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1 真夜中、山中のコンビニ
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なにもかもが嫌になった。
向かい合うことも嫌になり、気がつくと、俺は走り出していた。
どこに向かっているともわからない。
ただ、そこ以外のどこかなら、どこでも良い。
それが、どんなに寒くて、空腹で、臭くて、汚くて、痒くて、寂しくて、うるさい場所でも、構わない。
そこにいるしかないという、そんな理由で、みじめな気持ちで、自分を殺しながら過ごす地獄よりも、小汚い路上や月明かりだけが頼りの樹海の方がマシだ。
そんなことを思って駆け出していたのに、やっぱり空腹は辛い。
山道に差し掛かった頃、コンビニを見つけて、俺は、ほっと胸をなでおろした。
財布の中を見る。
コーヒーを一杯とおにぎりが二、三個。
それでおしまいだ。
俺は、コンビニの表で、コーヒーを啜りながら空を見上げた。
大きな満月と、星々が輝いている。
コーヒーを啜りながら、店を出る。
ガードレールの向こう、眼下に、俺の育った街が見えた。
遠くに見える夜の街は、たくさんの明かりに輝いていた。
精一杯、力を振り絞って駆け出したのに。
力尽きて振り返ってみれば、街は車を三十分も走らせれば着く程度の距離しか離れていなかった。
俺は、周囲を見渡して、誰もいないことを確認してから、腹に力を入れて、声を上げた。
お腹から声を出したのは、数カ月ぶり。
音楽の授業のときですら、人に声を聞かれるのが嫌で、自分の存在感を主張することが嫌で、声を抑えていた。
そんなことをやっているうちに、歌っているフリだけが上達した。
俺は、もう一度腹に力を入れて、声を上げた。
歌うことが大好きだったのに、それに評価をつけられると思うと、急に息苦しくなり、退屈になった。
小学校を卒業する前には、色鮮やかにきらめいていた世界が、色褪せているように、退屈に思えてしまっていた。
俺は、深呼吸をして、叫び声を上げた。
肺の中の空気をすべて吐き出す。
俺は、深呼吸をして、身を翻した。
帰ろう。
中学三年生の俺には、そうする他に選択肢はない。
その前に、もう一杯だけコーヒーを飲もう。
そう思い、コンビニを見て、俺は、動きを止めた。
車の止まっていない駐車場。
その真ん中に、小さな人影が見えた。
人影は、真っ暗な山中に建つコンビニの明かりを背に浴びていたが、こちらを見ているのがわかった。
十二歳くらいだろうか。
小さな女の子のように見える。
こんな夜中に、山道で、一人っきり。
危ないな。
いや、コンビニに親がいるのかもしれない。
女の子は、キラキラと輝く目でこちらを見ていた。
黄色い目。
カラコンかもしれない。
俺は眉をひそめた。
秋も終わりに差し掛かっているというのに、彼女は、無地の半袖Tシャツに、生地の厚いデニム、安物のスニーカーといった、身軽な格好をしていた。
メイクをしていないし、イヤリングなんかのアクセサリーもつけていない。
それなのに、目の色にだけはこだわりがあるのだろうか。
いや、女の子の手には、指輪が三つもあった。
まあ、これがこの子のおしゃれなんだろう。
あんまり気にすることでもない。
女の子は、俺を見据えていた。
俺は、女の子に会釈をして、その横を通り過ぎようとした。
「あのさ」
俺は動きを止めて、女の子を見た。「はい?」
女の子は、キラキラと輝く目に、柔らかな感情を浮かべた。「家出?」
「え、うん。そんなとこ」答えたあとで、思った。なんでそんなことを聞かれなくちゃいけないんだ。「きみは?」
「ぼくは散歩。夜は人がいないから。昼は人が多すぎて落ち着かないんだ」女の子は、男の子のような口調で言った。声変わりする前のソプラノのきれいな声。俺は、目の前にいる子の性別がわからなくなった。
「ふうん」俺は、ちらりと相手の胸元を見た。平らな胸。女の子かと思ったけれど、男の子だったようだ。「俺が言うのもなんだけど、こんなところ、一人でいたら危ないよ」
男の子は、楽しそうに笑った。「良いんだよぼくは。慣れてるから」男の子は、缶コーヒーからコーヒーを啜った。「どこに住んでるの?」
「すぐ近く」
「どこ」
どこだって良いだろ? と思いながら、俺は、道路の向こう、ガードレールの下に広がる街を指さした。
「そっか。コーヒー飲む?」
いやいらない、と断ろうとした次の瞬間には、男の子は缶コーヒーをこちらに放っていた。
俺はそれを両手でキャッチして、男の子に頷いた。
「ありがと」
男の子は頷いた。「どういたしまして」
