だったのかもな」
月島がははっ、と笑う。
「そんな強運を持っている方がおかしいだろ」
「まあな! ま、いいや。また聞いてみるぜ。スクロールし忘れている生徒も他にいるかもしれないしな」
「そうしてくれ」
まだ昼休みになったばかりだと言うのに、月島は既に大体の生徒から話を聞きだしているぐらいだ。お手の物だろう。
沢村はそんな月島の手腕を信じられないと言わんばかりに、大きな目と口で月島を見つめていた。目は口程に物を言う、か。
「他の情報はどうだ?」
「そうだなあ、これといった情報は無かった。昨日の今日だからな。怯えている奴は何人かいたみたいだ。普段と様子が違うのは、爽香さんだな。普段から堂々としてるけどさ、ホラーが凄く苦手らしくて、千堂並みに駄目なんだとか。前に一度だけ怪談話をしたことはあるけどよ、電気を消しただけでぶるぶる震えていたからな。それなのに今日は堂々としているから、そこが気がかりだな。まっ、ただの悪質な悪戯だと思ってるのか、千堂と同じく友達の家に転がり込んでいるのか、そのどっちかかな――いや、第三者の……」
そこまで言って、月島は「関係なさそうだ」と笑顔を向けてきた。
「月島くん」
立川が珍しく師堂を引き連れて、月島の横に来た。「どうかしたのか?」と月島が首を捻ると、立川は「先生がガタイの良い生徒を連れてこいって命令です。月島くんも手伝ってください」と言った。
その横で、師堂が歯を見せて笑う。
「おっ、勝負でもするか? 師堂」
「あったりまえだろ。でねえと、センコーの言うこと聞くワケねえだろ」
「ま、そりゃそうか」
月島が指の関節を鳴らしながら、立ち上がる。
「いいぜ。やってやろうじゃねえかよ」
「ああ、たのしみだぜ」
両者ともに立川を置いて教室から出て行ってしまった。
「まだ場所も伝えてませんけど」
立川が呆れたように溜息を吐いた。すぐに追いかけるかと思えば、教室に残っている野球部の連中などに声を掛け、彼らを引き連れて出て行った。
その様子を見届けてから、
「月島がそう思うのなら、彼女は白だな」
すると沢村が生温かい目で見てきた。どうせ『おっ? 遂に黒川くんが月島くんに信頼を……』とでも考えているんだろう。睨み付けてやると、沢村は俯いた。『心なんて読んでないよね……声に出さずにジョークを言ってるだけなのに……』と確実に考えている顔をしている。
「沢村」
名を呼べば、怯えたように窺うような目でこちらを見やる。
「お前の頭上で蛍光灯が割れただろ。それで確実に分かったことがある」
「確実に?」
「ああ。メリーのフィールドは、この教室全体に根を張ったのだろう」
こうなってくると生徒たちは単なるターゲットだ。憑りつかれた――厳密には違うが、憑りついている状態に近い――相手は、宿主みたいなもの。
「フィールド……鏡の怪異の時にも言ってたんだっけ。忘れてましたけど。つまり、教室でさっきみたいなことが起きやすいってこと?」
俺は深く頷いた。だが、収まる可能性もある。何故なら俺たちは逃げ出さないからだ。ここは学校だ。不登校になるような原因や災害が起きない限り、多くの生徒が通う。たとえ得体の知れない恐怖が訪れたとしても。
「それじゃ……っ、早くメリーを見つけないとどうにも……」
声が掠れる。勢いをなくし、沢村は俯いた。
「――どうするの?」
自然と声に力が籠る。沢村は怪異の存在を知っているが故、責任の文字がちらついて見えるのだろう。
俺は一考した。
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