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【第三章】刺客戦編
【第二十九話】死域と気
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季節は、冬に移っていた。
まだ雪が降るような時期ではなかったが、昼間は肌寒く、夜は耐えがたい寒さである。
ザイフェルトが言うには、どこの監獄でも、冬には凍死者が出るという。
もちろん、防寒具などはない。
囚人同士で身体を寄せ合い、独房では身体を小さく縮こめるしかないらしい。
僕とヘルベルトは独房なので、厳しい冬になりそうだった。
ある日のこと。
いつものように監視の目を盗んで護身術の稽古をしていると、ヘルベルトが言った。
「この所、私は驚いております。こんなにも早く護身術を会得するとは」
稽古を付けてもらってから、まだ数カ月である。
しかし、自分でも意外なほど、身体の覚えは良かった。
僕は日本に居た頃は、根っからの運動音痴だったのだ。
それが、ここ最近では、思ったように身体が動くようになった。
不思議な感覚である。
その事を話すと、ヘルベルトも不思議そうにしていた。
「もしかしたら、ユキト殿のジョブが関係しているのかもしれません」
僕のジョブは、【レジスタンス】だ。
ジョブという能力が具体的にどういったものなのか、僕にはほとんど分からない。
「そうかなぁ」
「ジョブに沿った行動をすると力が開花するという、国王の言葉が本当ならば、ですが」
この護身術の稽古が、反乱に関係しているから、僕の物覚えが良くなっているということだろうか。
感じたことがない感覚なので、はっきりとは分からない。
「しかし、この調子でいけば、【死域】を会得するのも、近いのかもしれません」
【死域】。
聞いたことがない、言葉だった。
「それって、一体なんなの?」
ヘルベルトは構えを解き、話してくれた。
「【死域】というのは、武術を極めに極めた者だけが到達することが出来る、境地のことです」
ゲームなどで言う、限界突破のようなことだろうか。
「ヘルベルトは、その【死域】というものを使えるの?」
「いえ、私などはとても。生涯を武術の向上に捧げ、それでもごく一部の者しか使えないと言います」
ヘルベルトが使えないのだから、僕が使えるようになるのは無理だろうと思った。
ヘルベルトの攻撃をかわすのが精一杯で、まだ勝ったことはないのだ。
道は遠い。
武術とはそういうものなのだと、思うことにした。
「まぁ、僕には縁のない話だよ」
そう言った直後、ヘルベルトから何か圧のようなものを感じ、無意識に僕は構えた。
「今、ユキト殿は感じましたでしょう」
ヘルベルトの姿勢は、全く変わっていない。
しかし、稽古で立ち会っているかのような、威圧感を確かに感じるのだ。
「どういう、ことなの?」
「【気】です。武術や戦士の才能を持つ者は、これを感じ取れるものなのです。また、厳しい修行を乗り越えれば、感じれるようになるのです」
ヘルベルトはただ直立しているだけなのに、身の危険を感じるような気を放っていた。
まだ雪が降るような時期ではなかったが、昼間は肌寒く、夜は耐えがたい寒さである。
ザイフェルトが言うには、どこの監獄でも、冬には凍死者が出るという。
もちろん、防寒具などはない。
囚人同士で身体を寄せ合い、独房では身体を小さく縮こめるしかないらしい。
僕とヘルベルトは独房なので、厳しい冬になりそうだった。
ある日のこと。
いつものように監視の目を盗んで護身術の稽古をしていると、ヘルベルトが言った。
「この所、私は驚いております。こんなにも早く護身術を会得するとは」
稽古を付けてもらってから、まだ数カ月である。
しかし、自分でも意外なほど、身体の覚えは良かった。
僕は日本に居た頃は、根っからの運動音痴だったのだ。
それが、ここ最近では、思ったように身体が動くようになった。
不思議な感覚である。
その事を話すと、ヘルベルトも不思議そうにしていた。
「もしかしたら、ユキト殿のジョブが関係しているのかもしれません」
僕のジョブは、【レジスタンス】だ。
ジョブという能力が具体的にどういったものなのか、僕にはほとんど分からない。
「そうかなぁ」
「ジョブに沿った行動をすると力が開花するという、国王の言葉が本当ならば、ですが」
この護身術の稽古が、反乱に関係しているから、僕の物覚えが良くなっているということだろうか。
感じたことがない感覚なので、はっきりとは分からない。
「しかし、この調子でいけば、【死域】を会得するのも、近いのかもしれません」
【死域】。
聞いたことがない、言葉だった。
「それって、一体なんなの?」
ヘルベルトは構えを解き、話してくれた。
「【死域】というのは、武術を極めに極めた者だけが到達することが出来る、境地のことです」
ゲームなどで言う、限界突破のようなことだろうか。
「ヘルベルトは、その【死域】というものを使えるの?」
「いえ、私などはとても。生涯を武術の向上に捧げ、それでもごく一部の者しか使えないと言います」
ヘルベルトが使えないのだから、僕が使えるようになるのは無理だろうと思った。
ヘルベルトの攻撃をかわすのが精一杯で、まだ勝ったことはないのだ。
道は遠い。
武術とはそういうものなのだと、思うことにした。
「まぁ、僕には縁のない話だよ」
そう言った直後、ヘルベルトから何か圧のようなものを感じ、無意識に僕は構えた。
「今、ユキト殿は感じましたでしょう」
ヘルベルトの姿勢は、全く変わっていない。
しかし、稽古で立ち会っているかのような、威圧感を確かに感じるのだ。
「どういう、ことなの?」
「【気】です。武術や戦士の才能を持つ者は、これを感じ取れるものなのです。また、厳しい修行を乗り越えれば、感じれるようになるのです」
ヘルベルトはただ直立しているだけなのに、身の危険を感じるような気を放っていた。
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