「俺ユート」
「ぼくは空」
俺はコーヒーの缶を開けた。「小学生?」
空くんは楽しそうに笑った。
なにがそんなに楽しいんだろう。
「そんな感じ。そっちは中学生?」
「うん。コーヒー飲むと育たないんだって」
「良いんだよぼくは。もう成長止まってるから」
「これからでしょ」
空くんは、空になった缶を、その小さな左手で握りつぶして、ゴミ箱に捨てた。スチール缶は硬いのに、空くんは、見かけによらず力があるのかもしれない。新しい缶コーヒーを取り出し、栓を開ける。カシュッという音が心地良かった。「中学だるいよね」
「わかる?」お兄さんとかが中学生なのかもしれない。それでよく愚痴を聞かされているのかも。
「わかるよ。なんか、周りに合わせなくちゃとか色々さ。中学生なんて自我に目覚めたばっかりで、それなのにいきなりコミュニティに属すように強要されて、教師とかから勝手な人物評価つけられてさ。知ってる? 特別支援学級にいる子どもたちの何%かは、集団生活が苦手でパフォーマンスを発揮出来ないだけで、適切な環境下なら他の子どもたちと同じように勉強が出来て、成長出来るんだよ。ぼくも中学生の頃は、仲良しこよしを強要されるのが嫌で、変わり者のフリしては人を遠ざけてたっけ」
俺は、空くんからもらったコーヒーを啜りながら、彼の言葉の意味を考えた。「君何歳?」
「二十四歳のおねーさんだよ」
俺は、空くんを見た。
どこからどう見ても年下だけど、なんか賢そうなことを言っているし、喋っている様子からも、なんだかそれは誰かからの受け売りじゃなくて、自分の言葉で喋っているような感じがした。
この子の言う事は、なんだか自然と言葉通りに信じてしまいそうな説得力というか、中身のようなものがある気がした。
それでも、二十四歳?
本当に?
俺は、空くんを見て、その端正な顔立ちに少しだけ見とれてから、小さく笑った。
まあ、どっちでも良いや。
「そうなんだ。見えないね」
空くんは鼻を鳴らした。「よく言われんだよね。おっぱいも育たないし」
「なんでぼくって言ってるの?」
「心が男だから」
「ああ、なるほどね。萌えるよね。そういうの」
空くんは笑った。「お酒飲んで良い?」
「あー」俺は唸り声を漏らしながら言葉を探した。見れば、空くんはどこから取り出したのか、よく見かける銘柄のビールの缶、それも五百ミリリットルの大きなヤツを、その小さな手に握っていた。やめておいたほうが良いんじゃない? と、口から出そうになったけれど、言葉を飲み込んだ。「良いんじゃない?」
空くんは、駐車場の車を止めるブロックのようなものに腰掛けた。ビール片手に座る感じが、なんだかおっさん臭かった。空くんは俺を見上げた。「飲む?」次の瞬間、空くんの手には、もう一本のビール缶が握られていた。「飲みなよ。ちょろっと飲んでだめだったら、残りはもらうから」
「あ、じゃあ、いただきます」
「うん」空くんは、慣れた手つきでビールの缶を開けた。
俺も彼(彼女?)のマネをして、缶を開けた。
「乾杯」空くんは、缶ビールをこちらに傾けた。なんだか、所作がおっさん臭かった。
「乾杯」俺は、空くんの缶に自分の缶を当てた。
空くんは、ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ! と、あっという間に缶を空にした。「……、ふぅー……」と、くたびれたおっさんみたいな感じで、静かに息を吐く空くん。所作がいちいちおっさん臭かった。
気がつくと、空くんの手には二本目が握られていた。
俺は、缶を傾けて、ビールを舌で舐めた。
初めてビールを口にしたのは5歳くらいの頃だっただろうか。
親が飲んでいるシュワシュワしたそれが美味しそうで、少しだけ分けてもらったのだ。
子どもの頃、舌先ですくい上げてみたそれはとても苦くて、こんなもん一生飲まねーわと思っていた。
そして現在、舌先ですくい上げてみたそれは、心地良く喉の奥を潤す、ほんの少しだけ苦く、美味しいジュースのように感じられた。
「ぼくは15の頃は毎日飲んでたよ」空くんは二本目を置いて、三本目を開けた。
もう飲んだのか。
「飲まなきゃやってらんなくてね」
「空くんは、なんの仕事やってるの? ニート?」
「ぶふぉっ」空くんは楽しそうに吹き出した。「ニート? なんで」
「だって、こんな時間にこんなところほっつき歩いてお酒飲んでるなんて」
「だめな大人に見える?」
「いや……」っていうか、大人に見えない。子どもにしか見えない。「まあ、俺が好き好んで近づくタイプじゃないかな」
「そっかー」空くんは、優しげな雰囲気のまま、楽しそうに、うんうんと頷いた。「きみ本読むでしょ」
「読むよ?」なんでわかったんだろ。
