15 / 50
【第二章】バーゲス監獄編
【第十五話】ザイフェルトの過去
しおりを挟む
僕とザイフェルトは、切り倒した木を運搬するかたわらで、話しをした。
今日の見張りの兵は厳しくはなく、喋っていてもほどほどに見逃してくれている。
これが厳しい監視だと、囚人同士で喋るのはおろか、目が合っただけでムチを飛ばされるのだ。
「俺は、産まれた時から奴隷だった訳ではない」
ザイフェルトは、淡々と喋り始めた。
「知っての通り、奴隷の間に産まれた子供も当然奴隷としての身分を与えられる」
この国では、それが当たり前の事のようだ。
身分制度が存在しない日本とは大違いだ。
「しかし、俺の両親は平民だった。王都の近郊で農業をしていた、ごく普通の農家だ」
僕は黙って、ザイフェルトの話しを聞き続けた。
農家だったザイフェルトの家族は、ザイフェルトが五歳の時、大飢饉の被害を受けてしまったそうだ。
この年の大飢饉では王国中で食料が不足し、農家をはじめ、低身分の人達を中心に餓死者が多発したのだという。
それなのに商人や貴族は食料を独占し、贅沢な生活を維持していた。
「飢えに苦しんだ挙げ句、俺を育てられないと思った両親は、孤児院に俺を預けた」
一人の子供を育てられないほど、切羽詰まっていたのだろう。
「だが、俺が預けられた孤児院もまた、大飢饉によって苦しんでいた」
そして困り果てた孤児院の院長は失踪し、そこに預けられていた孤児たちは政府によって奴隷身分に落とされた。
じつに勝手極まりない所業である。
その後ザイフェルトは、奴隷として半世紀も重労働に身をやつす生活を送ってきたそうだ。
彼は今年で五十五歳になる。
「だが、俺は俺で、奴隷になったことに納得がいかず、雇い主を襲ったり、盗みを働いたりした。その度に捕らえられ、監獄を出たり入ったりと繰り返しているというわけだ」
言われなき理由で、理不尽に奴隷に落とされる。
誰だって、納得はいかないだろう。
僕自身、罪人になったことに納得がいかないのだ。
「これを見ろ」
ザイフェルトはそう言うと、上衣をめくり、背中を見せた。
罪人の烙印が、九つもあった。
「罪を一つ犯すたびに、烙印が押されるんだ。手の甲の烙印は、初めの一回だけだがな」
「九回も、監獄の出入りを繰り返しているんですね」
「まぁ、見付かっていない罪も含めると、十数回にもなるがな」
罪の数だけ見ると、ザイフェルトはただの悪党である。
しかし、彼には事情があった。
農家の両親が孤児院に預けなければ、平民のまま、罪を犯すことなく生きていけたのではないのか。
もっと元を辿ると、貴族や商人が飢えに苦しんでいる民に食料を訳与えれば良かったのではないのか。
王族や貴族、役人だけが贅沢な暮らしを送れる身分制度が良くないのではないのか。
この国は、かなり腐っている。
今日の見張りの兵は厳しくはなく、喋っていてもほどほどに見逃してくれている。
これが厳しい監視だと、囚人同士で喋るのはおろか、目が合っただけでムチを飛ばされるのだ。
「俺は、産まれた時から奴隷だった訳ではない」
ザイフェルトは、淡々と喋り始めた。
「知っての通り、奴隷の間に産まれた子供も当然奴隷としての身分を与えられる」
この国では、それが当たり前の事のようだ。
身分制度が存在しない日本とは大違いだ。
「しかし、俺の両親は平民だった。王都の近郊で農業をしていた、ごく普通の農家だ」
僕は黙って、ザイフェルトの話しを聞き続けた。
農家だったザイフェルトの家族は、ザイフェルトが五歳の時、大飢饉の被害を受けてしまったそうだ。
この年の大飢饉では王国中で食料が不足し、農家をはじめ、低身分の人達を中心に餓死者が多発したのだという。
それなのに商人や貴族は食料を独占し、贅沢な生活を維持していた。
「飢えに苦しんだ挙げ句、俺を育てられないと思った両親は、孤児院に俺を預けた」
一人の子供を育てられないほど、切羽詰まっていたのだろう。
「だが、俺が預けられた孤児院もまた、大飢饉によって苦しんでいた」
そして困り果てた孤児院の院長は失踪し、そこに預けられていた孤児たちは政府によって奴隷身分に落とされた。
じつに勝手極まりない所業である。
その後ザイフェルトは、奴隷として半世紀も重労働に身をやつす生活を送ってきたそうだ。
彼は今年で五十五歳になる。
「だが、俺は俺で、奴隷になったことに納得がいかず、雇い主を襲ったり、盗みを働いたりした。その度に捕らえられ、監獄を出たり入ったりと繰り返しているというわけだ」
言われなき理由で、理不尽に奴隷に落とされる。
誰だって、納得はいかないだろう。
僕自身、罪人になったことに納得がいかないのだ。
「これを見ろ」
ザイフェルトはそう言うと、上衣をめくり、背中を見せた。
罪人の烙印が、九つもあった。
「罪を一つ犯すたびに、烙印が押されるんだ。手の甲の烙印は、初めの一回だけだがな」
「九回も、監獄の出入りを繰り返しているんですね」
「まぁ、見付かっていない罪も含めると、十数回にもなるがな」
罪の数だけ見ると、ザイフェルトはただの悪党である。
しかし、彼には事情があった。
農家の両親が孤児院に預けなければ、平民のまま、罪を犯すことなく生きていけたのではないのか。
もっと元を辿ると、貴族や商人が飢えに苦しんでいる民に食料を訳与えれば良かったのではないのか。
王族や貴族、役人だけが贅沢な暮らしを送れる身分制度が良くないのではないのか。
この国は、かなり腐っている。
0
あなたにおすすめの小説
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件
月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ!
『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』
壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティーで地味な【鑑定】スキルを使い、仲間を支えてきたカイン。しかしある日、リーダーの勇者から「お前はもういらない」と理不尽に追放されてしまう。
絶望の淵で流れ着いた辺境の街。そこで偶然発見した古代ダンジョンが、彼の運命を変える。絶体絶命の危機に陥ったその時、彼のスキルは万物を見通す【神の眼】へと覚醒。さらに、ダンジョンの奥で伝説のもふもふ神獣「フェン」と出会い、最強の相棒を得る。
一方、カインを失った元パーティーは鑑定ミスを連発し、崩壊の一途を辿っていた。「今さら戻ってこい」と懇願されても、もう遅い。
無能と蔑まれた鑑定士の、痛快な成り上がり冒険譚が今、始まる!
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
無属性魔法しか使えない少年冒険者!!
藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。
不定期投稿作品です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる