座敷童様と俺

渡辺 佐倉

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 そういえば、影宮さんとやらが来た時に、新年会がどうたらと言っていたという記憶はある。
 まるで、今回のためにという様な言い方を彦三郎をしていたけれど、そんなことは無い。

 食べ物はどこかで買ってくればいいだろうと伝えたのに、「供物の様なもんだから」と彦三郎は言った。
 お供えの事なんだろうけれど、そもそもうちの実家には神棚なんてものは無かったし、仏壇も無い。お供えをすることが無い。
 親戚の家に持ってくる手土産だって基本的に買ってきたものだ。

 それで問題になったことは無い。

「彦三郎も手伝うって事だよな」

 最近は名前を呼ぶことを許容されている。
 座敷童としての名前なのかは怪しいけれど、別にその辺はどうでもいい。

「へいへい。仕方がねーな」

 頼んでいるのは彦三郎の筈だ。
 なのに、まるで俺が頼んでいる様な返事に「言い方!」と答えてしまう。

 彦三郎は怒るかと思った。家鳴りもしなかった。

 力がさらに弱まったんじゃないかと彦三郎の顔をよくよくみると、彼は笑っていた。とても面白そうに笑っていたのだ。




「メニューは、まずはお稲荷さんは絶対に必要だ」

 それから、団子だ。これを好む妖怪は結構多いんだ。

「お稲荷さんって狐とかそういう?」
「神社にいる様なのは神格だからちょっと違うが、割と動物系の妖怪は好きだぜ」

 食べなくても妖は死なないと言っていた彦三郎が生き生きと話している。

「じゃあ、むじなそばも人気なのか?」
「む……?なんだそりゃあ」

 彦三郎に返されて作ったことがない事に気がつく。

 もうすぐ年末だ。年越しそばにしてもいいかもしれない。

「たぬきときつねがのってるそばだよ」
「そりゃあ、いいな」

 じゃあ後は……。と彦三郎が紙にあれこれと書き出す。

 どれもものすごく高級という訳ではないが、調理の仕方を知らないものもある。
 母に電話を入れたら教えてくれるだろうか。

 そんなことを考える。




 今年の夏だったら同じことを考えただろうか。
 それもよく分からない。

 彦三郎の事をでわだかまりが無い訳ではない。
 けれど、嬉しそうに電話に出た母はいなり寿司だけでなく、おはぎとそれから何か温かいものがあった方がいいとけんちん汁の作り方を教わった。

「お母さん最近キッシュが作れるようになったのよー」

 朗らかに言う母に美味しそうだねと返すと、作ったの送るわよと言われる。

 ものすごく食べたかったわけではない。けれど別に嫌な気持ちにもなっていない。

「なんか嬉しそうだな」

 電話を切った後、顔を合わせた彦三郎にそう言われる。
 自分でもよく分からない。
 妙にホカホカしたような気分だったことは確かだ。



 二日後キッシュが届いた。
 他何品かの総菜と、丁寧なレシピが添えられている。

「そもそも、この家オーブンないのにな」

 近所にコンビニも無いので電子レンジすら今のところない。
 台所にかなり古い型のものが置いてあったけれど壊れて動かなかったのだ。

 送られてきたキッシュは魚焼きグリルで温めた。

「美味いなこれ」

 手づかみでキッシュを食べながら彦三郎は言う。
 確かに美味しい。それに、いつも家で食べていた母のご飯の味がする気がする。

「オーブン買おうか?」

 彦三郎に聞くと「いいんじゃねーの」と彼は返した。

 母からのメッセージにも書いてあったがある程度作り置きをしないと、宴会の人数が多い場合どうにもならなくなるだろうとのことだ。

 であればオーブンも電子レンジも必要なのかもしれない。

「あれだな。プリンを作れるぞ」

 彦三郎は全般的に子供みたいな味覚をしている。
 プリンもかなり好きだったので、そう伝えると「じゃあ、俺はあのバケツプリンってやつをしてみてえな」とこたえた。

 思わず笑ってしまった。
 バケツサイズはオーブンにはきっと入らない。

 だけど、まあそんなことはどうでもいい。
 ちょっと楽しみなのだ。

「今日これから買いに出るか……」

 午後は丸ごとつぶれてしまうけど仕方がない。

 引きこもり生活で落ちてしまった体力は大分戻っている。多分オーブン位運んで帰れるだろう。




 オーブンは重かったし、プリン型は無駄にかさばった。

 通販で良かったんじゃないかとも思ったけれど、インターネットで調べながら作ったプリンは温かくて美味かった。

「サクランボってやつが乗ってれば写真と一緒なのになあ」

 子供のころよくサクランボをねだっていたことを思い出す。

「じゃあ、次買い物行ったとき買ってくるよ」

 生クリームも買ってこよう。あれは子供時代の御馳走だった。
 今もきっと御馳走だ。

「だから、明日から大掃除頑張るぞ」

 人、ではなく妖怪だけれど、誰かを家に招くときは部屋は綺麗な方がいいだろう。妖怪の中での常識的にはどうだかは知らない。
 何となく、汚いのが好きそうなイメージも無くはないけれど、彦三郎に聞いてもどうしようもない気がした。

 彼と初めて会った時、部屋は滅茶苦茶だったけれどあの状態を彦三郎が好きだったかと言えば、また別の話だと思う。

「まあ、家の中の掃除だけなら手伝ってやるよ」

 仕方が無さそうに彦三郎が言った。
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