「なんでわかったのかって顔してるね。ぼくも本好きだし、よく読むんだよ。十五の頃は、お気に入りの小説を何周も読んでた。ファンタジーなんだけどね、人間が魔法使いの世界に迷い込んで、世界を救う冒険に出るっていう話。物語の終わりには元の世界に戻ってきて、元の日常に戻るけど、冒険が主人公を成長させてくれて、冒険に出る前に悩んでいたことがどれもこれもちっぽけでどうでも良いものに思えるってヤツ」
「ふーん、なんて本?」俺はスマホを取り出した。
空くんは、楽しげな感じでこちらに手を伸ばした。
俺は空くんにスマホを渡した。
「おっ」空くんは、俺を見た。「電子書籍入れてんだ?」
「うん」
「ちょっと待っててね」空くんは、俺にスマホを返すと、缶ビールの残りを飲み干し、三本の空き缶を手に立ち上がって、コンビニへ入っていった。
急に静かになってしまった。
どこかから、虫の鳴き声が聴こえてくる。
鳥の鳴き声も。
茂みが揺れる音にそちらを見れば、猫くらいのサイズの、でも決して猫ではない四足歩行の動物がこちらを見て、静かに茂みの中へ戻っていった。
俺は、缶ビールを啜った。
不味いとは思わないけれど、特別美味しいとも思わない。
喉が潤うから、もらっておこう。
コンビニのドアが開き、空くんがこちらに戻ってきた。
手にはビールの缶で一杯になったビニール袋が下げられていた。
俺はスマホを空くんに差し出した。
「待ってねー」空くんは、スマホを操作した。ギフトカードを見ている。コンビニで買ってきたのだろうか。俺のアカウントに登録しているのだろうか。良いのだろうか。まあ、良いのだろう。どうでも。「あのさ。ぼくも本書いてるんだ。ギフトカード入れて買っておいたから、良かったら暇なときにでも読んでレビューつけてよ。知名度が欲しい段階なんだよね」
「ああ、良いよ」なに勝手に人のライブラリに追加してくれているんだろう。ちょっとだけムッとしたけれど、まあ、本を読むのは好きだし、空くんが買ってくれたギフトカードで買ったものなら別に損もないから、別に良い気がした。「俺が本好きだって、どうしてわかったの」
「ぼくの喋っていることの内容がわかっている感じだったから。この間補導した子は、ぼくの話を遮っちゃったんだよ。難しいことごちゃごちゃ言われてもわかんねーんだよクソガキって。言われてみれば、ぼくもアイドルの名前とか車の名前とか言われてもわかんないしね。まあ、馴染みのない話題は頭に入ってこないよね」
「そうだね」俺はビールを啜り、首を傾げた。補導? 俺は空くんを見た。
またビールを飲んでいた。
何本飲むんだろう、この子。
空くんは、ポケットから、黒い手帳を取り出して、それを開いた。「読める?」
俺は空くんが見せてくれたものを見た。
警察庁、特別捜査課、警視、空くんの名前。
キラキラと光る金色のバッジ。
警察のバッジだ。
特別捜査課?
そんな課、本当にあるのだろうか。
手作りだろうか。
ずいぶん凝ってるな。
そんなことを思っていると、空くんが笑い出した。「ほんと、なんでどいつもこいつも信じてくんないんだろうね。ぼくの見た目のせいかな。やっぱりガキっぽい?」
「うん……、そうだね」
「ほら、見ろよ」空くんは、缶ビール一杯のビニール袋を指さした。「未成年がどうやって買うっていうんだよぉ? ううん?」ニヤニヤと得意げなその顔が少しムカついた。
「実はこのお店に住んでるとか? ここはご両親の店で、お店の商品をこっそり持ち出してるとか」
「なるほどおもしろい」空くんは頷いた。「でも、無理だね。世の中にはそういうコンビニもあるけど、この建物は一階建てで、人が住めるスペースはないよ」
俺はコンビニを振り返った。
一階建ての建物。
売り場以外には、トイレと事務所くらいしかなさそうだ。
空くんの言う通りっぽい。
「ご両親が心配してるよ」空くんは言った。
俺の脳裏に両親の顔が浮かんだ。
別に嫌いなわけじゃない。
ただ、反抗したくなっただけかもしれない。
せっかくの反抗期だから、反抗期らしいことをしたくなっただけなのかも。
よくわからない。
「帰りたくないんだ」
空くんは頷いた。ビールを飲みながら。「わかるよ。でも、どうすんの?」
「今日は帰りたくないな」空くんが本当に警察官で、親からの通報を受けて、俺の捜索に来たんだとしたら、保護したと連絡をして、なんとか融通を利かせてもらうことは出来ないだろうか。そんなことを思いながら、俺はビールを啜った。
「せっかくだから相談にのるよ」
俺は空くんを見た。
空くんはビールを飲み、静かに頷いた。「ぼく警視でね、ちょっとだけ偉いんだよ。迷子の捜索も何回もやってるし、仲間内から信頼もされてる。だから、ユートくんにちょっとだけ時間をあげられる」
