天空門のルシフィス 「天と地を裂かれし熾天使――その名はルシフィス」

かみちん

文字の大きさ
5 / 101
惑星イオ 光国編

第5話 ミラー城塞へ

しおりを挟む
 リアムの家で一夜を明かした空たちは、朝の光の中、ミラー城塞への出発準備を整えていた。

「さあ、ミラー城塞へ向かうとするか」

  メイソンが力強く言うと、空は頷いた。

 メイソンの大きな背に、美加とエミリが軽やかに乗る。道中、リアムとメイソンは旧友らしく、昔話に花を咲かせながら穏やかに歩みを進めた。やがて、威風堂々とした巨大な城塞が前方に現れる。

「ミラー城塞って、南東樹海からそれほど遠くないんですね?」

 空が尋ねると、リアムが頷いた。

「ええ。ミラー城塞の領主、ルーク様は元冒険者でしてね。過去の功績を称えられ、アレス王からこの地一帯――ミラー領とその首都を任されたのです。魔物が南東樹海から頻繁に出るものですから、即応できるように城塞はその近くに築かれているんですよ」

「なるほど……」
 空は感心したように頷く。

「ちなみに、二年ほど前にルーク様の奥様、イザベラ様が病を患ってしまいまして。それ以来、ルーク様は少し様子がおかしく感じられることがあるかもしれません。ですが、あまりお気になさらないで」

「分かりました」

「もうすぐ城門です。熊の件については、昨日のうちに諜報員が冒険者ギルドへ報告しています。門が開けば、ギルドのサブマスターが出迎えてくれているはずです」

 その言葉通り、重々しい音を立てて城門が開かれると、中に数名の人影が見えた。

「ギルマス~!」

 その声とともに駆け寄ってきたのは、サブマスターのエレノアだった。彼女はメイソンの熊の姿に飛びつく。

「生きていて良かった~! 姿はどうあれ、生きていて良かったですよ!」

「心配かけたな」
メイソンが申し訳なさそうに答える。

  他にも男女の職員が二人いた。

「うわっ、マジで熊がしゃべった……」
 男の職員、カーターが驚いた声を上げる。

「報告通りでしょ」
 女の職員、レアがあきれ顔で返す。

「そうだけどよ~……それにしても熊か。ギル熊って感じだな。なんか、しっくりくるかも」

「たしかに、もともと熊みたいな見た目だったから違和感がないかもね」
レアの言葉に、メイソンは頭をかいた。

「おまえらな~……」

 二人は「ごめんなさい~」と笑い合う。

「でも、生きていて本当によかったです。サブマス、泣きまくってましたから」

 レアがこっそり耳打ちすると、エレノアは恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「こらっ!」

「本当にすまなかった。とにかく、ギルド館でゆっくり話したいが、この姿で城塞に入っても問題ないか?」

「大丈夫です。今朝、町中に熊がいても驚かないよう広報しておきましたから」
 エレノアの言葉にメイソンは安堵の息を漏らした。

「そ、そうか。……こちらの二人が、俺とエミリを救ってくれたんだ」

 エレノアは空と美加に深々と頭を下げた。

「本当にありがとうございます」

「いえいえ。私は空っていいます。こちらは美加」

「美加です、よろしくお願いします」

「私はエレノア。冒険者ギルドのサブマスターです。詳しいお話は、ギルド館で伺います。さあ、行きましょう」

 そこでリアムが一歩前に出る。

「では、私はエミリお嬢様を館までお送りします。後ほど合流しますね」

「よろしくな!」
 メイソンが応え、エミリとリアムは静かにその場を後にした。

 ミラー城塞の中に足を踏み入れると、まず目に入ったのは兵士たちの宿舎と訓練場だった。非常時に即応できるよう、城門の近くに配置されているのだろう。

 続いては畑や酪農施設。エレノアの話によれば、魔王が存在する間はすべて城塞内で栽培・飼育し、魔王がいなくなれば外でも行えるようになるという。

 さらに商店や加工施設、住居が並び、その奥にひときわ大きな建物――ギルド館が見えてきた。六階建てのその建物は、隣に訓練場を構え、一階には冒険者、レンジャー、商人ギルドの受付があり、昼間は喫茶店、夜には酒場になる広間があった。二階には各ギルドの事務所や応接間、ギルマスの部屋があり、三階以上は商人ギルドが運営する宿泊施設となっていた。

 空たちはそのギルド館へと足を踏み入れる。

「空さん、ギルドについてご存知ですか?」

 エレノアの問いに、空は正直に答える。

「いえ、あまりよく分からなくて……」

「ギルドとは、魔物退治や警護、雑務を担う『冒険者ギルド』、お宝探索などを行う『トレジャーハントギルド』、そして職人や商人が属する『職人・商人ギルド』などから成る組織です。それぞれ登録が必要なんですよ」

「なるほど……」

「依頼は右側の掲示板に貼ってありますが、

 今は人手不足で、ほぼ休業状態なんです」
エレノアの言葉に、空は思わず眉をひそめた。

「それは大変ですね……」

「そろそろ、二階で話そうか」

 メイソンが促し、カーターとレアは一階の受付に戻っていった。

 空、美加、メイソン、エレノアは、ギルド館二階のギルマス室へ向かう。メイソンは南東樹海の黒い霧とその影響について、これまでの経緯をエレノアに語った。

「なるほど……黒い霧がギルマスを魔物に変えた可能性がある。しかし原因は未だ不明……」

 エレノアが眉間にしわを寄せる。

「そうだ」
 メイソンが重々しく頷いた。

「たしかに、これまでも南東樹海で行方不明者は多かったですが、事故として処理されてきました。でも今回の話で、それが事故とは限らないことがわかりました」

「一年前から不定期に調査クエストが出ていた記録もあります。調査の目的や発注元を調べ直してみます」

「頼む。リアムがルーク様に話を通してくれているから、許可が下りればすぐにでも再調査に入るつもりだ」

「分かりました」

 エレノアはそう答えると、そのまま空と美加の方に向き直り、何かを言い出しそうな表情を浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...