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番外・友人の苦悩②
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アタルの決戦の日の翌日、2月15日の朝8時過ぎにスマホが鳴り、眠りから起こされた。
画面には『アタル』の文字。
「おっ、俺っ。高島っ、俺、とうとうやらかしたみたいだ!」
切羽詰まったような声でスマホ越しに叫ばれて、寝ぼけていた頭に血が巡っていく。
「アタル、落ち着け。桜花から聞いてたけど、昨日真由ちゃんと会ったんだろ。どうだったんだ?」
「どっ、どうもこうも、……振られたよ。俺カッコ悪い勘違いして調子に乗って、多分、物凄く嫌われた。」
うまくいかなかったのかと落胆しつつも、慰めの言葉を頭の中で探していると、アタルは取り乱しながらまた喋り始めた。
「だからっ、やらかした!!多分ショック過ぎたのと、久々に真由の情報が入りすぎてそうなったんだと思う。……実は…お、俺の妄想が具現化したみたいなんだ。さっき目を覚ましたら隣に真由が寝てて、今もまだぐっすり寝てるけど、…と、とにかく居るんだよ真由が。でも、昨日のことをよくよく思い返してみたら、真由がこの場にいるはずがないんだよ。でも、触ってみたら感触もあるし、…俺、真由を錬成したみたいなんだっ。どうしよう!妄想し過ぎると危ないって、お前からも言われてたのに、病院行った方がいいんだろうか。でも、本物じゃないとしても、真由を消し去ることなんて俺には出来ないっ。…どうしたら、どうしたらいいんだ!!」
「……ん?具現、化…?……錬成…?」
そんな馬鹿な、とは思ったけど確かに妄想し過ぎると危ないと言ったのは俺で、根拠が全くないわけでもなかった。
一人の人物をまるでいるかのように妄想し続けると、ある日それは実体を持ち、妄想をした当人だけが、それを生きている人間のように認識する、などという嘘のような話を聞いたことがあったからだ。
だからアタルにその話をして、妄想なんて不毛なものを止めさせようとした時があった。確かあれは、妄想箱根お泊まり旅行☆の"旅のしおり"を奴が作っていた時だったと思う。
でも俺自身、妄想が具現化するなどという話を信じていたわけじゃない。ただの脅しだった。
「……アタル、そんなはずないだろ。それは真由ちゃん本人なんだよ。つーか、一緒に寝てるってことは振られてないんだろ?付き合えることになったんだろ?良かったじゃねーか想いが報われて。多分、お前は嬉しすぎて混乱してるだけだって。」
「いや、俺も寝る前までは真由から付き合って欲しいなんて夢みたいなこと言われて、嬉しくて混乱もしてた。でも一晩経っておかしいことに気がついたんだよ。」
奴はそう言うと、今部屋に居る真由ちゃんが妄想の具現化であることの根拠を語り出した。
真由ちゃんはアタルのアパートの場所を知らないはずなのに、一度別れた後訪ねてきたこと。
二年前に遊びに行こうとの誘いに真由ちゃんがいい返事をしなかった理由が、アタルを好き過ぎたからという、なんとも信じがたい話だったから。
そして何より、妄想で真由ちゃんと同棲していたことを告白したのにも関わらず、それに対して彼女が『嬉しい』と言って受け入れてくれたこと。
それらが有り得なくて、今アタルの部屋に居る真由ちゃんが本物でないことの根拠なのだと奴は言った。
「……嬉しい、だと?」
「そうだ。俺の手編みのマフラーを手に取りながら、健気で愛おしい、とも言った。」
「けなげで…?いとおしい…?そ、そんな馬鹿な。あの、イニシャル入りの昭和感溢れるマフラーを見てそんなことが言えるなんて…。確かに、あり得ねーな。……今日、午後から一緒に病院に付き合ってやるよ。ただ、その前に、一応だけど、部屋にいる真由ちゃんの写真を、一枚撮って俺に送れ。」
誰も写っていない写真が送られてきたら、多分俺は泣く。けど、もう少し強く言って妄想を止めさせなかった自分にも責任がある。ちゃんと向き合おうと思った。
「……写真か。分かった送るよ。高島、面倒かけて悪いな。」
「いや、いいって。保険証、ちゃんと準備しとけよ。」
「……ああ。」
電話を切り、自分のこめかみをぐりぐりと押しながらため息を吐いていると、隣に寝ていた桜花が目を覚ました。
「誰から?」
「アタルからだった。」
俺はさっきの電話の内容を話した。
「はぁ?そんなわけないでしょう。アタシ昨日、真由に残念王子のアパートの場所教えたし。アンタがシャワー浴びてる間にね。それに、真由は昔っからあたるちゃんに甘々だったじゃない。普通ならドン引きするところでも『長谷川くんは凄いねー(ふふっ)』なんて言って受け入れたんでしょ。余裕で想像できるわよ。もうっ、あたるちゃんは残念王子だから仕方ないけど、修吾、アンタはしっかりしなさいよね。」
桜花に呆れたような眼差しで見つめられた。そんな冷たい顔も綺麗。全力で抱きたい。