「良いの?」
空くんは頷いた。「でも、ただダラダラ過ごさせるつもりはないよ。悩みとかあるんだろ? 家を飛び出した理由があるんだろ? きみのことをもっと聞かせて欲しいんだ。事情によっては、きみに今と違う環境を与えることも出来るかもしれない。あるいはそうしないといけないっていう場合もあるかも」
「別に、虐待を受けてるとかじゃないよ」言ったあとで、虐待の被害者はお決まりのようにそういうのだということを思い出した。別に虐待を受けているわけじゃない、俺が悪いから、親は俺を殴るんだ、そういう心理状態をストックホルム症候群とでも言うのかもしれないし、ちょっと違うのかもしれない。「嫌になっただけなんだ。今の環境が」
「わかるよ。ぼくも十五の頃はそうだった」空くんは立ち上がった。小柄でほっそりとした空くんだったけれど、その眼差しや姿勢、声色は、なんだか、少しだけ頼もしく感じられた。「ここでこうやって過ごしたい? それとも、ぼくんち来る? 色々あるよ。シャワーと、暖炉と、レコードと、お酒と、あとなんかあったかな。なんか買ってこっか。ソファとハンモックは好きな方使わせてあげる。ベッドはぼくのもんだからね。ほら、立ちなよ」空くんは、俺の方を優しく叩いた。
俺は立ち上がった。「どこにあんの? きみんち」実はこの子は山に住む殺人鬼で、俺をコテージに連れ込んだあとに解体して冬を越えるための保存食にするつもりなのかもしれないけど、まあ、良いや。どうせ行く宛もないし。
「すぐそこだよ。腹減ってるでしょ。なに食べたい?」空くんはコンビニに入っていった。
「奢ってくれんの?」俺も、空くんに続いてコンビニに入った。
「うん」空くんは、コンビニのカゴを取り、俺に渡した。
俺は、それを受け取りながら、少しだけ考えた。「カレーとハンバーグ、餃子、肉じゃが、味噌汁、ご飯」
空くんは俺を見上げた。
俺の身長は百七十センチだから、空くんは百五十センチの中頃くらいか。
「手作りが良いの?」
「なんでわかったの」
空くんは微笑んだ。暖かく、リラックスした、自然な、ナチュラルな、本物の笑顔。「なんかわかっちゃうんだよね。ぼく天才だから」
「そっか」なぜか、その時俺の脳裏に浮かんだのは、小学生の夏休みの思い出だった。何も考えず、ただ、友達と走り回って、汗をかいて、川で水浴びをしていた。夏の香り、自然の香り。心に染み渡る川のせせらぎ。肌を焼く強い日差し。騒がしいセミの鳴き声すら、心地良く感じられる。なんだか、胸が締め付けられ、目がうるんだ。だめだ。俺は深呼吸をして、思い出の中から、コンビニの店内へと戻った。
空くんが、静かに俺を見上げていた。
「なに」
空くんは考えるように目を動かし、俺を見た。「スーパーいこっか。手作りならそっちのが安いし、色々揃うでしょ」空くんは、俺の手からかごを奪い取ると、それを元の場所に戻して、コンビニを出た。
「スーパーってどれくらい離れてんの」
「そんなだよ。三十分くらい」空くんは星空を見上げながら、新しく開けた缶ビールを飲んだ。空くんは、静かに星空を見上げながら山道を降りていく。
俺は、星空を静かに眺める空くんの顔を見た。
さっきは、なんだか頼もしさを感じていたのに、今は見た目相応の子どものような顔をしている。
俺は、空くんの真似をして、ビールを啜りながら、星空を見上げた。
ガードレールの向こうに広がる街からでは、こんな澄み切った星空は見れなかっただろう。
空くんが本当に警察官だったなら、あるいは山に身を潜める人食い殺人鬼だったなら、俺は今から警察署か、人里離れた血生臭いコテージにでも連れて行かれのかもしれない。
そんな未来が待っているのだとしても、この星空を見ていると、この山の静けさに包まれていると、今日、ここに来られて良かったと思える。
数時間後、スーパーマーケットの後に連れてこられたのは、街と山の間のあたりにある、小さなコテージで、幸い、ホラー映画に出てきそうな凶器はなさそうだったし、血なまぐさい香りもしなかった。
シャワーを浴びて、なんだか少しいい香りのする空くんは、相変わらずのTシャツにデニムという格好で、レコードのスイッチをいれると、キッチンに立った。「シャワー浴びちゃいなよ、作っとくから」
「ありがと」
「手伝ってね。料理」
「わかった」俺は、バスルームに向かったけれど、立ち止まって、空くんを見た。「なんでそこまでしてくれんの」
「こういうことをしたいから大人になったんだよ」空くんは、鍋に蛇口の水を注ぎながら言った。「昔のぼくみたいな奴の話し相手になりたくてね。協力して欲しいだけなんだ。ぼくの自己満足に」
