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座敷童について、スマートフォンで調べる。
けれど、物語の中の座敷童が必ずしも現実の彦三郎とイコールでつながるかさえ分からない。
そもそも彼の髪の毛は少し薄い茶色でややくせ毛ではあるものの、別に割と現代風だし、それに着物を着ているところは見たことが無い。
普通に毎日着替えて、適当に洗濯機の横の籠に脱いでいる。
風呂も気が向けば入っているし、別に異臭もしない。
それが、一般的な座敷童なのかは分からないし、そもそも知る方法が無い。
けれど、週二度ほど届く大手通販会社の段ボール箱で彼がどんな生活をしていたのか少しだけ分かる。
妖怪は食べなくても死なない。そう言っていたから食べ物はほとんど何も無かったのかもしれない。
「来客対応位してくれてもいいんじゃないですか?」
ピンポーンという音の度に出ていくのは面倒だ。
そもそも到着する荷物はほとんど彦三郎のものなのだ。
「あ? 俺は門脇以外の人間からはみえねーよ」
まるで一般常識をなんで知らないと尋ねるみたいに言われる。
「は?」
「姿も見えないし、声も聞こえない。
まあ、たまに足音位は聞こえる事があるらしいけどな」
妖怪なんぞ、そういうもんだろ。彦三郎はニヤリと笑った。
「だって……、は?」
目の前に彦三郎はいるし、そもそも着ているのは人間用の服だし、そもそも俺が洗ってる。
彦三郎がもし見えないとしても、少なくとも服は見えるだろ。だって、通販サイトから実際に届いてるのだ。
「妖怪っていうのはそんなもんだ」
そもそも、それ言いだしたら、俺が食べてるもんは栄養になってるのかとか、逆に食べなかった時の栄養は何で補完してるのかってなるだろう?
「だから、お世話係が面倒をみるんだよ」
よろしくな、兄さん。
もう何度目か分からない台詞を聞く。
けれど、もう自分の方が明らかに年下だと知っている。
なぜ、俺の事を兄さんと呼ぶのか、それが嫌味なのかも分からない。
「なら、せめて洗濯とか掃除とかやった方がよくないですか?」
「俺はちゃんと、自分のすべき仕事はやってるだろ」
そう言うと彦三郎はテレビをつけて見始める。
CMでやっているカップラーメンをみて「こういうのって思ったより美味くないよな」と言う。
自分のすべき仕事。座敷童の彦三郎の仕事は家にいる事なのだろうか。
「俺の仕事は憑いた家に福を招くことだ」
だから、ここに閉じ込められている。
その言葉があまりにも平坦に発音されていて、思わず唾を飲み込む。
「閉じ込められている……?」
出会った日にみたバチバチとした光と、それに彦三郎の部屋を中心にベタベタと張り付けられた札を思い出す。
彦三郎は目を細める。
ぴしりーー
柱がきしむ音がする。
それがいわゆる家鳴りと呼ばれる現象だということに気が付くのに時間がかかった。
家の老朽化による現象だと聞いただろうか、それとも妖怪の本で怪異として見たのだろうか。
少なくとも今回の件が、怪異なのが分かる。
それに、目の前の彦三郎が少しばかり怒っているのも分かる。
ギシギシと家が鳴り出している。
台に置かれたテレビが揺れて落ちそうになっている。
「なんで俺のことを閉じ込めている門脇が、俺に指図するんだ?」
最初にここに来た日、本家の男が言っていた言葉がおぼろげながら頭に浮かぶ。
とにかく言うことを聞いておけばいい旨伝えられた理由がようやく分かった。
癇癪を起す子供よりもひどい。
おいてある雑誌が床から浮いて揺れ始めている。
「ちょっ、まてよ」
兎に角、この状況を止めなければならないことだけは、座敷童について碌に知らない俺でも分かる。
考えろ。今彼のこの怪異さえ止められれば充分だ。
不思議と怖いとは思わなかった。
「だって、今時男だって家事位できないとだろ?」
実際俺だって、滅茶苦茶教えられたから、最低限の家事ができる訳で。
今日日男だからって家の手伝いをしなくていいよなんていう家はそうそうない。
とはいえ、自分でも屁理屈だとは思う。
これは駄目だと不安になる。
けれど返ってきたのは思ったよりずっとあっけらかんとした声だった。
「今の若いもんていうのはそうなのか?」
怒りを感じさせない声だった。
ごく、その辺にいそうな子供の様な声だった。
「自分の事が自分でできた方が、色々過ごしやすいし……」
その自分ひとりをどうにかすることもできなくて、ここに来たとは言い出せなかった。
けれど、彦三郎は「ふーん。そんなもんかねえ」と言ったきりだった。
「じゃあ、まずあれだ。俺はパンケーキってやつが食ってみたいし作ってみたい」
いつの間にか、家鳴りもおさまっている。
多分きっと、彼の感情とあの現象は結びついてるんだろう。
「ホットケーキなら、なんとか教えられる……と思う」
ホットケーキなんてもう何年も食べていないし作っていない。
