座敷童様と俺

渡辺 佐倉

文字の大きさ
5 / 31

1-5

しおりを挟む
 化け物は食わなくても死なない。
 彦三郎の言葉通り、台所に冷蔵庫はあったが中身が何もない。

 化け物は死ななくても、人は食事をしなければ死ぬ。
 本家の親戚は帰り際に現金を少しばかり置いていった。それに、家を出る時に母にも少しばかりおこずかいだと言われて現金を持たされた。

 この年になっておこずかいというのも笑っちゃう話だけれど、おこずかいが似合いそうな座敷童様はこの家から出られない。

「何か、食べたいものはあるか?」

 彦三郎にこの部屋を使えと宛がわれた部屋に荷物をおいて、それから建物の中を一人でざっと見て回った。
 あの札だらけの部屋の雑誌だのなんだのをざっと片付けた後、元々客間であろうソファーの置いてある部屋でゴロゴロしている彦三郎に声をかける。

「あ? そうだな。
あのアイスってやつがまた食ってみたいな」

 妖怪とアイスの組み合わせは、なんていうか意外で少し面白い気がした。

 けれど、面白いと思えたのは屋敷を出て、スマートフォンで近所のスーパーを調べた瞬間までだった。

 このあたりに店舗らしい店舗は無い。
 一番近い店でも片道3キロほどだ。バスは1日数本しかないし、タクシーを呼ぶような金も無い。

 もしかして、このとけやすい時期にアイスを頼んだのは嫌がらせの一種なのだろうかと玄関の前で途方に暮れたところで室内から声が聞こえる。

「納屋に自転車ってやつが置いてある筈だからそれを使え!」

 ところで、兄さんは自転車って乗ったことあるかい? 変な質問だと思った。
 大体の人間が自転車には乗れる。
 大人になって最近乗ってないという人間はいるだろうけれど、乗れない人間は少数派だ。

 それを態々聞くことに違和感があるけれど、それよりも自転車を納屋から出すことに考えが移ってしまう。

 納屋というよりは普通の物置小屋があってその中に、最近買ったように見える自転車が置いてあった。
 あの子供は外に出れないのに当たり前の様にある自転車は少し奇妙だが、それよりもタイヤに空気がきちんと入ってそうなことの方が重要に思えた。

 小さなスーパーへの道は車も人もいない。
 田んぼの間を自転車で走るのは思ったよりも気持ちがいい。今日初めて少しだけ楽しいと思ったところで、今日どころじゃなくて最近楽しいなんて考えていなかったことに気が付いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

煙草屋さんと小説家

男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。 商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。 ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。 そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。 小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...