俺は桜花にキスをしながら、アタルから満面の笑みの真由ちゃんの写真が送られてくることを確信した。
画面には『アタル』の文字。
「おっ、俺っ。高島っ、俺、とうとうやらかしたみたいだ!」
切羽詰まったような声でスマホ越しに叫ばれて、寝ぼけていた頭に血が巡っていく。
「アタル、落ち着け。桜花から聞いてたけど、昨日真由ちゃんと会ったんだろ。どうだったんだ?」
「どっ、どうもこうも、……振られたよ。俺カッコ悪い勘違いして調子に乗って、多分、物凄く嫌われた。」
うまくいかなかったのかと落胆しつつも、慰めの言葉を頭の中で探していると、アタルは取り乱しながらまた喋り始めた。
「だからっ、やらかした!!多分ショック過ぎたのと、久々に真由の情報が入りすぎてそうなったんだと思う。……実は…お、俺の妄想が具現化したみたいなんだ。さっき目を覚ましたら隣に真由が寝てて、今もまだぐっすり寝てるけど、…と、とにかく居るんだよ真由が。でも、昨日のことをよくよく思い返してみたら、真由がこの場にいるはずがないんだよ。でも、触ってみたら感触もあるし、…俺、真由を錬成したみたいなんだっ。どうしよう!妄想し過ぎると危ないって、お前からも言われてたのに、病院行った方がいいんだろうか。でも、本物じゃないとしても、真由を消し去ることなんて俺には出来ないっ。…どうしたら、どうしたらいいんだ!!」
「……ん?具現、化…?……錬成…?」
そんな馬鹿な、とは思ったけど確かに妄想し過ぎると危ないと言ったのは俺で、根拠が全くないわけでもなかった。
一人の人物をまるでいるかのように妄想し続けると、ある日それは実体を持ち、妄想をした当人だけが、それを生きている人間のように認識する、などという嘘のような話を聞いたことがあったからだ。
だからアタルにその話をして、妄想なんて不毛なものを止めさせようとした時があった。確かあれは、妄想箱根お泊まり旅行☆の"旅のしおり"を奴が作っていた時だったと思う。
でも俺自身、妄想が具現化するなどという話を信じていたわけじゃない。ただの脅しだった。
「……アタル、そんなはずないだろ。それは真由ちゃん本人なんだよ。つーか、一緒に寝てるってことは振られてないんだろ?付き合えることになったんだろ?良かったじゃねーか想いが報われて。多分、お前は嬉しすぎて混乱してるだけだって。」
「いや、俺も寝る前までは真由から付き合って欲しいなんて夢みたいなこと言われて、嬉しくて混乱もしてた。でも一晩経っておかしいことに気がついたんだよ。」
奴はそう言うと、今部屋に居る真由ちゃんが妄想の具現化であることの根拠を語り出した。
真由ちゃんはアタルのアパートの場所を知らないはずなのに、一度別れた後訪ねてきたこと。
二年前に遊びに行こうとの誘いに真由ちゃんがいい返事をしなかった理由が、アタルを好き過ぎたからという、なんとも信じがたい話だったから。
そして何より、妄想で真由ちゃんと同棲していたことを告白したのにも関わらず、それに対して彼女が『嬉しい』と言って受け入れてくれたこと。
それらが有り得なくて、今アタルの部屋に居る真由ちゃんが本物でないことの根拠なのだと奴は言った。
「……嬉しい、だと?」
「そうだ。俺の手編みのマフラーを手に取りながら、健気で愛おしい、とも言った。」
「けなげで…?いとおしい…?そ、そんな馬鹿な。あの、イニシャル入りの昭和感溢れるマフラーを見てそんなことが言えるなんて…。確かに、あり得ねーな。……今日、午後から一緒に病院に付き合ってやるよ。ただ、その前に、一応だけど、部屋にいる真由ちゃんの写真を、一枚撮って俺に送れ。」
誰も写っていない写真が送られてきたら、多分俺は泣く。けど、もう少し強く言って妄想を止めさせなかった自分にも責任がある。ちゃんと向き合おうと思った。
「……写真か。分かった送るよ。高島、面倒かけて悪いな。」
「いや、いいって。保険証、ちゃんと準備しとけよ。」
「……ああ。」
電話を切り、自分のこめかみをぐりぐりと押しながらため息を吐いていると、隣に寝ていた桜花が目を覚ました。
「誰から?」
「アタルからだった。」
俺はさっきの電話の内容を話した。
「はぁ?そんなわけないでしょう。アタシ昨日、真由に残念王子のアパートの場所教えたし。アンタがシャワー浴びてる間にね。それに、真由は昔っからあたるちゃんに甘々だったじゃない。普通ならドン引きするところでも『長谷川くんは凄いねー(ふふっ)』なんて言って受け入れたんでしょ。余裕で想像できるわよ。もうっ、あたるちゃんは残念王子だから仕方ないけど、修吾、アンタはしっかりしなさいよね。」
桜花に呆れたような眼差しで見つめられた。そんな冷たい顔も綺麗。全力で抱きたい。
俺は桜花にキスをしながら、アタルから満面の笑みの真由ちゃんの写真が送られてくることを確信した。
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