俺は、少しだけ考えたけれど、あまり良くわからなかった。「わかった」
なにもかもが嫌になった。
向かい合うことも嫌になり、気がつくと、俺は走り出していた。
どこに向かっているともわからない。
ただ、そこ以外のどこかなら、どこでも良い。
それが、どんなに寒くて、空腹で、臭くて、汚くて、痒くて、寂しくて、うるさい場所でも、構わない。
そこにいるしかないという、そんな理由で、みじめな気持ちで、自分を殺しながら過ごす地獄よりも、小汚い路上や月明かりだけが頼りの樹海の方がマシだ。
そんなことを思って駆け出していたのに、やっぱり空腹は辛い。
山道に差し掛かった頃、コンビニを見つけて、俺は、ほっと胸をなでおろした。
財布の中を見る。
コーヒーを一杯とおにぎりが二、三個。
それでおしまいだ。
俺は、コンビニの表で、コーヒーを啜りながら空を見上げた。
大きな満月と、星々が輝いている。
コーヒーを啜りながら、店を出る。
ガードレールの向こう、眼下に、俺の育った街が見えた。
遠くに見える夜の街は、たくさんの明かりに輝いていた。
精一杯、力を振り絞って駆け出したのに。
力尽きて振り返ってみれば、街は車を三十分も走らせれば着く程度の距離しか離れていなかった。
俺は、周囲を見渡して、誰もいないことを確認してから、腹に力を入れて、声を上げた。
お腹から声を出したのは、数カ月ぶり。
音楽の授業のときですら、人に声を聞かれるのが嫌で、自分の存在感を主張することが嫌で、声を抑えていた。
そんなことをやっているうちに、歌っているフリだけが上達した。
俺は、もう一度腹に力を入れて、声を上げた。
歌うことが大好きだったのに、それに評価をつけられると思うと、急に息苦しくなり、退屈になった。
小学校を卒業する前には、色鮮やかにきらめいていた世界が、色褪せているように、退屈に思えてしまっていた。
俺は、深呼吸をして、叫び声を上げた。
肺の中の空気をすべて吐き出す。
俺は、深呼吸をして、身を翻した。
帰ろう。
中学三年生の俺には、そうする他に選択肢はない。
その前に、もう一杯だけコーヒーを飲もう。
そう思い、コンビニを見て、俺は、動きを止めた。
車の止まっていない駐車場。
その真ん中に、小さな人影が見えた。
人影は、真っ暗な山中に建つコンビニの明かりを背に浴びていたが、こちらを見ているのがわかった。
十二歳くらいだろうか。
小さな女の子のように見える。
こんな夜中に、山道で、一人っきり。
危ないな。
いや、コンビニに親がいるのかもしれない。
女の子は、キラキラと輝く目でこちらを見ていた。
黄色い目。
カラコンかもしれない。
俺は眉をひそめた。
秋も終わりに差し掛かっているというのに、彼女は、無地の半袖Tシャツに、生地の厚いデニム、安物のスニーカーといった、身軽な格好をしていた。
メイクをしていないし、イヤリングなんかのアクセサリーもつけていない。
それなのに、目の色にだけはこだわりがあるのだろうか。
いや、女の子の手には、指輪が三つもあった。
まあ、これがこの子のおしゃれなんだろう。
あんまり気にすることでもない。
女の子は、俺を見据えていた。
俺は、女の子に会釈をして、その横を通り過ぎようとした。
「あのさ」
俺は動きを止めて、女の子を見た。「はい?」
女の子は、キラキラと輝く目に、柔らかな感情を浮かべた。「家出?」
「え、うん。そんなとこ」答えたあとで、思った。なんでそんなことを聞かれなくちゃいけないんだ。「きみは?」
「ぼくは散歩。夜は人がいないから。昼は人が多すぎて落ち着かないんだ」女の子は、男の子のような口調で言った。声変わりする前のソプラノのきれいな声。俺は、目の前にいる子の性別がわからなくなった。
「ふうん」俺は、ちらりと相手の胸元を見た。平らな胸。女の子かと思ったけれど、男の子だったようだ。「俺が言うのもなんだけど、こんなところ、一人でいたら危ないよ」
男の子は、楽しそうに笑った。「良いんだよぼくは。慣れてるから」男の子は、缶コーヒーからコーヒーを啜った。「どこに住んでるの?」
「すぐ近く」
「どこ」
どこだって良いだろ? と思いながら、俺は、道路の向こう、ガードレールの下に広がる街を指さした。
「そっか。コーヒー飲む?」
いやいらない、と断ろうとした次の瞬間には、男の子は缶コーヒーをこちらに放っていた。
俺はそれを両手でキャッチして、男の子に頷いた。
「ありがと」
男の子は頷いた。「どういたしまして」
「俺ユート」
「ぼくは空」
俺はコーヒーの缶を開けた。「小学生?」
空くんは楽しそうに笑った。
なにがそんなに楽しいんだろう。
「そんな感じ。そっちは中学生?」
