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春日部 26

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「おかえり、春日部。」
「ただい……!!お前なぁ、それ俺のエプロンじゃん!」

    バイトが終わってマンションに帰ってきたら、裸にエプロンだけを身につけた町屋に出迎えられた。
    俺がいつも使ってる紺色のエプロンからは、白い素肌が覗いてる。カッコ良く筋肉の付いた腕と、脛毛のねぇ綺麗な足。

    有り得ねぇ光景に思わずドキッとしちまった。

「あははー、借りちゃった。」
「借りちゃった、じゃねぇよ。ドアの後ろに人いたらどうするつもりなんだよ!」
「誰も通らなかったから大丈夫だよ。見られてもタンクトップとパンツの上にエプロン着けてるのかな?くらいにしか思わないって。それよりさ、僕とキッチンでセックスする? 風呂でする? それとも、こ・こ・で、しちゃう?」
「……っ、セックス一択じゃねぇかよ。」
「あははー、冗談だよ。腹減ったでしょ? 僕カレーと白米温めておいたから、早く食べよ?」
「待て。」
「え? やっぱりしちゃう?」
「ちげーよ、飯の前に話がある。」

    ワクワクした顔して、俺と腕組んできた町屋に「違う」って言うのはすげぇ勿体なかった。
    絶対すんなよって言っといたのに、楽しそうに新婚さんごっこを仕掛けてきた町屋は可愛くて、エロくてヤバかったから。

    でも、話すのが先だ。

    町屋に腕組まれたままリビングに移動して、町屋がいつも座ってる方のソファーに二人で腰かけた。
    こっちは二人掛けだから、密着して座ることになる。
    町屋は裸エプロンのまんま。ムラムラしてやべぇ。着替えさせてやるべきだったか。
    でも、町屋は俺が改まって「話がある」なんて言っちまったから、ちょっと不安そうな顔してる。早く内容話してやった方がいいだろうって判断して裸エプロンのまんまにしといた。
    話が終わったら、このまま襲いかかっちまおう、なんて思ってねぇからな。……多分。


「俺、今日、お前の昔の男に会った。で、俺が新しい男なのか? って聞かれた。」
「……えっ? えっ? 誰に?」
「あ、名前は聞いてねぇや。連絡先は聞いたけど。でも、最近お前に復縁迫ってきた男いただろ? そいつだよ。」
「……あ、あー。……でも、なんで春日部に? ひょっとして喧嘩ふっかけられたりした!?」

    心配そうな顔で俺の顔とか体とかペタペタ触って怪我がねぇか確認する町屋見て、すげぇ安心した。
    少しでもあの男に未練ありそうな顔されたら、ヤバかった。でも町屋の表情から俺のことしか考えてねぇって分かった。

「それは大丈夫。泣かれたけどな。」
「泣いたの!? 恨み言でも言われた?」
「それも大丈夫。」

    恨み言つーか、泣き言は言われたけど、四年も想い続けたとか、気が付いたら飛行機に乗ってたとか、そんな情報を町屋に与えたくなくて誤魔化した。

「でも、何で春日部に? 僕、好きな人がいるって言っただけで、他には何にも言ってないんだよ。」

『好きな人』のこと持ち出されてギクッとしたけど、町屋は平然としてたから安心した。

    やっぱり、好きな奴がいるなんて復縁を断る為の嘘だったんだ。

    町屋にホントに好きな奴がいんなら、俺に対してこんなにさらっと言ったりはしねぇだろうから。一生一緒にいるって親友に対して誠意がねぇだろ。俺に対して町屋はそんなことしねぇ。「実は…」って、改まって話してくんならともかく。

    とにかくホッとした。
    町屋は俺だけの親友だ。

「なんか、シャツで恋人だって認識されたっぽい。お前、アイツと会った時、このシャツ着てたんだろ?」

    大親友うんぬんの話は端折った。あの男にすげぇ笑われたから思い出すとムカムカするし。

「……そうだったかも。……ごめんね、巻き込んで。僕、今から警察に相談してくる。」
「それはちょっと待て。もう二度とここには来ねぇって約束させたし、今、下手に揉めるとお前の内定が取り消しになるかもしれねぇだろ。」

    もし警察巻き込んで揉めてんのがバレたら、いくら被害者といえど、会社にとって迷惑がかかりそうな内定者なんていらねぇって切り捨てられちまうかもしれねぇ。
    それに、あの男は心から町屋を諦めたいって思ってるように見えた。俺、――偽物の恋人――と、デートしてるとこ見るだけで踏ん切りがつくんなら、その方が手っ取り早い。

    俺も早くあの男には町屋の前から消えてほしいから。

「そっか。春日部の内定にも響いちゃったら申し訳ないし。でも、よく春日部と約束なんてしてくれたね。」
「ああ。それが、……ちょっと条件があって。」
「条件?」
「条件ってのは――」


「えっ、春日部が僕とデートするの!?」

    デートしてんのを見せる、って話をしたら、それまで憂い顔だった町屋がびっくりして、その後に嬉しそうな顔したから、俺も頬が緩んだ。
    嫌がられなくて良かった。

    でも問題がある。

    俺は、デートなんてモンしたことがねぇ。しかも、町屋もあんまりねぇらしい。

    ポンコツ二人で話し合って、場所は生活圏からちょっと離れた所で観光でもするか、ってことになった。やっぱり人目は気になるし。観光地なら色んな人種がいるから、ちょっとゲイっぽい行動してるくらいじゃ浮いたりしねぇだろって。

    男にすっぱり諦めてもらうには、ある程度恋人っぽい雰囲気出さなきゃなんねぇと思ってて、スキンシップを多めにしようかと考えてる。ハズいけど、遠くから見てる男にアピール出来る方法なんてそれくらいしかねぇから。


    デートのプラン立てんのは、純粋に楽しかった。正直、ファミレスかなんかで三人で会って適当にイチャイチャしてんの見せつければ早い話じゃね?なんて思ってたけど、自然な二人の姿が見たいとかって我が儘をあの男が言ってくれて良かった。
    しかも、その日は町屋の「好きな人」を演じられる。男には行く場所と時間だけ伝えておくつもりだから、どこで見られてっかわかんねぇ分、デートの間中俺は町屋の『想い人』でいられる。

    すげぇ特別感がある。
    友人としての大好きじゃなく、恋人としての好き。
    それがどう違うのか俺には分かんねぇけど、ちょっとワクワクする。

    かりそめの恋人同士。


    普通に疑問なんだけど、そもそも恋人って、親友よりも尊いもんなんだろうか。
    あの男は俺が町屋と大親友だって言ったときには爆笑したくせに『好きな相手』だって言ってからは神妙な顔して態度を変えやがった。

    一般的には恋人>友人なんだろう。堀田も恋人が出来てからは彼女優先になったし。

    でも恋人って、恋したモン同士が一緒にいるってことだろ?
    男同士だからって抵抗はもうねぇけど、俺は町屋に恋してねぇし、町屋だって俺のこと親友、って言ってるし、……俺たちは恋人にはなれねぇんだよな。

    親友こそが俺たちの間で一番の関係だと思ってたから、恋人がそれより上の関係なのかもしれねぇつーのは、ちょっとショックだったりする。
    町屋の過去の恋人なんかよりも、ずっと町屋の傍に俺は寄り添っていてぇのに。
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