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【第一章】旅立ち
【第一話】目が覚めると
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フカフカのベッドの上で、目が覚めた。
俺の部屋ではない。
目を開ける前からそれは気付いていた。
「ここは」
身体を起こし、部屋を見渡した。
テーブルやタンスなど、家具は全て木製だった。
家電と思われる物は、ひとつも見当たらない。
現代文明の物と思われる物品自体、この部屋には無かった。
窓から外を見ると、海が見えた。
港と、帆船。
街にある建物のほとんどが、石造りである。
ここが日本ではない事は、景色を見てすぐに分かった。
なぜここに寝ていたのか。
俺はベッドから出て、部屋の中を調べた。
タンスの中や机の引き出し、ベッドの下まで覗き込んだ。
俺の私物は、ひとつもない。
スマートフォン、財布、メガネさえ無い。
「そう言えば、メガネを掛けていないのに、視界がハッキリとしている・・・」
全く、不可解なことばかりだった。
服装はジャージで、靴下は履いていない。
ベッドの脇に置いてあったスリッパを履いて、俺は部屋から出てみる事にした。
「あぁ、目が覚めたかい」
階下に行くと、厨房で調理をしていた中年女性が言った。
「あの、ここは?」
「ここはあたしが切り盛りしている宿屋さ。と言っても、客はあんただけなんだけどね」
俺は客として、この宿屋に泊まっている事になっているのか。
「俺、お金が」
困惑していると、厨房の女性は笑顔で言った。
「あぁあぁ、お代は気にしなさんな。浜辺で倒れていた所を、あたしが勝手に連れて来たんだ」
「浜辺で、倒れていた?」
ここ最近で、海に行ったことは無かった。
記憶を失っているのだろうか。
「なにさ、覚えてないのかい?」
「はい」
「じゃあ、名前は?」
「冬崎・・・、雪斗」
女性はきょとんとした顔をして、また笑った。
「ユキトね。変わった名前してるんだね」
初めて言われたことだった。
会ったことも調べたことも無いけれど、探せば同名くらいは存在している名前だろう。
「あたしはサーラン。さっきも言ったけど、この宿屋の主人さ」
サーランと名乗った女性は、調理の手を止めて右手を差し出した。
俺は握手をし、何とか笑顔を作った。
「もうすぐ朝食が出来るよ。そこのテーブルに座りな!」
促されるまま、俺は席に座った。
ベーコンエッグと数種類のパン、スープにヨーグルトまで付いた朝食だった。
「で、ユキトは何で浜辺で倒れていたのか覚えていないんだね?」
厨房ごしに、サーランが話し掛ける。
「何も、分かりません」
「これまではどこに住んでたんだい?」
「岐阜県です。だから、なおさらどうして海に居たのか分からないんです」
「えっ、ギフケン? 聞いた事ない街だね。それはドラシア王国の領内かい?」
フォークを持つ俺の手が、止まった。
俺の部屋ではない。
目を開ける前からそれは気付いていた。
「ここは」
身体を起こし、部屋を見渡した。
テーブルやタンスなど、家具は全て木製だった。
家電と思われる物は、ひとつも見当たらない。
現代文明の物と思われる物品自体、この部屋には無かった。
窓から外を見ると、海が見えた。
港と、帆船。
街にある建物のほとんどが、石造りである。
ここが日本ではない事は、景色を見てすぐに分かった。
なぜここに寝ていたのか。
俺はベッドから出て、部屋の中を調べた。
タンスの中や机の引き出し、ベッドの下まで覗き込んだ。
俺の私物は、ひとつもない。
スマートフォン、財布、メガネさえ無い。
「そう言えば、メガネを掛けていないのに、視界がハッキリとしている・・・」
全く、不可解なことばかりだった。
服装はジャージで、靴下は履いていない。
ベッドの脇に置いてあったスリッパを履いて、俺は部屋から出てみる事にした。
「あぁ、目が覚めたかい」
階下に行くと、厨房で調理をしていた中年女性が言った。
「あの、ここは?」
「ここはあたしが切り盛りしている宿屋さ。と言っても、客はあんただけなんだけどね」
俺は客として、この宿屋に泊まっている事になっているのか。
「俺、お金が」
困惑していると、厨房の女性は笑顔で言った。
「あぁあぁ、お代は気にしなさんな。浜辺で倒れていた所を、あたしが勝手に連れて来たんだ」
「浜辺で、倒れていた?」
ここ最近で、海に行ったことは無かった。
記憶を失っているのだろうか。
「なにさ、覚えてないのかい?」
「はい」
「じゃあ、名前は?」
「冬崎・・・、雪斗」
女性はきょとんとした顔をして、また笑った。
「ユキトね。変わった名前してるんだね」
初めて言われたことだった。
会ったことも調べたことも無いけれど、探せば同名くらいは存在している名前だろう。
「あたしはサーラン。さっきも言ったけど、この宿屋の主人さ」
サーランと名乗った女性は、調理の手を止めて右手を差し出した。
俺は握手をし、何とか笑顔を作った。
「もうすぐ朝食が出来るよ。そこのテーブルに座りな!」
促されるまま、俺は席に座った。
ベーコンエッグと数種類のパン、スープにヨーグルトまで付いた朝食だった。
「で、ユキトは何で浜辺で倒れていたのか覚えていないんだね?」
厨房ごしに、サーランが話し掛ける。
「何も、分かりません」
「これまではどこに住んでたんだい?」
「岐阜県です。だから、なおさらどうして海に居たのか分からないんです」
「えっ、ギフケン? 聞いた事ない街だね。それはドラシア王国の領内かい?」
フォークを持つ俺の手が、止まった。
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