子供の頃作った記憶がおぼろ気にあるだけだ。
だけど、口から出まかせです。と言ってまた彼を怒らせたくは無かった。
けれど、物語の中の座敷童が必ずしも現実の彦三郎とイコールでつながるかさえ分からない。
そもそも彼の髪の毛は少し薄い茶色でややくせ毛ではあるものの、別に割と現代風だし、それに着物を着ているところは見たことが無い。
普通に毎日着替えて、適当に洗濯機の横の籠に脱いでいる。
風呂も気が向けば入っているし、別に異臭もしない。
それが、一般的な座敷童なのかは分からないし、そもそも知る方法が無い。
けれど、週二度ほど届く大手通販会社の段ボール箱で彼がどんな生活をしていたのか少しだけ分かる。
妖怪は食べなくても死なない。そう言っていたから食べ物はほとんど何も無かったのかもしれない。
「来客対応位してくれてもいいんじゃないですか?」
ピンポーンという音の度に出ていくのは面倒だ。
そもそも到着する荷物はほとんど彦三郎のものなのだ。
「あ? 俺は門脇以外の人間からはみえねーよ」
まるで一般常識をなんで知らないと尋ねるみたいに言われる。
「は?」
「姿も見えないし、声も聞こえない。
まあ、たまに足音位は聞こえる事があるらしいけどな」
妖怪なんぞ、そういうもんだろ。彦三郎はニヤリと笑った。
「だって……、は?」
目の前に彦三郎はいるし、そもそも着ているのは人間用の服だし、そもそも俺が洗ってる。
彦三郎がもし見えないとしても、少なくとも服は見えるだろ。だって、通販サイトから実際に届いてるのだ。
「妖怪っていうのはそんなもんだ」
そもそも、それ言いだしたら、俺が食べてるもんは栄養になってるのかとか、逆に食べなかった時の栄養は何で補完してるのかってなるだろう?
「だから、お世話係が面倒をみるんだよ」
よろしくな、兄さん。
もう何度目か分からない台詞を聞く。
けれど、もう自分の方が明らかに年下だと知っている。
なぜ、俺の事を兄さんと呼ぶのか、それが嫌味なのかも分からない。
「なら、せめて洗濯とか掃除とかやった方がよくないですか?」
「俺はちゃんと、自分のすべき仕事はやってるだろ」
そう言うと彦三郎はテレビをつけて見始める。
CMでやっているカップラーメンをみて「こういうのって思ったより美味くないよな」と言う。
自分のすべき仕事。座敷童の彦三郎の仕事は家にいる事なのだろうか。
「俺の仕事は憑いた家に福を招くことだ」
だから、ここに閉じ込められている。
その言葉があまりにも平坦に発音されていて、思わず唾を飲み込む。
「閉じ込められている……?」
出会った日にみたバチバチとした光と、それに彦三郎の部屋を中心にベタベタと張り付けられた札を思い出す。
彦三郎は目を細める。
ぴしりーー
柱がきしむ音がする。
それがいわゆる家鳴りと呼ばれる現象だということに気が付くのに時間がかかった。
家の老朽化による現象だと聞いただろうか、それとも妖怪の本で怪異として見たのだろうか。
少なくとも今回の件が、怪異なのが分かる。
それに、目の前の彦三郎が少しばかり怒っているのも分かる。
ギシギシと家が鳴り出している。
台に置かれたテレビが揺れて落ちそうになっている。
「なんで俺のことを閉じ込めている門脇が、俺に指図するんだ?」
最初にここに来た日、本家の男が言っていた言葉がおぼろげながら頭に浮かぶ。
とにかく言うことを聞いておけばいい旨伝えられた理由がようやく分かった。
癇癪を起す子供よりもひどい。
おいてある雑誌が床から浮いて揺れ始めている。
「ちょっ、まてよ」
兎に角、この状況を止めなければならないことだけは、座敷童について碌に知らない俺でも分かる。
考えろ。今彼のこの怪異さえ止められれば充分だ。
不思議と怖いとは思わなかった。
「だって、今時男だって家事位できないとだろ?」
実際俺だって、滅茶苦茶教えられたから、最低限の家事ができる訳で。
今日日男だからって家の手伝いをしなくていいよなんていう家はそうそうない。
とはいえ、自分でも屁理屈だとは思う。
これは駄目だと不安になる。
けれど返ってきたのは思ったよりずっとあっけらかんとした声だった。
「今の若いもんていうのはそうなのか?」
怒りを感じさせない声だった。
ごく、その辺にいそうな子供の様な声だった。
「自分の事が自分でできた方が、色々過ごしやすいし……」
その自分ひとりをどうにかすることもできなくて、ここに来たとは言い出せなかった。
けれど、彦三郎は「ふーん。そんなもんかねえ」と言ったきりだった。
「じゃあ、まずあれだ。俺はパンケーキってやつが食ってみたいし作ってみたい」
いつの間にか、家鳴りもおさまっている。
多分きっと、彼の感情とあの現象は結びついてるんだろう。
「ホットケーキなら、なんとか教えられる……と思う」
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