「うん。コーヒー飲むと育たないんだって」
「良いんだよぼくは。もう成長止まってるから」
「これからでしょ」
空くんは、空になった缶を、その小さな左手で握りつぶして、ゴミ箱に捨てた。スチール缶は硬いのに、空くんは、見かけによらず力があるのかもしれない。新しい缶コーヒーを取り出し、栓を開ける。カシュッという音が心地良かった。「中学だるいよね」
「わかる?」お兄さんとかが中学生なのかもしれない。それでよく愚痴を聞かされているのかも。
「わかるよ。なんか、周りに合わせなくちゃとか色々さ。中学生なんて自我に目覚めたばっかりで、それなのにいきなりコミュニティに属すように強要されて、教師とかから勝手な人物評価つけられてさ。知ってる? 特別支援学級にいる子どもたちの何%かは、集団生活が苦手でパフォーマンスを発揮出来ないだけで、適切な環境下なら他の子どもたちと同じように勉強が出来て、成長出来るんだよ。ぼくも中学生の頃は、仲良しこよしを強要されるのが嫌で、変わり者のフリしては人を遠ざけてたっけ」
俺は、空くんからもらったコーヒーを啜りながら、彼の言葉の意味を考えた。「君何歳?」
「二十四歳のおねーさんだよ」
俺は、空くんを見た。
どこからどう見ても年下だけど、なんか賢そうなことを言っているし、喋っている様子からも、なんだかそれは誰かからの受け売りじゃなくて、自分の言葉で喋っているような感じがした。
この子の言う事は、なんだか自然と言葉通りに信じてしまいそうな説得力というか、中身のようなものがある気がした。
それでも、二十四歳?
本当に?
俺は、空くんを見て、その端正な顔立ちに少しだけ見とれてから、小さく笑った。
まあ、どっちでも良いや。
「そうなんだ。見えないね」
空くんは鼻を鳴らした。「よく言われんだよね。おっぱいも育たないし」
「なんでぼくって言ってるの?」
「心が男だから」
「ああ、なるほどね。萌えるよね。そういうの」
空くんは笑った。「お酒飲んで良い?」
「あー」俺は唸り声を漏らしながら言葉を探した。見れば、空くんはどこから取り出したのか、よく見かける銘柄のビールの缶、それも五百ミリリットルの大きなヤツを、その小さな手に握っていた。やめておいたほうが良いんじゃない? と、口から出そうになったけれど、言葉を飲み込んだ。「良いんじゃない?」
空くんは、駐車場の車を止めるブロックのようなものに腰掛けた。ビール片手に座る感じが、なんだかおっさん臭かった。空くんは俺を見上げた。「飲む?」次の瞬間、空くんの手には、もう一本のビール缶が握られていた。「飲みなよ。ちょろっと飲んでだめだったら、残りはもらうから」
「あ、じゃあ、いただきます」
「うん」空くんは、慣れた手つきでビールの缶を開けた。
俺も彼(彼女?)のマネをして、缶を開けた。
「乾杯」空くんは、缶ビールをこちらに傾けた。なんだか、所作がおっさん臭かった。
「乾杯」俺は、空くんの缶に自分の缶を当てた。
空くんは、ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ! と、あっという間に缶を空にした。「……、ふぅー……」と、くたびれたおっさんみたいな感じで、静かに息を吐く空くん。所作がいちいちおっさん臭かった。
気がつくと、空くんの手には二本目が握られていた。
俺は、缶を傾けて、ビールを舌で舐めた。
初めてビールを口にしたのは5歳くらいの頃だっただろうか。
親が飲んでいるシュワシュワしたそれが美味しそうで、少しだけ分けてもらったのだ。
子どもの頃、舌先ですくい上げてみたそれはとても苦くて、こんなもん一生飲まねーわと思っていた。
そして現在、舌先ですくい上げてみたそれは、心地良く喉の奥を潤す、ほんの少しだけ苦く、美味しいジュースのように感じられた。
「ぼくは15の頃は毎日飲んでたよ」空くんは二本目を置いて、三本目を開けた。
もう飲んだのか。
「飲まなきゃやってらんなくてね」
「空くんは、なんの仕事やってるの? ニート?」
「ぶふぉっ」空くんは楽しそうに吹き出した。「ニート? なんで」
「だって、こんな時間にこんなところほっつき歩いてお酒飲んでるなんて」
「だめな大人に見える?」
「いや……」っていうか、大人に見えない。子どもにしか見えない。「まあ、俺が好き好んで近づくタイプじゃないかな」
「そっかー」空くんは、優しげな雰囲気のまま、楽しそうに、うんうんと頷いた。「きみ本読むでしょ」
「読むよ?」なんでわかったんだろ。
