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【第二章】蓮牙山同盟
【第三十六話】師匠との別れ
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蓮牙山の賊徒と同盟を結んでから、セトラ村の様子は変わりつつあった。
村から食糧を運んだ後、蓮牙山からは働き手として五十人ほどが村にやって来たのだ。
彼らは蓮牙山でも拠点の防備を設置したり、戦のための罠を張ったりしていたそうで、建物の建築も得意だった。
裏の山から木を切り出して馬止めの柵を村の周囲に張り巡らせ、穴を掘って堀を作った。
それだけでなく、見張りやぐらの数も増やし、山から集めた石を積んで石垣なども作ってくれたのだった。
たった数週間で村は農村と言うより、ちょっとした陣地のようになっていた。
今後は、鍛冶場や工房などを建設して武器を作れるようにするという。
村には小さな鍛冶場しかなく、武器や鎧などの大掛かりな物は作れなかったのだ。
そんなある日、ドライスの修行を終えると、彼に呼び出された。
「ドライス殿、どうしましたか」
「そろそろ冬が開けるな」
ドライスは、遠くを眺めるように言った。
「ええ、まだ雪は残ってますが、じきに暖かくなるでしょう」
「そろそろ、この集落から発とうと思うのだ」
俺は、頭から水を掛けられたような気分に襲われた。
「なぜですか、まだ修行も終わってません」
「母上もすっかり調子を戻した。これ以上、この村に厄介になるわけにもいかん」
「厄介などと。ドライス殿のおかげで、俺やカシュカは強くなりました。以前より、村を守れるようになった」
涙が、込み上げてきた。
「カイト、私は追われている身なのだ。オトラス王国軍に知られたら、この村に迷惑がかかる」
「どの道、この村は王国軍から目を付けられています。ドライス殿が居ても、何ら変わりはありません」
「カイト、お前にだけ言おう」
何を言われても、ドライスを引き留めようと思った。
「お前は、充分に強くなっている。カシュカには悪いが、カイトの方が数段とな」
お世辞には聞こえなかった。
「私の武術は、外へではなく、内へ向かって極めてきたものだった。カイトには、そうなって欲しくないのだ」
武術に、外や内があるのか。
今の俺では、考えても分からなかった。
「きっと、私の言っていることが分かる時がくるだろう。それは、自分自身で見極めるのだ」
「嫌です。ドライス殿、ずっとこの村に居てください」
ドライスには、最後まで勝つ事は出来なかった。
せめて、一度くらいは勝ちたかった。
ドライスはまだ数日は滞在するつもりだと言うので、その日俺は帰宅した。
そして翌朝になって村長の屋敷に行ってみると、ドライスと母のソランは居なくなっていた。
村から食糧を運んだ後、蓮牙山からは働き手として五十人ほどが村にやって来たのだ。
彼らは蓮牙山でも拠点の防備を設置したり、戦のための罠を張ったりしていたそうで、建物の建築も得意だった。
裏の山から木を切り出して馬止めの柵を村の周囲に張り巡らせ、穴を掘って堀を作った。
それだけでなく、見張りやぐらの数も増やし、山から集めた石を積んで石垣なども作ってくれたのだった。
たった数週間で村は農村と言うより、ちょっとした陣地のようになっていた。
今後は、鍛冶場や工房などを建設して武器を作れるようにするという。
村には小さな鍛冶場しかなく、武器や鎧などの大掛かりな物は作れなかったのだ。
そんなある日、ドライスの修行を終えると、彼に呼び出された。
「ドライス殿、どうしましたか」
「そろそろ冬が開けるな」
ドライスは、遠くを眺めるように言った。
「ええ、まだ雪は残ってますが、じきに暖かくなるでしょう」
「そろそろ、この集落から発とうと思うのだ」
俺は、頭から水を掛けられたような気分に襲われた。
「なぜですか、まだ修行も終わってません」
「母上もすっかり調子を戻した。これ以上、この村に厄介になるわけにもいかん」
「厄介などと。ドライス殿のおかげで、俺やカシュカは強くなりました。以前より、村を守れるようになった」
涙が、込み上げてきた。
「カイト、私は追われている身なのだ。オトラス王国軍に知られたら、この村に迷惑がかかる」
「どの道、この村は王国軍から目を付けられています。ドライス殿が居ても、何ら変わりはありません」
「カイト、お前にだけ言おう」
何を言われても、ドライスを引き留めようと思った。
「お前は、充分に強くなっている。カシュカには悪いが、カイトの方が数段とな」
お世辞には聞こえなかった。
「私の武術は、外へではなく、内へ向かって極めてきたものだった。カイトには、そうなって欲しくないのだ」
武術に、外や内があるのか。
今の俺では、考えても分からなかった。
「きっと、私の言っていることが分かる時がくるだろう。それは、自分自身で見極めるのだ」
「嫌です。ドライス殿、ずっとこの村に居てください」
ドライスには、最後まで勝つ事は出来なかった。
せめて、一度くらいは勝ちたかった。
ドライスはまだ数日は滞在するつもりだと言うので、その日俺は帰宅した。
そして翌朝になって村長の屋敷に行ってみると、ドライスと母のソランは居なくなっていた。
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