「なんでわかったのかって顔してるね。ぼくも本好きだし、よく読むんだよ。十五の頃は、お気に入りの小説を何周も読んでた。ファンタジーなんだけどね、人間が魔法使いの世界に迷い込んで、世界を救う冒険に出るっていう話。物語の終わりには元の世界に戻ってきて、元の日常に戻るけど、冒険が主人公を成長させてくれて、冒険に出る前に悩んでいたことがどれもこれもちっぽけでどうでも良いものに思えるってヤツ」
「ふーん、なんて本?」俺はスマホを取り出した。
空くんは、楽しげな感じでこちらに手を伸ばした。
俺は空くんにスマホを渡した。
「おっ」空くんは、俺を見た。「電子書籍入れてんだ?」
「うん」
「ちょっと待っててね」空くんは、俺にスマホを返すと、缶ビールの残りを飲み干し、三本の空き缶を手に立ち上がって、コンビニへ入っていった。
急に静かになってしまった。
どこかから、虫の鳴き声が聴こえてくる。
鳥の鳴き声も。
茂みが揺れる音にそちらを見れば、猫くらいのサイズの、でも決して猫ではない四足歩行の動物がこちらを見て、静かに茂みの中へ戻っていった。
俺は、缶ビールを啜った。
不味いとは思わないけれど、特別美味しいとも思わない。
喉が潤うから、もらっておこう。
コンビニのドアが開き、空くんがこちらに戻ってきた。
手にはビールの缶で一杯になったビニール袋が下げられていた。
俺はスマホを空くんに差し出した。
「待ってねー」空くんは、スマホを操作した。ギフトカードを見ている。コンビニで買ってきたのだろうか。俺のアカウントに登録しているのだろうか。良いのだろうか。まあ、良いのだろう。どうでも。「あのさ。ぼくも本書いてるんだ。ギフトカード入れて買っておいたから、良かったら暇なときにでも読んでレビューつけてよ。知名度が欲しい段階なんだよね」
「ああ、良いよ」なに勝手に人のライブラリに追加してくれているんだろう。ちょっとだけムッとしたけれど、まあ、本を読むのは好きだし、空くんが買ってくれたギフトカードで買ったものなら別に損もないから、別に良い気がした。「俺が本好きだって、どうしてわかったの」
「ぼくの喋っていることの内容がわかっている感じだったから。この間補導した子は、ぼくの話を遮っちゃったんだよ。難しいことごちゃごちゃ言われてもわかんねーんだよクソガキって。言われてみれば、ぼくもアイドルの名前とか車の名前とか言われてもわかんないしね。まあ、馴染みのない話題は頭に入ってこないよね」
「そうだね」俺はビールを啜り、首を傾げた。補導? 俺は空くんを見た。
またビールを飲んでいた。
何本飲むんだろう、この子。
空くんは、ポケットから、黒い手帳を取り出して、それを開いた。「読める?」
俺は空くんが見せてくれたものを見た。
警察庁、特別捜査課、警視、空くんの名前。
キラキラと光る金色のバッジ。
警察のバッジだ。
特別捜査課?
そんな課、本当にあるのだろうか。
手作りだろうか。
ずいぶん凝ってるな。
そんなことを思っていると、空くんが笑い出した。「ほんと、なんでどいつもこいつも信じてくんないんだろうね。ぼくの見た目のせいかな。やっぱりガキっぽい?」
「うん……、そうだね」
「ほら、見ろよ」空くんは、缶ビール一杯のビニール袋を指さした。「未成年がどうやって買うっていうんだよぉ? ううん?」ニヤニヤと得意げなその顔が少しムカついた。
「実はこのお店に住んでるとか? ここはご両親の店で、お店の商品をこっそり持ち出してるとか」
「なるほどおもしろい」空くんは頷いた。「でも、無理だね。世の中にはそういうコンビニもあるけど、この建物は一階建てで、人が住めるスペースはないよ」
俺はコンビニを振り返った。
一階建ての建物。
売り場以外には、トイレと事務所くらいしかなさそうだ。
空くんの言う通りっぽい。
「ご両親が心配してるよ」空くんは言った。
俺の脳裏に両親の顔が浮かんだ。
別に嫌いなわけじゃない。
ただ、反抗したくなっただけかもしれない。
せっかくの反抗期だから、反抗期らしいことをしたくなっただけなのかも。
よくわからない。
「帰りたくないんだ」
空くんは頷いた。ビールを飲みながら。「わかるよ。でも、どうすんの?」
「今日は帰りたくないな」空くんが本当に警察官で、親からの通報を受けて、俺の捜索に来たんだとしたら、保護したと連絡をして、なんとか融通を利かせてもらうことは出来ないだろうか。そんなことを思いながら、俺はビールを啜った。
「せっかくだから相談にのるよ」
俺は空くんを見た。
空くんはビールを飲み、静かに頷いた。「ぼく警視でね、ちょっとだけ偉いんだよ。迷子の捜索も何回もやってるし、仲間内から信頼もされてる。だから、ユートくんにちょっとだけ時間をあげられる」
「良いの?」
空くんは頷いた。「でも、ただダラダラ過ごさせるつもりはないよ。悩みとかあるんだろ? 家を飛び出した理由があるんだろ? きみのことをもっと聞かせて欲しいんだ。事情によっては、きみに今と違う環境を与えることも出来るかもしれない。あるいはそうしないといけないっていう場合もあるかも」
「別に、虐待を受けてるとかじゃないよ」言ったあとで、虐待の被害者はお決まりのようにそういうのだということを思い出した。別に虐待を受けているわけじゃない、俺が悪いから、親は俺を殴るんだ、そういう心理状態をストックホルム症候群とでも言うのかもしれないし、ちょっと違うのかもしれない。「嫌になっただけなんだ。今の環境が」
「わかるよ。ぼくも十五の頃はそうだった」空くんは立ち上がった。小柄でほっそりとした空くんだったけれど、その眼差しや姿勢、声色は、なんだか、少しだけ頼もしく感じられた。「ここでこうやって過ごしたい? それとも、ぼくんち来る? 色々あるよ。シャワーと、暖炉と、レコードと、お酒と、あとなんかあったかな。なんか買ってこっか。ソファとハンモックは好きな方使わせてあげる。ベッドはぼくのもんだからね。ほら、立ちなよ」空くんは、俺の方を優しく叩いた。
俺は立ち上がった。「どこにあんの? きみんち」実はこの子は山に住む殺人鬼で、俺をコテージに連れ込んだあとに解体して冬を越えるための保存食にするつもりなのかもしれないけど、まあ、良いや。どうせ行く宛もないし。
「すぐそこだよ。腹減ってるでしょ。なに食べたい?」空くんはコンビニに入っていった。
「奢ってくれんの?」俺も、空くんに続いてコンビニに入った。
「うん」空くんは、コンビニのカゴを取り、俺に渡した。
俺は、それを受け取りながら、少しだけ考えた。「カレーとハンバーグ、餃子、肉じゃが、味噌汁、ご飯」
空くんは俺を見上げた。
俺の身長は百七十センチだから、空くんは百五十センチの中頃くらいか。
「手作りが良いの?」
「なんでわかったの」
空くんは微笑んだ。暖かく、リラックスした、自然な、ナチュラルな、本物の笑顔。「なんかわかっちゃうんだよね。ぼく天才だから」
「そっか」なぜか、その時俺の脳裏に浮かんだのは、小学生の夏休みの思い出だった。何も考えず、ただ、友達と走り回って、汗をかいて、川で水浴びをしていた。夏の香り、自然の香り。心に染み渡る川のせせらぎ。肌を焼く強い日差し。騒がしいセミの鳴き声すら、心地良く感じられる。なんだか、胸が締め付けられ、目がうるんだ。だめだ。俺は深呼吸をして、思い出の中から、コンビニの店内へと戻った。
空くんが、静かに俺を見上げていた。
「なに」
空くんは考えるように目を動かし、俺を見た。「スーパーいこっか。手作りならそっちのが安いし、色々揃うでしょ」空くんは、俺の手からかごを奪い取ると、それを元の場所に戻して、コンビニを出た。
「スーパーってどれくらい離れてんの」
「そんなだよ。三十分くらい」空くんは星空を見上げながら、新しく開けた缶ビールを飲んだ。空くんは、静かに星空を見上げながら山道を降りていく。
俺は、星空を静かに眺める空くんの顔を見た。
さっきは、なんだか頼もしさを感じていたのに、今は見た目相応の子どものような顔をしている。
俺は、空くんの真似をして、ビールを啜りながら、星空を見上げた。
ガードレールの向こうに広がる街からでは、こんな澄み切った星空は見れなかっただろう。
空くんが本当に警察官だったなら、あるいは山に身を潜める人食い殺人鬼だったなら、俺は今から警察署か、人里離れた血生臭いコテージにでも連れて行かれのかもしれない。
そんな未来が待っているのだとしても、この星空を見ていると、この山の静けさに包まれていると、今日、ここに来られて良かったと思える。
数時間後、スーパーマーケットの後に連れてこられたのは、街と山の間のあたりにある、小さなコテージで、幸い、ホラー映画に出てきそうな凶器はなさそうだったし、血なまぐさい香りもしなかった。
シャワーを浴びて、なんだか少しいい香りのする空くんは、相変わらずのTシャツにデニムという格好で、レコードのスイッチをいれると、キッチンに立った。「シャワー浴びちゃいなよ、作っとくから」
「ありがと」
「手伝ってね。料理」
「わかった」俺は、バスルームに向かったけれど、立ち止まって、空くんを見た。「なんでそこまでしてくれんの」
「こういうことをしたいから大人になったんだよ」空くんは、鍋に蛇口の水を注ぎながら言った。「昔のぼくみたいな奴の話し相手になりたくてね。協力して欲しいだけなんだ。ぼくの自己満足に」
俺は、少しだけ考えたけれど、あまり良くわからなかった。「わかった」
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